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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■第一幕:原石

 奇襲。それは戦ううえで効果的な戦術の一つである。
「せぇいっ!」
 東雲 風里(しののめ かざり)は腰から引き抜いたナイフで目の前に立つ男、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に斬りかかる。
 だがそれは先日同様に大振りで、洗練などされていない素人の技だ。
 大石は薄く笑みを浮かべると腰に下げている刀に手をかけたまま、素早く横に移動した。
 ナイフの軌道を理解した上での避け方だ。確実に避けるという手段ではこれに勝る方法はないだろう。
「いきなり斬りかかってくるたァ……威勢のいい嬢ちゃんだ! けどよォ……甘ェ! こんなヘボい攻撃簡単に避けれるぜ」
 彼は避け様に刀の柄で風里の脇腹を突いた。
 その速さは風の如くである。
「ぐっ!?」
 痛みに耐えかね、その場に崩れ落ちる。
「このおおおおっ!!」
 風里の様子を見て、仇討というわけでもないのだろうが、一撃は入れてやろうという気迫で優里が大石に斬りかかる。
 手にしているのは竹刀だ。
「気迫だけは一人前だなァっ!」
 迫る竹刀を片手で払い、風里の時と同じように刀の柄で脇腹を突く。
 倒れたいくらいに痛いはずなのだが、そこは男としてのプライドか、倒れずに我慢している。
 気迫の強さは一人前という大石の言葉通りといえる姿だ。
 大石は振り返ると二人に告げた。
「いい事教えてやる。てめぇ等が踏み込んだのは新天地っつっても楽園じゃねぇ……弱肉強食の修羅の地だ。俺以上の強者なんてそこら中ごまんといるぜ? だからよォ……」
 ピリピリと空気が張りつめていく。
 彼から放たれるのは近づいた者を切り裂いてしまうような殺気だ。
「殺す覚悟も死ぬ覚悟もねぇ……そんなお遊戯気分ならとっとと帰りな? 糞餓鬼共」
 厳しい現実を生き抜いてきた者の言葉だった。
 地球で普通に学生として暮らしている者ならばその場で泣き崩れていてもおかしくない、それほどの恐怖が大石からは感じられる。だが――
「ぐ、ぅ……」
「……くっ!」
 睨むように視線をぶつけてくる二人から大石は怒りに近いものを感じた。
 まるで今にも飛びかかってきそうな気迫を感じられる。
「……くくっ、ははは。悪くねぇなァ、どっちともよォ。ハツネ、こいつら見込みあるかもしんねぇぞ?」
 彼の背後、漆黒のコートに身を包んだ少女が楽しそうに三人の様子を眺めている。少女の名前は斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)、大石と同じく新米冒険者の訓練のために呼ばれた者たちの一人だ。
 少女は痛みに苦しんでいる二人に近づくと口を開いた。
「クスクス……初めまして、優里お兄ちゃんに風里お姉ちゃん♪ 斉藤ハツネなの、よろしくなの♪」

                                   ■

 休憩を挟み、大石に代わって斉藤による訓練が始まった。
「ハツネはね……お兄ちゃん達に『フラワシ』について教えてあげるの」
「フラワシ?」
 二人の疑問に少女はクスクス、と笑うと言った。
「まずは習うより慣れろなの……ギルティ!」
 彼女が『何か』の名前を呼んだ。特に何かが変わった様子はない。
 だが風里は何かを感じたようで周囲を警戒した。何も変わった様子はない。
 少なくとも目に見える範囲では変化はないようだった。
 だが違和感はすぐにやってきた。
「ひゃっ!?」
 風里が可愛らしい悲鳴をあげた。
「ど、どうしたのさフウリ?」
「いま、なんかネトッとした何かが……なんでもないわ」
「――なんでもないわけないじゃないか」
 二人の様子を眺めてクスクスと斉藤は笑う。
「これがフラワシ。降霊者以外には基本的に見ることができない存在なの」
 誰も、何も触れていないというのに地面に何かが描かれていく。
 そこには表現し難い、少なくとも人ではない何かの存在が描かれた。
「こういう見た目なの……今後、ハツネみたいな人と戦うことになったら気を付けてね」
 その言葉に優里と風里の視線が厳しくなった。
 つまり、目に見えない敵と相対する危険性がある、という事実だからだ。
 現状二人にはそんな相手に対処できる方法はない。
「フラワシの事わかってくれた? ……だったら、褒めて欲しいの」
 斉藤は優里に近づくとじっと見つめてきた。
「な、なに?」
「ちなみに……お兄ちゃんはロリコンさん?」
「ろりっ!?」
 いきなりの発言に優里は絶句する。
「ち、違うよ! 僕はいたってノーマルな嗜好だから!!」
「違うの? なら……」
 いきなり抱きついてきた。しかしさきほどまで少女だった彼女の姿はそこにはない。
 優里と同じ年齢くらいの女の子の姿となっていたのだ。
「え、ちょ、なんで!? どうしてっ!?」
 頬を染めて、何が起きたのか分からずパニックを起こす。
 そんな優里の様子を見ていた風里は冷たい視線を彼へ送る。
「さあ、褒めてなの♪」
 可愛らしい女の子の声が優里の耳に届いたとき、風里の拳もまた優里の額に届いた。
 ゴンッ、という鈍い音が鳴り、優里は斉藤を抱えたままその場に倒れた。
「ハツネ……自重だ」
 大石は倒れても離れようとしない斉藤に言った。
 このあとしばらく風里の機嫌が悪かったのは言うまでもない。