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リアクション
★第四話「諸君。録画の準備はOKか?」★
◆
「さて……今日はお祭り制覇を目指していきましょうか! アーデルさん」
元気よく言ったザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)に、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が呆れた顔をした。
「なんなのじゃ。その『お祭り制覇』とやらは」
「え? ノリで言ってみただけですよ。楽しんだもの勝ちと言いますしね」
「おまえのぅ」
「とりあえず屋台や出店を色々と回ってみましょうか。買い食いがお祭りの醍醐味ですからね。アーデルさんは何が好きですか?」
「……そうじゃのう……お。綿あめが売っておるな。どれ、買ってみるか」
注意しつつも、アーデルハイトも祭りを楽しんでいるようだった。そんな姿を見れるだけで、ザカコも自然と笑顔になる。
「お店で食べるのもいいですが、やっぱりお祭りならこの雰囲気の中でそのまま食べるのが一番ですね」
「そうじゃな」
たこ焼きにお好み焼きに人形焼きに……と買っていると、ザカコがハッとした。焼ものばかりになっている。
祭りと言えば食べ物ばかりではない。射的や金魚すくいに輪投げといったアトラクションも楽しまなくては。
「あれとか楽しそうですね。一緒にやってみませんか」
「ほほお。金魚すくいとは懐かしいの。どれ、やってみるか」
そうにやりと笑うアーデルハイト。
この後、アーデルハイトがすべての金魚をすくってしまい、店主を涙目にしてしまった。もちろん、そんなにたくさんの金魚はいらないので返したが。
金魚すくいの店を後にして、再び歩き出す。
「さすがですね」
「まあの。お前も中々やるんじゃの。じゃあ次は……」
そう笑うアーデルハイトを見て、これからもずっと。この笑顔を守っていきたい。
ザカコは改めて思いながら、今はただ祭りを思い切り楽しむのだった。
「お祭りはまだまだこれからですよ。次はどこに行きますか?」
「そうじゃな。射的でもどうじゃ?」
「いいですね! さ、行きましょう」
◆
「人手不足は、何処も有りますからねえ……お手伝いしましょうか」
そう微笑んで手伝いを申し出た神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、たった今喧嘩の仲裁をしてきたところだった。
楽しいだけで終われば何も問題はないのだが、楽しいゆえに酒を飲み過ぎ、理性を失って度を越してしまうこともある。
祭りをより多くに楽しんでもらうためにも、地道に見回りをしていくことは大切だった。
と、再び電話が鳴り、また別の場所でも騒ぎが起きているらしいと連絡が入る。翡翠たちが近かったので、向こうことになる。
「さ。次の場所へ行きますよ、レイス……レイス?」
反応がなかったので振り返ると、レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)はなんでもないと首を振る。
「(祭、参加したかったんだが、フ、自棄だ。仕事して忘れてやるさ……一時的に)……ほら、行くぞ」
心のうちで忙しくて都合の合わなかった恋人のことを思い、ため息つきながらレイスは現場へと向かう。
「はい……おや。どうしましたか?」
レイスのそんな様子に、翡翠は気づかなかったふりをして、近くで泣いている子供へ駆け寄る。どうも迷子のようだ。
「この先を曲がったところだそうです。そちらはお願いしますね」
「ああ」
「自分は翡翠と言います。あなたのお名前うかがってもいいですか?」
翡翠は子供の前でしゃがんで優しく声をかけた。
やはりというべきか。酔っ払い同士のいさかいらしい。レイスははぁっとため息をついてから、近くにあった水入りのバケツを手に取り
「はしゃぎ過ぎだ。頭、冷やせ」
「ぶへっ」
と、掴みあっている男たちにかけた。水をかけられた2人は茫然としていたが、目は覚めたのだろう。互いにぺこぺこと頭を下げ合っていた。
そしてレイスはバケツを元の場所に戻し、落ちていたゴミを拾ってゴミ箱へ入れる。口は悪いが勤務態度はまじめだ。
キキーーーッ!
けたたましい音が響いた。
「なんだっ?」
「レイス! 何事ですか?」
「わからねぇ。……あっちだな」
迷子を本部へ送り届けて戻ってきた翡翠とともに、音の方角へと向かう。
少し前。
「今日は良い食材が大量に手に入ったであります」
吹雪は上機嫌でトラックを運転していた。荷台には繊月の湖で狩猟した危険なスッポンや魚が『生きたまま』入っている。
そんな時だった。子供が道路に飛び出て来たのは――!
吹雪はとっさにハンドルを切った。しかしトラックはバランスを崩して横転。軌跡的に怪我人もいなかったが、勢いで荷台から飛んでいったアイゼンが作った穴から食材たちが次々と外へ飛び出してきた。
そのまま街中へと逃げこんでいく食材たち。
「逃がさないでありますよ!」
吹雪もまたそれを追っていく。
「騒ぎはここから……って、なんだこれ!」
「数が多いですね。応援を呼びましょう」
こうして街の一部が、別の意味で騒がしくなっていった。
「……何かやらかすと思ったのよ」
その事態を知ってコルセアが頭を抱えたのは、3分後のことだった。
◆
さて、どうなる?
という緊張感とは無縁に、教導団一行の旅行は順調に進んでいた。
「あれが噴水?」
「猫の形してるーかわいい」
女性陣が喜んでいるのは、噴水広場にある猫のモニュメントだ。バスの中から通り過ぎただけだったが、他にも床に猫の足跡のようなものも付いていて、愛らしい落ち着いた広場なようだった。
今日は祭りのため、中にも露店があったが……残念ながら今日の予定には入っていない。
「……少し時間もありますし、整理しておきましょうか」
ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)はカメラを取り出し、撮影した映像を確認する。ユーシスは撮影係なのだ。
「なななは猫好きなのか?」
「うん。好きだよ! ゼーさんは?」
その横ではシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が金元 ななな(かねもと・ななな)と仲良く会話し、好きだよという純粋な言葉にドキッとしていた。自分に向けられた言葉ではないと知っていても、好きな相手からの言葉はどんなものでも心に染みわたる。
「俺もだ。あとで行く『にゃあカフェ』。楽しみだな」
シャウラ自身、動物は好きなのでどんな子たちがいるのだろうか、と2人で話し合う。ユーシスはそんな2人を見て、ぱしゃりと撮影。
それを皮切りに「こっちも」と声がかかったので、車内ではしゃぐ面々を撮影していった。
◆
「『ワイヴァーンドールズの 旅して乾杯』!」
「今回はここ、ニルヴァーナにある地下の街、『アガルタ』の魅力をお伝えしたいと思います」
噴水広場前でマイクをもっているのは五十嵐 理沙(いがらし・りさ)とセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の2人だ。
アイドルユニット『ワイヴァーンドールズ』として、旅番組企画の撮影に来ていた。
「この噴水広場は『アガルタ』のシンボルなんですよ」
「周りにはベンチもあるし、ところどころにこんな可愛い猫の足跡もついてるの。えーっと」
「緑やお花も植えられた広い空間ですので、散歩するのも気持ちいいですね。あとここは大通りが交差する場所でもあるため、ここからいろんなところにすぐ行けるようになってます」
ところどころ説明を忘れてしまう理沙を、セレスティアがフォローする。
「最近は地熱を利用してサウナ施設もできたそうですよ、リサ」
「へぇ〜、いいね。ちょっと行ってみない?」
「そうですね。折角ですし」
ということでサウナのシーンである。撮影準備はOKか? ……おや? 誰かきたみたいだ。
◆
「最近の肌は大丈夫かな? なんか荒れてないかな? 臭いとか大丈夫かな?
……ああ、考え出したら不安なってきちゃったよ」
手の甲を見下ろし、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が悩ましげなため息をついた。大きな犬耳と1mもあるしっぽがへたれている。
このままでは恋人に抱きつかれた時、恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。
「……!
そうだ。祭り会場にサウナがあるからいってみよう! 体にたまった悪いのは汗として出しちゃえば!」
リアトリスは思いつき、さっそくサウナへ向かう。男女と別れた出入り口を、男の方へと入る。
「えっ?」
中で服を脱いでいた男性がぎょっとするが、リアトリスは気にせず……いや。隠れるようにへそ出しの、少々露出が高い女性用の水着へ着替え、男性専用のサウナへと向かっていった。
白く、ほっそりとした手足に浮かぶ汗。口から吐き出される息。肌をさするしぐさ。
リアトリスがサウナにいるのを見て、何人もの男性たちが間違えたと言う顔で去っていったのは仕方ないだろう。
しばらくのんびりとサウナで過ごす。
「ふぅ。そろそろ出ようかな。やりすぎも駄目だしね」
そう決めて水風呂に入って身体を冷やし、出ようとした時に水着がペロンとめくれてしまう。その瞬間はしっかりと目撃された。
だが平静を装ってサウナを出て、ぐびぐびと青汁を飲む。
(は……恥ずかしかった)
内心顔真っ赤っかなリアトリスだった……セイベツってなんですか?
◆
「ったく。いつまで待たせるつもりなんだ。自分から誘ってきたのに」
辻永 翔(つじなが・しょう)がそう言いながら待っているのは、恋人の桐生 理知(きりゅう・りち)だ。
アガルタにサウナができたときいた理知が、一緒に行こうと翔を誘ったのだった。
『翔くん、アガルタに行かない? 男女で入れるサウナあるんだって』
断る理由などどこにもなく、本日こうしてやってきたというわけだ。もうすでに水着へ着替えてサウナの入り口前で待っているわけだが……。
「お待たせ、翔くん! どうかなこの水着、似合う?」
ようやく聞こえた恋人の声に、遅いと文句を言おうとして翔は口を閉じた。やってきた理知は当然水着だったわけで(男女共用サウナは水着必ず着用)、少しの間言葉を失う。
豊かな胸。引き締まった腰。白い肌。
「……似合ってる」
「よかったぁ」
手をつないで2人一緒にサウナへ。
「そうだ翔くん。我慢勝負しよう。負けないよ! 私はガマン強いからね」
「いいけど……倒れるなよ」
「大丈夫!」
楽しげに入ってきた2人を見て、「リア充め〜」と男泣きをするものが何名かいたが、まあ気にしないことにして。
「う。意外と熱いかも……翔くんは平気?」
「ああ」
仲良く座って会話する。何気ない日常でも、大切な人と話すのはとても楽しいものだ。
「それでね……あ」
「どうした?」
話している途中、腕を振ったところでぷちっと音がして、理知が慌てて水着を押さえた。
「翔くん、水着の紐が切れちゃった。どうしよう……」
「なっ」
「放したらぽろって出ちゃうからまずいよね? 翔くん以外の人も居るし。って翔くんに見られるのも恥ずかしいよ〜」
「ちょっ、とりあえず落ち着けって」
1人慌てる理知をなだめ、翔は持ってきていたタオルを肩にかけて理知の上半身を包む。
「そろそろ熱くなってきたし出ようぜ」
「う、うん」
なんとか切り抜けた後、落ち込んでいるか恥ずかしがっているかのどちらかだろうと思ったが、
「ハプニングのあるデートもドキドキで楽しいね! 今度はスクール水着の方がいいかな?」
「……ま、たしかに楽しいな」
「うん! あ、アイス売ってるよ。一緒に食べよう!」
どこまでも前向きな彼女だった。
◆
こちらは女性専用サウナ。
足を踏み入れたのはノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)とアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)の2人。
「お誘い受けてくださって、ありがとうございました」
「ううん。ボクも暇だったし」
椅子に腰かけて、息を吐きだす。
「アゾートさんは付き合われている方はおられるんですか? アッシュさんとか」
「アッシュ? アッシュは友達」
「そうなんですか。でもアゾートさんは可愛いからモテそうですね。弾さんも、アゾートさんは綺麗だしかっこいいって言ってましたよ」
話しながらノエルはアゾートの胸を一瞬見て、安堵したような何とも言えない気分に浸る。決して大きいとは言えない自身のものを少し見下ろしてしまう。だがアゾートはあまり気にしていないようだった。
「どうだろ」
「……あまり恋愛とか興味は」
「面白い、とは思う」
「面白い、ですか」
「いつか調べてみたいね」
言葉の通り、今はあまり興味はないのだろう。淡々と答えていたアゾートがノエルを見る。
「そういうキミは? パートナーとか」
切り返される。
「弾さんですか? たしかに全く意識しないと言えば嘘になるかもしれないけど……今は、大切な家族、ですね。
あ、良かったらアゾートさん、弾さんをいかがですか?」
「そう……じゃあ、まずは友達から?」
軽く返しただけのはずが、アゾートからの意外な言葉に驚く。でもそんなやり取りも、どこか楽しい。
「ふふ。そうですね。弾さんも喜ぶと思います」
アゾートが積極的に話すことはなかったが、その後も2人は楽しく会話を続けたのだった。
◆
「ここがサウナね! 予想以上に広いわね」
「そ、そうですね」
サウナへやってきた理沙とセレスティア。当然水着だったが、理沙がカメラを持っていた。
「セレスの胸が視聴者的にはご褒美だもんね〜」
「り、リサ!」
(私の赤裸々な姿を中心に撮られてなるものか。むしろセレスの豊満な体を激写でサービス、ザービスよん)
怒るセレスティアだが、真っ赤な顔では迫力がない。どころか色気倍増だ。
「ごほん。こ、このサウナは男性用女性用の他にも、水着着用の男女共用サウナがあり、中もご覧のようにとても広くなっております。あと温度の種類もいくつかあるので、暑いのが苦手と言う方も一度挑戦してみてはいかがでしょう」
セレスティアは説明をすることで恥ずかしさから逃れようとしていた。時折胸を隠そうとするしぐさをしていたが、余計にえr……げふん。
きっとこの番組が放送される時には、大勢がテレビ前に正座待機していることだろう。
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