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冬のSSシナリオ

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フレンディス・ティラ

「マスター聞いてください!」
「お――オゥ、どうしたんだ一体。そんな血相変えて」

 いきなり部屋に乗り込んで来たかと思うと、顔を真っ赤にして詰め寄ってくるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、当惑気味にそう訊ねた。

「今そこでご近所のオジサンが木の剪定をしてたので、お手伝いしようとしたんです!」
「そ……そうか。手伝ったらいいじゃん」

 一体それの何に問題があるのかがまるで分からず、きょとんとした顔でいうベルク。

「違うんです!私が『お手伝いしましょうか?』って言ったら、そのオジサン、私の顔をジッと見て、『あーいや、気持ちだけ受け取っとくわ』って言うんです。そしたら、オジサンのお手伝いしてた男の子が、『ドジッ娘忍者さんに手伝ってもらったら、終わる仕事も終わんないからね』って!ヒドいと思いません!!ほとんど挨拶くらいしかした事無いような、名前も知らないような方から、『ドジっ娘』なんて言われるなんて!!」
「ま、まぁ……確かに、ちょっと失礼かもな」
「だから違うんですよ!そういう事じゃないんです!どうしてご近所さんまで、『ドジッ娘忍者』なんてデマを信じ込んでいるかって事です!」
「さ、さあ……。どうしてかな?」

 喉まで出掛かった「いやでもそれデマじゃなくて事実だろう」というセリフをグッと飲み込んで、ベルクはそうとぼけてみせる。
 ここで迂闊な事を言っては、却ってフレの怒りを煽る事になりかねない。

「とにかく!私決めました!」
「き、決めたって、何を?」
「明日から、ご近所様のお困り事のお手伝いをします!目指すは、『ご近所に優しい忍者さん』です!」

 こぶしを振り上げてそう宣言するフレンディス。

 彼女を見つめるベルクの頭の中を、過去にフレンディスがやらかした失敗の数々が、走馬灯のように走り抜ける。

(確か、受付嬢の時は立ってるだけで終わっちまって……お化け屋敷の時はまるで迫力が無くて失敗……。ウェイトレスの時はやたらとお盆を落としまくった挙句、気合入れすぎて戦闘モードに入って叩きだされたっけーか?宅配ビザはいつの間にやら宅配侍になって……後は――)

 いい加減思い出すのもイヤになって思考停止に陥るベルク。
 その隣では、一人フレンディスが「よーし、ガンバルぞー!汚名挽回だー!」と息巻いていた。

(イヤイヤイヤ、汚名は挽回するもんじゃなくて返上するもんだから……)

 そう心の中でツッコミを入れつつも、「きっと挽回する結果になるに違いない」と確信に近い思いを抱くベルクであった。


 そして翌日――。

「うわ〜ん!聞いてくださいよマスター!」
「ど、どうした?今度は何をやらかしたんだ?」

 昨日と寸分違わぬ勢いで――しかも今日は目に涙を溜めて――部屋に飛び込んできたフレンディスに、半ば結論を予想しながらも、ベルクはそう訊ねた。

「違います!何もしてないんです!」
「なんだよ、いつぞやの受付嬢みたいに、ボーッとしてたら終わっちゃったのか?」
「だから違うんですよ!そういう事じゃないんです!誰一人として、私にお手伝いさせてくれないんですー!」
「な、なるほど……」

 どうやら「ドジっ娘忍者」の噂は、こちらの想像以上に広まっていたらしい。皆、フレンディスに何か任せるとロクな結果にならないと、知っているのだ。

「チャンスすら与えられないなんて……こんな屈辱、耐え切れませんー!!」

 ベルクの膝の上で、「身も世もない」といった風情で泣き崩れるフレンディス。

(これは……流石に可哀想かな……)

 その頭を優しく撫でてやりながら、「さてどうしたものか」と一人思案に暮れるベルク。


 そして、さらに翌日――。

「あー、フレンディスさん。実はあんたに、境内の落ち葉の掃除を頼みたいんじゃが」
「掃除ですね!ハイ、喜んで!!」

 手伝い仕事を持ち込んできた神主さんに、どこぞの居酒屋のような返事を返しながら、嬉々として近所の神社に向かうフレンディス。
 モチロンこれは、ベルクの差金である。
 フレンディスのあまりの落胆ぶりを見るに見かねたベルクが、馴染みの神主に頼み込んで、回してもらったのだ。
 「もし何か会った時には、自分が全て責任を取る」という約束で。

(やれやれ、まずは何とかなったか……。問題はコレからだが……)

 その背中に向かって手を振りつつ、必死に【行動予測】を行うベルク。
 これまでやらかした数々の失敗データを分析し、予測される失敗に備えなければならない。

「フレが失敗して落ち込む位ならともかく、神社に被害が及ぶような事態だけは防がないとな――」

 そう独りごちながら、ベルクは、フレンディスの後を追った。


 しかしベルクの悲壮な覚悟を他所に、フレンディスの手伝いは意外なほどスムーズに進んだ。
 境内を埋め尽くす一面のイチョウの絨毯に、あまりに気合を入れて(【メンタルアサルト】全開)掃き過ぎた結果、竹箒を全て丸坊主にしたりとか(後でベルクが弁償した)、集めた落ち葉を、ゴミ捨て場と間違えて隣の家の庭に捨てたりとか(後でベルクが全て回収して捨て直した)、落ち葉と一緒に神主さんが大事に面倒見ていたコケまで根こそぎ除去してしまったりとか(後でベルクが全て植え直した)、その他にもまぁチマチマと些細なミスを犯したものの(後でベルクが以下略)、ついにフレンディスは、『奇跡的に』境内の掃除を最後までやり遂げたのである。

「おぉ、ご苦労さん。すっかりキレイになったな。また、頼むよ」
「ハイ、喜んで!!」

 神主さんの労いの言葉に、満面の笑みで答えるフレンディス。

(よ、よかった……。なんとか無事終わった……)

 その様子を境内のご神木の陰からそっと見守るベルクの胸にも、彼女と同じ――いや、もしかしたらそれ以上の――熱いモノがこみ上げる。
 ベルクは、目尻に浮かんだ涙をそっと拭うと、フレンディスに見つかる前にそそくさとその場を後にした。


 そして、さらに3時間後――。

「たっだいまぁー!只今戻りました、マスター!」
「なんだフレ、随分遅かったじゃねぇかって――な、なんだそれぇ!」

 目の前に広がる惨状に、思わず驚きの声を上げるベルク。

 そこには、戸口に立っている筈のフレンディスの姿は無く、山の様に積まれた、湯気を立てる焼き芋の山があった。

「いや〜。それが、帰り際に神主さんが、『焼き芋をするから食べていきなさい』って言うんでお手伝いしたんですけど、ちょっと芋の量を間違えちゃったみたいで……」
「いやコレ、ちょっと間違えたっていう量じゃないだろう!?」
「やっぱり、芋の入ったダンボール箱丸ごとって言うのは、マズかったですかね?」
「当たり前だ!!」
「そ、それでマスター。出来れば、一緒に食べて欲しいんですけど……」
「二人でこんなに食べきれる訳ないだろ!あー、もう!いいから一緒に来い!ご近所に配りに行くぞ!」

 フレンディスの返事を待たずに、焼き芋のみっしりと詰まったダンボールを抱えるベルク。

「あ!ちょ、ちょっと待って下さいよマスター!!」

 その後を、慌てて追うフレンディス。

(クソッ……まさか最後にこんな伏兵が待っているとは……迂闊だった……。『お手伝いは、無事に家に帰り着くまでがお手伝いです!』って、そういう事か!!)

 己の不明を恥じつつも、どうやって焼き芋を配り切ろうかと頭を巡らすベルク。
 結局、芋を全部配り終わる頃には、すっかり日が傾いていたのであった。

「でも焼き芋、皆さんに好評で良かったですね♪」
「ああ……そうだな……」

 芋配りに疲れ果て、ぐったりとしているベルクと、その肩にもたれかかりながら嬉しそうに焼き芋を頬張るフレンディス。

(ま、散々苦労したけど、フレが喜んでるからいいか……)

 そんな事を考えながら、焼き芋にかぶりつくベルク。
 彼女と一緒に苦労した後の焼き芋の味は、また、格別だった。