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・進路相談 その2


 月谷 要と別れ、榊 朝斗(さかき・あさと)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は面談室に足を踏み入れた。
「進路希望……の前に、卒業要件を満たしているかどうかだったか。二人とも、ちゃんと満たしているから大丈夫だ。そう不安そうな顔をしなくてもいい」
 転科したことによる不安はあったものの、必修は全て前期のうちに取り終えているから問題ない、とのことだった。総単位数も転科前に取得したものがそのままのため、むしろ必修以外は余分に取り過ぎているほどだ。
「よかった……」
「まずは一安心ね」
 二人揃って、胸をなで下ろす。昨年の6月事件の後、前年度の後期から超能力科の単位は取り始めていたが、今年度の前期中に超能力科の単位を可能な限り詰め込んだ甲斐があったというものだ。
「で、進路はどうするんだ? 今のところ、学院全体では卒業を期にニルヴァーナへ行くという生徒が多い」
「海京を離れるつもりはありません。まだ新体制が始まって一年ですし、今後のことがまだ気がかりですので」
 6月事件の顛末を知っている身としては、この体制が軌道に乗るまではできる限り関わり続けたい。先日の出来事もあり、今の海京にかつてのような不穏な空気が漂いつつあることも大きい。
「そうなると、学院に職員……あるいは教官として残るか、風紀委員なら海京警察に行くというの手だ。あとは……五艘科長にSURUGAグループへの就職を斡旋してもらうという方法もある」
 SURUGAといえば、イコン関連を中心に強い影響力を誇る、地球におけるパラミタ技術のトップ企業だ。半年前の「月神事件」の後、グループの中核会社である『スルガ重工』の社長であった五艘 桔梗がグループの会長に就任した。彼女は、五艘科長の母親である。
「うーん……その中なら海京警察ですね。委員長が今後に向けて色々頑張ってくれてることもありますし」
 パイロット科や整備科であればSURUGAもありだろうが、朝斗の方向性とは合致しない。かといって、教官として能力の使い方を教えられるかといえば、不安がある。
「海京警察は来年、契約者を中心とした特務機関を設けるそうだ。詳細は伏せられているが、風紀委員長が進めているのは、おそらくそれだろう」
「警察の中に、風紀委員受け入れる部署を用意する……ということですか?」
「厳密にはそうじゃない。警察全体で学院と連携を取るのは難しい。そこで、そのための組織を設けることになった。海京警察内にあるが、要は天学と海警のパイプ役だ」
 進めているのは委員長であることは確かなようだが、彼女の配属先がそこになるかどうかはまだ不明だ。最近は忙しいらしく直接顔を合わせる機会は少ないが、彼女は彼女で今後の土台を固めているようである。
(この前の事件の時、海京警察はすんなりと捜査協力を受け入れたみたいだけど……そういうことだったのか)
「……まあ、風紀委員を経験していれば、そこの配属になる可能性は高いだろう」
 今後のことを考えれば、卒業後はそこに行くのがベストのように思える。ただ、希望したからといって、必ず実現するとは限らない。
 とはいえ、今の海京警察は採用案内を見るに、契約者を増員する方向にある。実戦経験と海京の土地鑑を持っている朝斗たちならば、よほどのことがなければ落とされはしないだろう。
「さて、進路に関しては海京警察希望、ということでいいか?」
「はい」
「分かった。面談は以上だ。また何かあれば、相談に乗ろう」
「ありがとうございます。失礼します」


 面談室を出た朝斗は、大きく息を吐いた。
「卒業も就職も、何とかなりそうな感じね」
「うん、心配し過ぎだったみたいだ。だけど、ルージュさんが関わっているらしい『特務組織』は少し気になるよ」
「だったら、本人に直接聞いてみれば?」
 端末を取りだしたところで、朝斗は目を伏せた。
「……今はまだいいや。多分、忙しいだろうし」
 夏休み――アメリカが主催していた人材発掘プログラムの後くらいから、ルージュと鈴麗は海京警察と行動することが増えており、朝斗が知る限りほとんど休みなく動いている。
 今焦って聞こうとしなくても、いずれ知る機会は訪れるだろう。
「年が明ければ、生徒会選挙に、風紀委員と監査委員の選定が待ってるんだよなぁ。今年は濃い顔ぶれが揃ってたけど、次はどうなるのかな?」
「今のところは、何とも言い難い感じね」
 特に、生徒会長についてはまったく予想がつかない。当代の山葉 聡は、前評判では対立候補の五艘 なつめに遠く及ばなかった。それを覆すだけの人柄を、彼は持っていたのだ。
 問題は、今年はその二人のように目立つ人がいないことである。特に、高等部の二年生に。
「風紀委員長は、せつなさんになる気がするんだけどさ。生徒会長と各科の代表生徒に関してはどうにも。……まあ、そう毎年毎年濃い人ばかりいる方がおかしいのかもしれないけどね」
「高等部の一年生は結構濃いんじゃないかしら?」
 ふと、思い浮かんだ人物を挙げてみる。
 魔法少女二人――遠藤 寿子とアイリ・ファンブロウ。
 氷結の超能力者――雪比良 せつな。
 ……思っていたよりも少ない。
「せつなさんが風紀委員長になるのはそうおかしなことじゃないけど、あの二人が生徒会役員になっているのは想像がつかないなぁ。そもそも、立候補するようには思えない」
 思考を巡らすが、今心配しても仕方がない。
 あの山葉 聡だって、一年間公約通りナンパをせずに職務を全うしたのだ。次代の役員に意外な人物がいたとしても、きっとうまくやってくれる……と思いたい。
「……あら、端末に連絡が。
 朝斗、ロシアンカフェのマスターからバイトのお願いが」
「断るッ!」
「別に今日、今すぐってわけじゃないけど……」
「考えてもみてよ。もうクリスマスシーズンだよ!? 嫌な予感しかしないって!」
 さすがに、毎度毎度女装させられてはたまったものではない。アイビスもどちらかといえば朝斗と同じ「被害者側」なので、無理強いはしてこなかった。
「……でも、客として顔は出してこうかな。今日は時間もあることだし」
 もちろん、身の危険を感じたら即効で退散するが。