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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

リアクション


其の壱


「さあっ、みなのもの、位置につくでありんすっ」

 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の声に従って参加者は揃いぶむ。思い思いの仮装に身を固
めた彼らがのスタートの白線に沿ってズラリ並ぶさまは、壮観。
「あっ、まだ押さないでくださいね」
 葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)にとがめられたように、参加者たちの間には殺気にも似た緊張が満
ち満ちて、今に破裂せんばかりとなって互いを圧倒していた。
 それはそう。
 この仮装バトルロワイヤルに勝利すれば、一番福の栄光を手にすることができるのだ。
 参加者たちの瞳は、その野望の大きさに比例するように、グツグツと燃えたぎっている。

 とりわけデカイ野望を持つのが、この男――。

「フハハハ! この大会の優勝は、我ら秘密結社オリュンポスがいただく!」
 と声高く笑うドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。いつもとおんなじ、お馴染みのメガネと白
衣をまとい、オリュンポスのメンバーたちを見渡した。
「でも、デメテールたちは仮装しなくってよかったのだ?」
 と、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が首を傾げる。オリュンポス一行は普段着での
参加である。
 ドクター・ハデスが断じて息巻く。
「ククク、我らオリュンポスは仮装などという余興に付き合うつもりはない! 純粋に我らの力
を見せつけ、世界征服への第一歩としてくれよう!」
 下卑た薄暗い笑みを浮かべる彼。
 ……受付で『悪の秘密結社の仮装』としてエントリーされてしまったのは、ご愛嬌だ。

「みなさん、揃ったようですね」
「じゃあ、いっくでありんすよ〜っ!! 3、2、1……」

 むおぉぉお〜ん。
 と、ちょっと間の抜けたスタート音が響く。
「あ、ありゃ? な、なかなかコツがいるでありんすね……」
 なにせ、ホラ貝を吹くのは初めてのハイナである。
 いまいち締まらない開幕となったが、戦意をヘニャらせている場合ではない。参加者たちは体
の力が抜けそうになるのをこらえ、弾丸のように飛び出した。
 彼らを迎えうつ第一の関門は、『寒中プールde流氷渡り』――。


     ×   ×   ×


「よし、デメテール・テスモポリス! ここは任せたぞ!」
「りょうかーい。この関門はこのデメテールちゃんに任せて、先に行くのだっ!」
 オリュンポス一行はデメテールひとりを囮とし、先を急ぐ。
「ふっふーん。こういう関門は、身軽なデメテールの得意分野なのだっ! コタツでぬくぬくす
るためにも、早く終わらせるよっ!」
 『悪の忍者の仮装』として登録されたゴスロリ忍者服のデメテールは、【疾風迅雷】【千里走
りの術】で氷の上を身軽に駆ける。
 ワラワラ、水遁の術で潜んでいたおじゃま生徒たちが氷の間から這い上がってきた。目の下に
ドス黒いクマをつくって、さながらゾンビの有様だ。
 彼らの攻撃を【殺気看破】と【空蝉の術】でヒラヒラと回避しながら、
「こ、た、つ、うぅぅ――!!」
 と、【分身の術】から【ブラインドナイブス】を繰り出す。
「この程度の妨害じゃあ、デメテールのコタツでぬくぬくへの愛は止められないのだっ!」
 シカバネと化した生徒たちの横を抜け先をいく。
 ふいに。
「あぅっ!?」
 絶好調の足取りがなにかにぶつかった。
 ピヨピヨした、なにかに。
 その正体を把握する間もなく、デメテールは盛大にずっこけて、プールに落っこちてしまった
。これを待っていたかのように、目を(眠気で)血走らせた生徒たちがデメテールを取り囲む。

「ね〜む〜ら〜せ〜ろ〜……」
「ふ〜と〜ん〜を〜よ〜こ〜せ〜……」

 亡者のうめきを発しながら、獲物に手を伸ばす。
「うわああんっ、コ、コタツがぁ〜……」

 ――とぷん。
 水面にはかない泡沫を残し、あわれ、デメテールは水の底へと引きずり込まれてしまうのだっ
た……。


■脱落■ デメテール・テスモポリス


     ×   ×   ×


「わわっ、セレアナ、そこ気をつけて!」
 新撰組の凛々しい姿をしたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が後ろの
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に注意をうながす。お揃いの衣装で決めたセレアナも、彼女
と同じようにソレをかわした。あやうくつまづくところだ。
「あの、ピヨピヨしたものは、一体……」
「セレアナ、集中! ぜったい足を止めちゃだめ、前進あるのみよっ」
 『ピヨピヨしたなにか』に気をとられているセレアナを咎めるセレンフィリティの瞳には、一
番福しか映っていない。
「下手に相手して妨害を受けるんじゃ、馬鹿らしいわ!」
 おじゃま役なんかは無視をしてとにかく前を目指す、というのがセレンフィリティの作戦だ。
 セレアナは肩をすくめた。
 この現況に、いまいち釈然としないものを感じていた。
 だって、いろいろ変だ。

 仮装大会なのに、なんでバトロワなの、とか。
 そもそも、なんで自分まで参加しているんだろ、とか。

 もちろん、恋人に無理矢理付き合わされたのだけれど。
「ま。いつものことよね……」
 なんだかんだで、甘やかしてしまうのは。
 諦めの境地でため息をひとつ吐き、流氷と流氷の間をぴょんぴょん進む恋人の背を追う――。


     ×   ×   ×


「あううっ。また、誰かがあちきを踏んでいきましたねぇ」
「レティ、こうノンビリしてちゃ、危ないですよ」

 ひっくり返ってもふもふバタバタしているレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)を、
ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がやさしく抱き起こした。
 さっきから、レティシアが身にまとったピヨぐるみは鉄壁のふわふわもこもこ感で、他の参加
者をモフンと弾き飛ばしているのだ。
 他の参加者の邪魔をするつもりは毛頭ないが、こうピヨピヨしていては、どうしたって彼らの
行く手を妨害しているのも同じこと。

「ほら、レティ。急がないと出遅れてますって」
 ミスティに促されても、あくまでノンビリを貫くレティシアだ。
「一番福なんていりませんよぅ。ピヨの可愛らしさを皆さんに知っていただけたら、それでじゅ
うぶんですからねぇ」
「ええ……、んもう、また変なこと言ってるんだからぁ」
 とはいえ、さすがに彼女をこのままプールのド真ん中に放置しておくわけにはいかない。
 猫耳帽子のミスティは、猫のような軽い身のこなしでヒョイと次の氷に跳び移った。
「ほんとに、手がかかるんだから。さ、レティ、手を伸ばして……」
 動きづらそうなレティシアをサポートしようと手を差し伸べる。
 指先が触れた瞬間、不穏なうめき声がすぐ近くに聞こえた。

「だ、だん……、暖をくれぇえええ」

 ガチガチに凍えた生徒たちが、ピヨぐるみにつられて集まってきた。
 なんだか、とっても、――青白い。

「ええっ、うわあ、だ、大丈夫なのかな、この人たち……」
「瀕死ですねぇ、かわいそうに。……あ、あらぁあぁ」
 亡霊と化した生徒たちがピヨぐるみのふわふわもこもこに顔を埋める。
 じんわりとあたたかくって、極寒地獄が一転、まるでパラダイスにいるようだ。
 生徒たちの生気のない瞳の隅に、光るものが溢れ出した。

「あ、あらぁ〜、これじゃあ動くに動けないですねぇ……、って、お、重……」
 凍えた生徒たちが我先にとレティシアにしがみ付く。
「レ、レティ……!」
 行動不能となったレティシアを助けようとするミスティだが、生徒たちの幸せそうな泣き顔を
みていると、なんだかそれもはばかられるというか……。
 2人はすっかり立ち往生してしまった。

――こうして、レティシアの希望どおり、ピヨぐるみの魅力は葦原明倫館の生徒たちに広く知ら
れることになったのでした。めでたし、めでたし。――


■脱落■ レティシア・ブルーウォーター
     ミスティ・シューティス


     ×   ×   ×


「さあさあ、第一関門では脱落者が相次いでいるでありんす! 果たして、何人が生き残るので
ありんしょか!!」
「あ! あちらで誰かがプールに落ちてしまったようです」
「なぬっ、カメラさん、あっちでありんす!」

 司会のついでに実況を務める2人の声に、観客の視線は一斉、ある男に注がれた。

「ぷはぁ――ッ!! ……ふぅ、キンキンだけに、タマタマ無事だ」

 キンキンの冷たさを【心頭滅却】でタマタマ乗り切って、勢いよく氷上へと姿を現す。
「ぶっ! カ、カメラさん駄目駄目!! 映しちゃ駄目でありんす――ッ!!」
 ハイナが慌ててカメラさんの妨害をする。
 それも当然、氷の上に悠々と屹立しているその男。――全裸である。
「あっ、あっ、あっ、あれ。か、仮装してませんよね……」
 てのひらで両目を隠した房姫の声に、その男、いや、漢は、
「デュワッッ!」
 と、手にしたビショ濡れの羽根マスクを目にあてた。
「僕が全裸になっても薔薇の学舎は変わらない……、共に美しくあろう。BYルドルフ・メンデルスゾーン!!」
 と、某校長の決め台詞を華麗にもじってみせた。
 彼の名は変熊 仮面(へんくま・かめん)。いつもの赤い羽根マスクを黄色い羽根マスクに変えて、
見事『全裸のルドルフ・メンデルスゾーン』になりきっている。
「って、アウトー!! 誰でありんすか! あの変態をエントリーさせたのはっ」
「す、すごい、風をきってグングン進んでいきます……」
 指の隙間から覗き見ながら、房姫が実況する。
 彼は全裸に唯一まとった薔薇学マントをハタハタと翻し、股間で風をきる。
 そんな彼へのマークは当然、苛烈を極めた。しかし。
「うおおおおおおおッッ! 一番福こそ、美しい俺様にふさわしい!!」
 倒れても倒れても【肉体の完成】で復活し、己の肉体の美しき強靭さを観客一同にまざまざと
見せ付けるのだった。


     ×   ×   ×


「これで余裕だぜ!」

 朝霧 垂(あさぎり・しづり)がふわふわと空に浮かぶ。
 ド派手な着物で仮装するのは、おなじみ、ハイナ総奉行。
 胸の部分がどうなっているかはみなさまの想像にお任せするとして、カラフルな衣をたなびか
せながら空中を進んでいく。
 【空飛ぶ魔法】で足場の悪いのを無視して進むという作戦は、うますぎるくらいうまく働いた

 足場を気にしなくていいぶん、おじゃま役のほうに集中できるのだ。
「隠れていよーが、無駄だぜっ」
 プールのなかに潜んでいるであろう生徒たちに【神威の矢】を放つ。
 矢は水柱をあげながら水中に消えていった。
 あとから、プカリと、気絶した忍者や侍が面白いくらいに浮かんでくる。
「はっはっは。イベントだからって、敵には容赦しねーぜ!」
 無慈悲の矢じりは、寝不足の生徒たちを次々に安眠(?)へといざなうのだった。――


     ×   ×   ×


「一番福なんかより、あの2人の写真撮って売りさばいた方が、面白いよなぁ」
 スペランカー冬季装備で身をかためた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、司会の2人を横目でチラリ

 あのハイナと房姫がくノ一の格好をしているのだ。
 一瞬悩殺されかけたのをぐっとこらえ、
「いやしかし! 明倫館所属として、成果出さないわけにはいかないだろっ」
 と、競技に集中。
 意外とまじめな義務感でもって競技に参加している彼だった。

「おまえら、すまねぇ! 後で骨は拾ってやる」
 おじゃま役の生徒たちのなかには、同級生の姿もみえる。例外なくドス黒いクマを作り、生け
るシカバネみたいな足取りで恭也を襲う。
「ゆっくり眠ってくれ!」
 【ホワイトアウト】による猛吹雪で、彼らの濡れた体をカチーンと瞬間冷凍する。
「よしっ、あとちょいだな」
 【アブソリュート・ゼロ】で向こう岸までの足場を一直線に生成して、一気に次の関門を目指
す。――