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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

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【ホール】

「ご注文はお決まりですか?」
「君、ジゼルちゃんだよね」
 意外な言葉に、ジゼルの動きが止まった。
 見覚えがない。
(……誰、だったかな?)
「ボク、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)
 五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)のパートナーの一人だよ」
 告げられた名前には覚えがあった。東雲ジゼルの大切な友人の一人だが、学校が違うこともあり、近頃顔を見ていない。
「彼、元気ですか? 最近会ってなくて」
「うん、その事で話しがあるんだ」



「お待たせしましたー、こちら漬け丼二つと……」
「ネギトロ丼です」
 寿子と加夜の二人が、テーブルに注文の品をのせていく。
 と、席に座っている客が、二人に向かって急に流し目をした。
「……何か?」
「何かではなく、どうだ! 色気ムンムンであろう!」
 自信満々なこの男の正体は、ンガイ・ウッド(んがい・うっど)であった。
 普段は猫の姿で過ごしているポータラカ人だが、たまに人間の姿になっておかないと忘れてしまうと人間の姿でやってきたのだ。

 というか、人間の姿でないと飲食店に入るのは難しいかもしれないが。
「ふんっ、まあいい。
 食べるとするか。
 いただき――鮪! ……鮪うまうま」
 人間の姿でもやっぱり猫だった。
 一方、その隣で、鮪丼を前ににらめっこしているものが一人。
「この鮪は、その辺にいるモンスターではなかろうな
 ……ちゃんとした市場で購入したのだろうな?」
 上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)
 以前こういう仕事に興味を示したところ大失敗をしてしまった彼は、社会勉強の為にンガイについてやってきていたのだ。
「あの……大丈夫ですよ。ちゃんとした場所で、ちゃんと競り落とされたものですから」
「いや、すまない。俺は戦地の偵察に来たのだ。
 この時代における多くの戦場を知り、いつか東雲の役に立てるようにならねば」
 景虎は意を決してマグロへ箸を進めようとし、ふと手を止めた。

「ところでこの鮪は、持ち帰り可能か?」 
 景虎の質問に、加夜と寿子は顔を見合わせた。
「そういえばどうなんでしょう」
「どうなのかなぁ、あ。詩穂ちゃんは知ってる?」
 寿子は近くのテーブルに居た詩穂を呼び止めるが、彼女も首を横に振る。
「ジゼルちゃんに聞いてみたらどうでしょう」
 そこへダンボールの山を抱えた雫澄もやってきた。
「あ、あの。ジゼルさん知らないかな?
 このダンボール、置ききれない分どこにやればいいのか……」
「だれか一日女将知らねー?
 今日って賄いで鮪食えるのか知りたいんだけど」
 壮太も合流し、皆が首をひねっていると、テーブルからリキュカリアが声を上げた。

「ちょっとシロ、独り占めにしないでボクにもちょうだい!
 って……皆どうかしたの?」




【バックルーム】

 不幸な知らせというのはいつも突然告げられるもので、だからこそ聞いたものの動揺は計り知れない。
 ジゼルは駆け込んだバックルームのロッカーに背中を預けたまま座り込んでしまった。


「実は東雲がね……
 最近寝たきりなんだけど、急に目が覚めたと思ったら君がここで働いてるって言って
 またぱったり寝ちゃったんだ。
 直前までは寝てた癖に、なんで君がここに居る事が分かったのか、ボクにも分からないんだけどね。
 ただ開口一番に君の名前を出してたから、よっぽど会いたかったんだと思う。
 なんか悔しい……あ、なんでもない」
 リキュカリアに告げられた言葉に、ジゼルは何を言ったら良いのか分からなかった。
 その間にも、リキュカリアは話を続ける。
「喉も弱っちゃって、最近は歌うことも……

 でもさ、今度東雲が動ける時には会いに行くと思うから、普段どおりに接してくれる?
 きっと君の歌を聞いたら元気が出ると思うんだ」 


「どうしよう、私、
 東雲が姉様たちみたいになったら……私、どうしよう……」
 俯いていると感情が溢れてくる。
 今日一日は頑張らなくて、そう思っていたのに限界だった。
 抑えきれない涙が頬を伝ったときだった。
 ジゼルの上に影が差したのは。




厨房

 厨房の一角。バックルームに繋がる入り口のところに、耀助や歌菜ら厨房担当のもの何人もたむろしている。
(確かこれから休憩に入るはずの人達……)
「あれ? どうしたの?
 私達ジゼルちゃんを探してるんだけど、バックルームに居ない?」
 寿子が声をかけると、耀助が後ろを振り向いて「シーッ」と合図した。
「何かあったの?」
 寿子が扉の空かしガラスを見ると、バックルームの中でジゼルとイルミンスールの制服を着た見知らぬ男が話しているのが見えた。
 はじめは静かに話していたのだが、男の方は何やらヒートアップしているようでジゼルの腕を掴んでいる。
 寿子のメガネが光る!
「こ、これはもしや……薄い本が厚くなる展開!?」
「じゃなくて、止めなきゃ!

 たのもー!!」
 歌菜が勢いよく扉を開けたお陰で、中の様子を覗いていた全員がバックルームに飛び込む形になった。
 バタバタと体制を直している間に、加夜はジゼルに近づいて小声で聞いた。
「ジゼルちゃん、何かあったんですか?」
「あのね、大丈夫だから。
 私がちょっと取り乱しちゃったら、この方が心配してくれたの」
「勘違いをしてすまなかった、また改めて」
 制服のマントを翻して、男は部屋から出て行く。
「じゃあ私も仕事、続きあるから……」
 ジゼルもそれに続くように部屋から出て行ってしまった。
 皆が首をかしげている中、ティエンが陣の腕を引いていた。
「お兄ちゃん、さっきの人」
「ああ、あいつこの店の常連の奴だな」
「ジゼルお姉ちゃんと、何かあったのかな……」