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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

リアクション




【通り】


「うぅ……流石に冷えるわね」
 手で摩りながら、エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は付いたばかりのカセットコンロの火に手をかざした。
 冬の乾いた空気を、フレンディスとベルクの誘導の声が切り裂いている。 
 店はオープンより15分以上前だというのにすでに外にはかなり長い列が出来ていた。
「コラ。空焚きは駄〜目」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)がスイッチを切るのを見て、エレノアは顔を赤らめた。

 少し前に二人が担当することに決まったのは、「粕汁の無料提供」だった。
 寒い中並んでいる客への労いと、それから客寄せに。
 予備分(元の量を考えたら果たして予備がいるのだろうかと佳奈子は思ったのだが)として用意されていた鮪を使い、店の前で作って配るのだ。
 エレノアが料理のための道具や使い捨てのプラカップを運んでいる間に、すでに仕込みは済ませている。
「それじゃあ作ろっか!」
 大根や人参等の根菜に、御揚げと蒟蒻を鮪と一緒に汁の中に浮かばせていると、そのうちそれらが良い香りを運んできた。
「お客さん、待ちきれないって感じね」
 列に並んでいる皆が佳奈子の一挙一動に注目し、生唾を飲み込む様をエレノアは少し誇らしいような気持ちで見ている。
「最後にお葱飾るから、エレノアも手伝って」
「あ、ああ、分かってるわ。
 それにしてもこの人数じゃ配るのも大変な作業になりそうよね」
「ふんっ。そのくらいこのハイテク忍犬の僕に任せていればいいんですよ!」
 ツンデレ口調で言ったのは、ポチの助だ。
「私も頑張りますね!」
 ふんすっ! と鼻息荒く? フレンディスもガッツポーズを決める。

 やがて北都とリオンの手によって、店の扉が開けられた。
「さあさあ、定食屋「あおぞら」では、これから鮪の解体ショーを開催しますよ! 良かったら見ていってね」
 佳奈子の元気のいい声で客入れが始まった。
 少しでも戦力になれれば、と、目の前の道を通り過ぎる通行人にフレンディスが勇気を振り絞って(いるのは長感覚の耳が出ているから分かった)声をかけに行っている。
 ベルクもそれに習おうかと思ったが、彼の視線の先にはモデル体系のきれいなおねいさんたちのグループが居た。
「おい、犬。行って来い」
 女には犬っころの方がウケがいいだろう。とベルクは思っていたのだが、いざポチの助を派遣してみると、
その口から出たのは驚きの? 言葉だった。
「そこの下等生物!
 栄養バランス悪そうな顔と体系しておりますね!?
 そういうときは新鮮かつ美味しいマグロを食べて行けばいいのですよ。
 本日は契約者によるマグロ解体ショーも行われます。
 本来下等生物な貴方達では見られないところを、特別にお見せするのですから存分に楽しむといいのですよ!!」
「おまっこの馬鹿犬! それが客に対する……」
 猛ダッシュでポチの助を掴んで後ろにやろうとした時だった。
「やーんっ下等生物だって!」
「きゃわいいっ」
「え? 何ー? わんちゃんツンデレなのぉ?」
 甘い声と共に、ポチの助がおねいさん達にもみくちゃにされながら撫で回されているではないか。
「このエロ吸血鬼が。今時はこういう方がウケるのですよ」
 と、実際言われた訳ではないが、視線がそう言っているのだ。
 受け流しながらも釈然としない気持ちで店のほうへ目をやると、佳奈子とエレノアの明るい笑顔と声が飛び込んできた。
「粕汁の無料提供もしてるからね〜」「一杯どうぞ、温まれるわよ」
 怒るのも阿呆らしい程のまったりとした光景。
 ベルクは新たな客を獲得すべく、精一杯の笑顔を作りながら通りへ向けて歩き出した。





【ステージ】


「という訳で、これなの」
 少し前の事。
 特設テントの下、抗菌用のシートの下に隠されていたパラミタオオマグロがその全貌を現した。
「デカイ」
「デカイな」
「大きいですね」
 誰の口からも月並みな言葉しか出てこない。
 それ程に6666キロの鮪は巨大だった。

「こんなデカいの、ココならではってヤツか」
 ごくりと唾を飲み込んだカル・カルカー(かる・かるかー)の隣で、志位 大地(しい・だいち)が何かを思い出していた。
「そうでもないですよ。ここに来る前に鮪の捌き方をお浚いしておこうかと、プロの動画や本も確認してたんですけど――
 鮪じゃなくて鮫とかなら、地上にも最大で7メートル近い固体が撮影されているのが居るらしいですし」
「ああ、全長はもっと大きいんじゃないかってお話よね。
 私も女将さんから聞いたことあるわ。
 それにしてもわざわざちゃんとお浚いなんて大地は真面目よね。今日のそのジンベイ? もわざわざ合わせて着てきてくれたんでしょ?」
「そんなことないですよ。今日はちゃんとした調理師の方も居ますし、俺みたいに地球で多少齧った程度じゃ……」
「またまたぁ。ケンソンしちゃってぇ」
 ジゼルが大地を突っついている間に、他の料理人たちは鮪の状態の確認を始めていた。

 真っ先に鮪を見定めていたのは涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)だった。
「しかしこれが今年の初競りで一番の高値が付いた鮪か。
 成るほど、いい型をしている」
「ほら、ああやって、きちんとしたプロの人はそれだけで分かるもんなんですよ」
「へぇー、凄いのね」
「ああ、これは料理人として腕の振るい甲斐が有りそうだよ」
 涼介の眼光鋭い料理人の視線を受け取って、ジゼルがふんふん頷いていると後ろから声が降ってきた。
「真面目にきちんと料理は君にお任せするよ。
 僕はきっと亜流になると思うから」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)だ。
「リアトリスはフラメンコをやってくれるのよね」
「うん。アレグリアスっていう、喜びが語源になってるダイナミックな踊りでね、今日にぴったりかなって思うんだ。
 帯剣だと危険に思うかもしれないけれど、超感覚も使って一挙一動に神経を払いつつだから、ちゃんと安全に出来ると思う」
「わー、私も時間が出来たらちょっと見たいなぁ」
 
「あの……ジゼルさん」
 鮪解体部門の紅一点、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)の声だ。
「私は、このナラカの蜘蛛糸を使おうかと思っているんです」
「糸?」
「本来ならよく研がれた包丁が良いのですが……その、余りにも大きいですから、私の糸で切ってしまうのがいいかと」
「成るほどー、確かにそのほうが最初はよさそうね」
「はい、ただ細かく切り分けるというのには適していないですから、それは他の方にお任せして……」
 悲哀の提案に、皆が頷く。
 ジゼルは笑顔を浮かべて、頭を下げた。
「それじゃあ皆、今日は一日宜しくお願いします!」