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リアクション
第一章
某日 某時刻 エッシェンバッハ派秘密格納庫
「“シュピンネ”の初出撃ね。その性能、早速試させてもらうわ」
エッシェンバッハ派の秘密格納庫で天貴 彩羽(あまむち・あやは)は受領した“シュピンネ”を見上げた。
「おっ! 話には聞いてたが、こいつが“グリューヴルムヒェン”シリーズの七機目か。なかなかカッコ良い機体じゃねえか」
シャギーの入ったオレンジ髪の青年――“鳥(フォーゲル)”が彩羽の近くに立ち、彼女に言う。
「そうですね。この姿――まさに“シュピンネ”の名の通りです」
それとは反対側に、真っ直ぐでショートの黒髪と担いだ鞘袋が特徴の青年――“鼬(ウィーゼル)”も立つ。
二人はまだ件のスーツ――スリムなシルエットで漆黒の色をしたパイロットスーツを纏ってはいない。
機体の出撃準備は行われているのだから、きっともうすぐ着用するのだろう。
「今日はあなたたちと一緒に行くことになってるわ。よろしくね」
彩羽が言うと、二人は同時に頷く。
「おうよ。ま、今日の所は“シュピンネ”って奴に任せて俺は見学といこうかね」
冗談めかして“鳥”が言う一方、“鼬”は真面目な顔だ。
「そうできれば良いのですが、九校連の戦力増強速度は僕たちの予想を超えています――」
意外なことに“鳥”は冗談めかした言葉を返しはしなかった。
“鼬”の言葉を茶化すこともせず、真面目な顔になって呟く。
「ああ。そうだな――連中は第三世代機を投入してきた。そんでもって、そいつは“システム”の予言よりも早い」
「そうです。僕もそう思ってスミスさんに話を振っておきました。近いうち、スミスさんを交えて対応方針を決めた方がいいでしょう」
二人の話しの内容が今ひとつわからなかった彩羽は黙って聞きに回る。
ほどなくして二人の会話が一区切りした所で、彩羽は話題を変えに入った。
「今回の出撃だけど、私以外の戦力は、あの量産機が十五機とあなたたち二人ってことでいいかしら?」
その問いに答えようと、“鳥”が口を開く。
「いや、それ以が――」
言いかけた所で新たな足音ともに響いた声が割って入った。
「今回はオレと“カノーネ”も行かせてもらうことになってっからよォ」
声のした方に彩羽が振り返ると、その先にいたのは“鳥”や“鼬”と同じ歳の頃と思しき青年だった。
乱雑に切った髪。
彼が着ている上着は大方、ミリタリージャケットとだろう。
だが、着崩した上に大量のワッペンが貼り付けたそれは、軍服でありながら軍服とはまた違った印象を与えていた。
たとえるなら、無機質だが真面目なデザインがされた壁にスプレーでグラフィティをしまくったようだ。
その趣味を表わすかのようにジャケットの下に着ているTシャツの柄はグラフィティそのものだ。
更にその胸元には、まるで狩猟民族が獣から得た牙で成果を示すように、大量のドッグタグが連なっている。
きっと、本人にもドッグタグの本来の使途――身分証明に用いる気はないのだろう。
ボトムはカーゴパンツとミリタリーブーツという組み合わせであり、靴だけが唯一、純然たる軍事色を感じさせる。
彼とは初見である彩羽は、じっくり見つめるような視線を彼に送る。
すると彼は好戦的な笑みを浮かべてみせる。
「おゥ、アンタが来里人の言ってた嬢チャンか」
「ええ。ここには彼の紹介でお世話になってるわ」
二人が会話したのを見計らい、“鼬”が口を開いた。
「紹介します。彼が今回出撃するグリューヴルムヒェンシリーズの一機“カノーネ”。そのシュバルツタイプのパイロットです」
“鼬”が彼を紹介し終えた時、タイミング良くスミスが入ってきた。
「皆さん、出撃準備はよろしいですか?」
挨拶もそこそこに、ミリタリージャケットの青年はスミスに問いかけた。
「スミス、アンタも知ってるだろうがよォ……九校連の連中は第三世代機を投入してきてる。しかも、だ。量産機を第二世代機で撃墜するような奴も出てきてるみてェじゃねえか。そろそろ、オレたちも本気を出す時じゃねェかよ? つーか、本気、出してもいいよなァ?」
それに対し、スミスはゆっくりと頷いた。
「構いませんよ。それを伝えに来たのですから。ただし、貴方の仰る『本気』を出すにしても、すべてを出し切らず、今までよりも少し出すくらいにしてください。手の内を一度にすべて見せてしまうのは得策ではありませんから」
どうやらそれには彼も納得したようだった。
「……そうだな。ソイツぁ、アンタの言う通りだ」
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