波羅蜜多実業高等学校

リアクション

　同時刻　シュバルツタイプ四機の待機地点より数十キロの地点

「――命中（ヒット）」
　搭載された全てのアンカーを迅竜の甲板に引っかけ、その状態で立つ盾竜。
　身の丈と同等かそれ以上もある超長砲身を抱える盾竜は、人間でいえば引き抜いた道路標識を抱えているようなものだ。
　そのコクピットで董　蓮華（ただす・れんげ）はただそれだけ言った。
　大量の劇薬を投薬する為のマスクのおかげで彼女の声はくぐもっている。
「残り２発。あとの撃ち時は俺が指示する」
　モニターで機体状況をチェックしながらスティンガー・ホーク（すてぃんがー・ほーく）は蓮華に言った。
「了解。頼んだわ」
　そうしている間にも、高速で飛行しつ続ける迅竜は敵部隊に接近していく。
　それに加え、先程の超長距離砲撃がきっかけで敵部隊の注目は迅竜に向いている。
　スティンガーの言葉に応えながら、蓮華は素早くコンソールを叩く。
　そのコマンドにより、盾竜に装備された垂直ミサイル発射システムが一斉に起動。
　敵部隊がミサイルの射程に入ると同時に、発射システムの射出口が開く。
　次の瞬間、誘導タイプに分裂タイプ、そして速度重視の各タイプに分かれたミサイルが大量に同時発射された。
　どんどん近付いてくる敵部隊に迫るミサイルの群れ。
　分裂ミサイルで足並みを乱し動きを止め、誘導ミサイルで追った所を、速度ミサイルで急襲――各ミサイルの特性を活かした攻撃が濃緑色の“ヴルカーン”に襲いかかる。
　機銃で果敢に応戦するものの、大量のミサイルを防ぎきれない“ヴルカーン”。
　何発ものミサイルの直撃をくらってまた一機、“ヴルカーン”が大破して大爆発を起こす。
　いつも以上に爆発が大きいのは“ヴルカーン”タイプだからだろうか、あるいは、乗っているガネットにも同様の装置が組み込まれているのかもしれない。
　海京沖合に上がる巨大な水柱と、それに伴って撒き散らされる水飛沫の中にかかる虹。
　それを見ながら蓮華は盾竜の火力に驚嘆していた。
（なんて機体……！）
　興奮で震える手で操縦桿を握り締め、蓮華は無数のケーブルが伸びたゴーグルの内側に映る機外の風景に目を凝らす。
（最初はちゃんと扱えるかと思ったけど……私の意思で発射するからパイロットランクのハンデはほぼ消えるのよ！）
　胸中で呟くと同時、蓮華がゴーグルの中に見える“ヴルカーン”の一機を見つめただけで即座にターゲットマークが表示される。
　円形のターゲットマークはすぐに二重線となり、色も緑から赤に変化する。
　再度、全ミサイル発射管を開こうとする蓮華。
　しかし、それよりも早く、漆黒の“ヴルカーン”が大量のミサイルを盾竜に向けて放つ。
（……っ！　ミサイルっ！）
　そう思い、蓮華が咄嗟にミサイル群を見るが早いか、即座にターゲットマークがミサイルの数々へと重なるように表示される。
　蓮華が身の危険を感じ、発射の意思を固めるのに呼応して、盾竜はミサイルを発射した。
　とはいえ相手は規格外の超大火力を有する“ヴルカーン”、しかもそのハイエンド機。
　迎撃用のミサイルを発射したものの、一発残らず完璧に……とはいかないようだ。
　撃ち漏らした何発かのミサイルが盾竜へと迫る。
「スティンガー！」
　声を上げる蓮華。
　弾かれたようにスティンガーはコンソールを叩く。
　すると、スティンガーの眼前で、格納されていた一対のスティックが跳ねあがるようにして飛び出す。
　左右それぞれの手にスティックを小刻みに倒しながら、スティンガーは人差し指でトリガーを引いた。
　その信号を受け、胸部に取り付けられた一対の六砲身ガトリングガン――Mk15Mod2ファランクスが滂沱のように銃弾を吐き出す。
　ファランクスによる対空防御で残るミサイルもすべて撃ち墜とされ、事無きを得る迅竜。
　ひとまずほっと息を吐いて蓮華が言うと、スティンガーも小さく笑って返す。
「火薬庫みたいなもんだもん、当たったらドカンよ。迅竜も只ではすまないわ」
「そりゃゴメンだね」