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蒼フロ総選挙2023、その後に

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蒼フロ総選挙2023、その後に

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「こちらです」
 紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が入り口のドアを開けると、ドアチャイムが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
 ウエイトレスたちが入り口に向け、一斉に出迎えの言葉を発した。
 そのままドアを押さえている遙遠の脇を抜けて、まず最初にカインが、そして次にバァルが入り口をくぐる。バァルが入店した瞬間、どんがらがっしゃんと派手な音をたててウエイトレスの少女が店の奥でひっくり返った。
「大丈夫? ハルカちゃん」
 店の女の子が驚き、あわてて床に散らばったフォークやスプーンを集め出す。
「……な、なな…」
 ハルカと呼ばれた少女は床に両手をついたまま絶句し、なかば呆然と入り口に見入っていた。
(どうしてここにバァルさんガイルノデスカ……バァルさんがシャンバラに来るのは、来週のはずじゃ……)
 一瞬見間違いかと思ったが、どう見てもそこに立っているのはバァルだった。
 バァルも音に驚いたのか彼女の方を見ていたが、すぐ後ろにせっつかれて脇へとどく。ぞろぞろと入ってきたのは、ハルカも知っている顔ぶれだ。
「どこにしましょうか。ああ、あそこの席が空いてるようです」
 いそいそと遥遠は角のテーブル席へ皆を先導していく。もちろんそこは、ハルカの担当するテーブルだ。
 ここでようやくカラクリが読めて、ハルカこと緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はぎゅっとこぶしを固めた。
(――遥遠、謀りましたね)
 しかしそれを今ここで言っても始まらない。
 ハルカはすっくと立ち上がると、動揺を押し殺してトレイに水とおしぼりを人数分乗せた。
「大丈夫なの? 派手に転んでたみたいだけど。わたしが受け持つから、よかったら奥で休んできたら?」
「ちょっとつま先を引っかけただけで、もう平気なのです〜。ありがとうなのです〜」
 そしてテーブルへと向かう。
「いらっしゃいませなのです〜。ご注文がお決まりでしたら、おうかがいするのです〜」
 営業スマイルでテーブルの脇に立つ。その少女が先の少女だとバァルが気付いた。
「きみ、大丈夫だった? かなり大きな音がしていたけれど」
「そうね、ハルカちゃん。けがしなかった?」
「は、はい。大丈夫なのですよ〜」
 こんなドッキリをしかけておきながら素知らぬフリを決め込んでいる遥遠に、思わず口端が引きつった。
 あとで絶対覚えておいてくださいね……と視線に込めてにらむハルカ。遙遠はあくまで気付かないフリだ。
「きみの知り合いなのか?」
 バァルが訊いた。
「あ、はい。実はハルカちゃんは、遙遠の親戚なんです」
 ……ひいいいいぃぃ。
(遥遠! それ、絶対今思いついたんでしょうっ)
「遙遠の?」
「は、はい〜。ハルカといいます。よろしくなのです〜。
 バァルさまのことも、遙遠お兄ちゃんからいろいろとお話をおうかがいして、知っているのですよ〜」
 ああ、バレたときの余罪がどんどん増えていく……と内心冷や汗を垂らしつつも平静を装って会話を続けるハルカを、バァルはじーっと見つめた。
「あ、あの……ナ、ナニカ…?」
「いや、よく似ているなと思って」
 ふっと表情がなごむ。
 似ているも何も、ちぎのたくらみで外見年齢を変化させているだけの本人なのだからあたりまえである。
 テーブルについた何人かはそれと気付いてげふんごふん氷水にむせていたが、バァルが気付けた様子は全くなかった。
「それで、ご注文はお決まりなのです〜?」
「ああ、すまない」
「コーヒーをちょうだい」
「俺もコーヒー」
「私もそれを」
「クリームソーダ!」
「緑茶がいいのですぅ」
「キャラメルマキアートがいいです」
 メニューを開き、口々に注文を始める。
「それで、バァル様は何にされるのです〜?」
「わたしか。……そうだな。この店のおすすめは何だろう」
「本日のおすすめはダージリンなのです〜。昨日入荷したてのオータムナムなのです〜」
「ではそれをもらおう」
「はいなのです〜」
 ぺこっと頭を下げて、ハルカはテーブルを離れた。
 まぁ多少(?)驚いたとはいえ、べつにやることが変わるわけではない。考えていたのとかなり違うが、形はどうあれバァルさんをもてなすことに変わりないんだから、と目線を変えることで、無理やり納得することにした。
 そう! おもてなし!
 カポン、と音をたてて茶缶のふたを開ける。
 心を込めて、おいしい紅茶を入れる! 今の自分にできる精一杯、完璧な紅茶を!
「いい香りだ。うん、おいしい」
 自分のいれた紅茶を手に、独り言のようにつぶやかれたバァルの言葉を聞いて、ハルカは口元が緩むのを押さえきれなかった。



 飲み物を手に小一時間ほど話し込み、店を出ると、もう外はすっかり夕暮れだった。
「あー、今日も1日遊んだなあ」
 伸びをしていたら、角を曲がって遙遠が現れた。
「バァルさん」
「遙遠。用事は終わったのか」
「ええ、まあ」
「そうか。なんだか疲れているみたいだな。大変だったのか」
「まあ、ある意味そうですね……」
 肉体的にというより、主に精神的な意味で。
 少しばかり視線に恨みを込めて、遥遠をじーっと見つめる。
「お疲れさまです、遙遠」
 平然と笑顔まで見せてにこやかに告げる彼女に、ふーっと息を吐き出して。
「ありがとう」
 遙遠は負けを認めた。
「みんな、時間大丈夫か?」
 フェイミィが振り返ってくる。
「夜のシャンバラへくりだそうぜ! 俺の行きつけへ連れてってやる!」

 今日という日は、まだまだ終わりそうになかった。