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蒼フロ総選挙2023、その後に

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蒼フロ総選挙2023、その後に

リアクション

 初日は、掃除と調理、ミーティングで終わり、2日目以降から訓練や実習が始まった。
 優子とアレナも指導者というわけではなく、グループのリーダーという立場で、共に汗を流し、学び合っていく。
「始め」
 裏庭に樹月 刀真(きづき・とうま)の声が響いた。
 木刀を手に睨み合う2人。
 志位 大地(しい・だいち)と神楽崎優子。
 少し距離を置き、2人を囲んでアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)や、刀真のパートナー、白百合団のメンバー達が見守っている。
 勝負は三本目。
 最初は正面からのまっすぐな勝負。こちらは優子の勝利だった。
 2本目の勝負では、大地はフェイントを多用し、優子を惑わし、勝利を収めた。
「……!」
 そして三本目、仕掛けたのは優子の方だった。
 踏み込んで、木刀をまっすぐ上段から打ち下ろしてくる。
 大地は腰を落としながら、自らの木刀で優子の剣を受け流し、その木刀を優子の脇腹に叩き込もうとする。
 彼女は後方に跳び躱した。
(読まれていますね。カウンターは難しいか)
 続いて、踏み込みと同時に繰り出された優子の突きは、大地の腹部を掠めた。
 よろめかずに耐え、大地は剣を水平に振った。
 大地の木刀は下方から優子の腕を打ったが、彼女は木刀を落とさず、次の攻撃に転ずる。
 振り上げた右手の木刀に、左手を添えて打ち下ろす。
 素早く重い一撃。直感で受け流すことは不可能と感じた大地は、両手で木刀を持ち、受ける。
 優子の剣は大地の剣叩いた後、滑らせて弧を描き、彼の胸部に叩き込まれた。
 激しい衝撃と共に、大地の身体が飛んだ。
「そこまで!」
 刀真が制止する。
 すぐにアレナが駆け寄って、大地の怪我を治す。
「俺の負けですね」
 地面に膝をつき胸を抑えながら、大地が優子を見上げる。
「いや、真剣勝負の剣術で1本とられたのは悔しい」
 優子は言いながら、大地に手を伸ばす。
 大地は彼女の手を掴んで、立ち上がった。
「俺も剣の嗜みはありますので」
「これが真剣による勝負だったら、どうなっていただろうな」
「……今回は倒されていたかもしれませんね。でも、癖を知ってしまった今なら、負けないかもしれません」
「互いにな。キミの戦い方、参考にさせてもらうよ」
 優子が大地の身体についている泥を払って落とす。
「志位。キミの剣技は鋭いな。どこから攻めてくるのか分からない。攻撃を受けるまで読みにくい」
「でも、打ち合ってしまえば、その後はあなたに知られてしまう。つまり、優子さんとは距離をとって戦った方が、有利に進められるということでしょうか」
「その場合には、こちらから詰めさせてもらう」
「怪我しますよ」
「望むところだ。肉を切らせて骨を断つ」
 2人はふふっと、笑い合う。
「ありがとうございます」
 泥を払ってくれた礼を言いながら、大地はずれた眼鏡を直して息をついた。
 緊張がほぐれていく。
「これで一通り終わりましたね」
 刀真とパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、それから刀真の誘いで訪れた、白百合団団長の風見瑠奈(かざみ るな)と、副団長のティリア・イリアーノ
 そして、班長の舞香綾乃もタオルとスポーツドリンクを手に近づいてきた。
 一同は刀真の提案で、試合形式の訓練を行っていた。
「少し休んだら、ロードワークに出かけるか」
 優子がタオルで汗を拭きながら言った。
「まだ余裕があるのなら、もう少し付き合ってもらえないか?」
 刀真が優子に問いかける。
「久しく全力で剣を振るっていない……このままだと錆び付きそうだし」
「全力、か」
 優子は白百合団員達をちらりと見た。
「私がお相手します」
「いえ、私がっ! 良い機会だもの」
 ティリアと瑠奈がそう申し出た。
「ということで、3対1でどう?」
 優子は舞香から刀を受け取りながら言う。
「構わない」
 言うと、刀真は月夜を呼び寄せる。
「顕現せよ、そして目覚めよ……黒の剣《月夜》!」
 刀真が月夜の中から取り出したのは――抜いたのは、覚醒光条兵器だった。
 ティリアが間をとって、槍を構え、瑠奈はブロードソードを構える。
 剣を抜いた刀真は仮想の敵を思い浮かべる。
 誰へというわけではなく、相対する者全てを打ち滅ぼすために、剣を振るう。
「……うっ……」
「……っ」
 ラヴェイジャーの強烈な威圧感を受けた瑠奈とティリアは一歩も動くことが出来きない。
 武器で自らの身を庇おうとする2人の身体を、光の刃が通過する。
「覚醒光条兵器相手じゃ、3人でもこっちが不利すぎる」
 刀真が2人に剣を振り下ろしている間に、優子は刀真の側面飛び込み彼の脇腹を薙ぐ。
 剣先が触れ、浅く傷つけただけで、優子もそれ以上は近づけなかった。
 彼が振り向くより早く跳び、彼の側を離れる。
「というわけで、そこまで」
 優子が言うと、刀真は剣を下ろした。
 瑠奈とティリアは、ぺたんと地面に座り込んだ。
「身体能力で負けるつもりはないが、互角に戦える武器は、持ち合わせてないからな」
 優子が剣を収めながら言った。
「……」
 アレナが無言で刀真に近づき、裂かれた彼の脇腹を治療する。
 治療後、すぐにアレナは刀真から離れた。
「アレナ」
 そのアレナの元に、月夜が戻ってきた。
「ね……。アレナは、優子が戦う時、どうやって助け、るの?」
 月夜は瑠奈達と同じように、地面に座り込み、苦しそうに洗い呼吸を繰り返している。
「後ろで手伝います。今日みたいに」
「そう」
 月夜は淡く微笑んだ。
「刀真は剣士で、私は剣、望まれるなら、いつでも剣を差し出す、よ……私は刀真の、剣の花嫁だから。あっ」
 月夜の身体が刀真に抱き上げられる。
「月夜は俺の剣だから、こうなると分かっていても必要ならいつでも剣を抜く」
 刀真は酷く消耗した月夜を、合宿所の食堂へと連れていく。
 その後ろ姿を見ながら――。
「疲れるのは、剣である証拠。剣の花嫁として力になっている証拠。いいな……」
 アレナは手を震わせ、自分の身体を抱きしめながらひとり、呟いていた。
 瑠奈は複雑な表情で刀真達を見ており、ティリアはぽんぽんと瑠奈の肩を励ますように叩いていた。

 優子達はその後ロードワークへ出かけたが、瑠奈とティリアは食事当番だったこともあり、刀真達を追って、食堂に向かった。
 月夜は背もたれに体を預けながら座って、刀真が淹れてくれたお茶で体を温めていく。
「ふう……。あとで一緒に温泉に入ろ」
 月夜がそう言い、瑠奈とティリアは笑顔で頷く。
(アレナとも明日、一緒に入ろう)
 月夜の脳裏に、泣き出しそうな顔をしていたアレナの顔が思い浮かぶ。
「お疲れ様、温かいので大丈夫?」
 刀真は瑠奈とティリアにも、お茶を淹れてあげた。
「ありがとうございます」
「いただきます」
 瑠奈とティリアもお茶を飲みながら、ほっと息をつく。
「……怖かったです」
 瑠奈は上目づかいで刀真を睨み、ぼそっと言った。
「ごめん」
 刀真は軽く苦笑した。
 それから自分も席について、お茶を飲みながら会話をしていく。
「シャンバラ宮殿近くに、百合園女学院のキャンパスが設けられるって話を聞いたんだけど……。その『公務実践科』で、ゼスタが講師をするんだって?」
 刀真のその言葉に、瑠奈とティリアは顔を合せる。
「具体的にはどんな事をする学科なんだい? 瑠奈やティリア達も行くのかい?」
「さあ……」
「まだ聞いてないです」
 瑠奈とティリアは少し不安げだった。
「ただ、話があるって、呼び出されてるの」
「私と瑠奈だけね。白百合団のコーチをしてくれるって話だし、私は公務実践科を受けるつもりよ。多分推薦で通ると思うし。瑠奈は?」
「公職に就くこと、今は考えてないからなぁ。短大卒業後の進路、どうしようかなって、考えてるところ」
 瑠奈は弱弱しく微笑んだ後、不安げな表情を隠すかのようにお茶を飲んだ。
 彼女は今年短大2年生になる。就職か進学か、迷っているところだった。

 ロードワークを終えた後。
 夕食前の女湯の時間に、優子とアレナ、白百合団員達は連れだって温泉にやってきた。
「アレナちゃん、お湯かけますよー」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が、お湯を入れた盥を持って、アレナに近づいた。
「はい、お願いします」
 洗い場で頭を洗っていたアレナは、しゃがんでぎゅっと目を閉じる。
「いっくよ〜♪」
 葵はゆっくりアレナの頭にお湯をかけていき、泡を落としていく。
「アレナさん、肌綺麗ですねっ。スタイルいいし羨ましいわ☆」
 近くで体を洗っていた舞香が言うと、アレナは恥ずかしそうに赤くなる。
「あ、ありがとうございます……。で、でも舞香さんの方がスタイルいいと思いますっ」
 アレナは女の子らしい可愛らしい体つきで、胸は標準より少し大きいくらい。
 胸の大きさは舞香の方が上だった。
「うう……っ」
 葵が小さな声を上げる。
 舞香とアレナを見た後、湯船に向かう優子の姿を見て。
 それから自分の胸をみてため息をつく。
 葵は成長が遅く、胸も小さいままなのだ。
「葵さん、髪の毛長いので乾くまで時間かかりそうですよね。風邪引かないようにしてくださいね」
 アレナが湯を汲んできて、葵にかけてくれる。
「ありがとー。ドライヤーないしね、良く拭いて乾かします。魔法つかったら、ちりちりになりそうだし♪」
「そうですね。生活に役立つ魔法とか、もっとあったらいいですねー」
 お湯をかけて体を流しあって。
 それから湯船に向かっていく。
 湯の中に手を入れて、温度を確かめて。それから、ゆっくり体を入れていく。
「ふう……温かいです……」
「はい……」
 お湯の中で、ほっと息を着いた後。
 葵は先に入っていた優子のところに、アレナと一緒に移動した。
「2人そろって総選挙3位おめでとうございます♪」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございます……すごく、嬉しいです」
 優子とアレナが笑みを浮かべる。
 舞香と綾乃も入ってきて、皆で顔を合せて微笑み合った。
「訓練での優子先輩の模擬戦闘、凄い迫力でしたねっ」
「うん、最強のロイガの剣技、体験できて幸せです♪」
 綾乃の言葉に、舞香が深く頷く。
 羨ましそうに、葵はちょっと優子に近づく。
「あの、あたし日中の訓練、掃除当番で参加できませんでした。あたしにも久々に武術のご指導お願いできますか? 白百合団に居た頃みたいに」
「喜んで。ロイヤルガードでも定期的な訓練や合宿を行うべきかもな」
 葵のお願いを優子は快諾した。
「そういえば今度来る男性コーチって、やっぱり強いんですか? アレナさん達とはどんなご関係なんです?」
 肩までゆったりつかりながら、綾乃が隣のアレナに尋ねる。
「コーチ、ですか?」
 不思議そうな顔で、アレナは優子に目を向けた。
「ゼスタが白百合団のコーチになるそうだ。彼は私のパートナーだよ」
「……強い、と思います」
 優子とアレナの言葉に、舞香が眉を寄せる。
「まさか、優子お姉様より?」
「身体能力で言えば……私より上だな」
 優子は軽く苦笑した。
(ん〜)
 葵はゼスタのことを思い浮かべ、口まで湯の中に沈んだ。
(あの人、良く分からないんだよね。アレナちゃんと優子隊長のこと好き、みたいではあるんだけど……)
 なんでコーチを引き受けたのかなと、葵は優子の側で幸せそうに微笑んでいるアレナを見ながら、考えていた。
「もし、パワハラや、行き過ぎた指導を受けた時には、私に相談してくれ」
 優子の言葉に、白百合団の少女達は「はいっ」と声を上げる。

 夕食までの間、温かな空間でわきあいあい、会話を楽しんでいく。