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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:続・除雪作業

 除雪作業を再開してしばらくすると見知った顔が東雲姉弟たちの前にやってきた。
 訓練の時に会った緋王 輝夜(ひおう・かぐや)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)だ。
「あれ? 優里と風里じゃん、久々ねー。二人も除雪作業にきたの?」
 緋王が片手を振って二人に挨拶をした。
 彼女の後ろ、ネームレスが巨大なトンボのようなものを担いでいる。
「緋王さんと……そちらは?」
「ああ、この子はネームレス・ミスト。そういえば訓練のときにはいなかったっけ」
「……はじめまして。姉君がお世話になって……おります」
 農場で働いていそうな服装をしているが、何か近寄りがたいものを感じる。
 というより女性とは思えない筋力の持ち主に見えた。
 彼女はよろしく、と二人に挨拶する。
「こ、こちらこそ。よろしくです」
「変わってる人ね」
「それじゃ、パパッとおわらせちゃおっか」
 各々が挨拶を終えて作業に取り掛かる。
 ネームレスは屋根に上ると手にしたトンボ? を手慣れた様子で扱い、積もりに積もった雪を掻き下ろす。十数キロはあろうかという雪を一度に、大量に、下へと落とす。その様子はまるで雪崩が起きているかのようにも見えた。
「すごいですね」
「馬鹿力ね」
「あの子は普段から重いもの持ってるからねー。慣れたものよ」
 風里は隣で作業している緋王を見て目を細める。
「あなたも大概よ?」
「ん、なにが?」
「さ、寒そうに見えるんですけど……」
 風里の言いたいことが分かったのか、優里が言った。
 ああ、と緋王は自分の身なりを見て答える。かなり薄着だった。
「あたし寒いの平気なんだよね」
「それと、どうして腕の立つ冒険者のくせにこんな依頼受けたのよ。他のは気お人好しな連中ばっかりだからわかるけど……」
 言いながら風里が少し離れた場所で作業をしているリースたちを見た。
 こちらに気付いたのだろう。リースが元気よく手を振ってくれた。
 頑張ろうねー、という意味かもしれない。風里が同じように手を振りかえす。
「あはは……そっち系の依頼のみで生活費稼ぐのって結構大変なのよー。収入はあるかもしれないけど、支出も大きいからね。特に戦ったりしてると消耗品使うから」
 緋王は懐から何枚かの用紙を取り出す。
「それに載ってるような国家規模で賞金の掛かったモンスターや犯罪者でもしとめりゃ、一攫千金だろうけどねー。支出に自分の命が入るかもだけど」
 風里は受け取ると中身を見た。
 そこにはいかにもな風貌の人物から明らかに異形のような生物まで幅広く載っていた。特徴やいつごろ何処で目撃されたかなどが書かれている。
「あら……これすごい近くね」
「どれー? って北の山超えたところの森じゃないですか!?」
 東雲姉弟が見たのはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)のことが書かれている用紙だった。緋王とも縁の深い人物である。
「賞金かかるような奴は非常に危険だから、見かけたら逃げるのをオススメするよ。特に今見てる奴には近づかない方が良いよ」
「……実は最近目撃されたらしいこの森なんですけど、今度荷物運びの依頼で通るんですよね……なんかフラグ立った気がして、なんというか困ります」
「私、今度の依頼が終わったら、今日一緒に仕事をしたみんなとお茶会するわ」
「なんでそうやってフラグを立てようとするのかなあっ!?」
 くすくすと風里は笑う。弟を弄るのが楽しい様子だ。
「……向こうはだいぶ……片付いたようですね」
 ネームレスが皆に声をかけた。
 屋根の上から他の作業の進行具合を見ていたようだ。
「こちらも……作業をすす……めましょう……」
「よし、もう一息だし、頑張ろうかー!」
 緋王の掛け声に東雲姉弟がスコップを持ち上げて応えた。