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リアクション
「グィネヴィア! いたら返事をして!」
「……まいちゃん、花妖精さん!」
耳栓とランタンを装備している舞香と綾乃は急ぐためと森中を巡る泉の水に触れないために空飛ぶ箒スパロウにまたがり、担当区域を捜し回っていた。先頭は林道建設に従事し、森林踏破の経験者の綾乃が務めていた。
捜索開始後、しばらく。
「まいちゃん、ここ変貌した花妖精さんが多いね」
「そうね。ランタンで追い払っているのにきりがないわ。グィネヴィアの足跡とかも見つからないわね。汚い水で洗い流されたのかしら」
舞香と綾乃は襲って来る花妖精をランタンで追い返しながら言った。綾乃の言葉通り東が一番変貌した花妖精が多いのだ。
追い返したらまた別の花妖精が箒にまとわりついて振り切りる事が出来ない。中には木の枝を振り回す者もいる。殺傷能力はないが果てしなく鬱陶しい。
とうとう
「木の枝は没収!」
「ほら、どこかに行ってちょうだい。あたし達はグィネヴィアを捜しているところよ」
綾乃が『サイコキネシス』で木の枝を取り上げ、舞香が『子守歌』で全て眠らせた。
「ふぅ、グィネヴィアが襲われていないか心配だわ」
地面で寝息を立てている花妖精を見やりながら舞香がため息をついた。グィネヴィアの性格から実力行使で身を守るとは考えられないのでますます心配になる。
「……他の人からの見つかったという連絡もまだだね」
綾乃はちらりと連絡が来ていないか確認するが、何も無い。他の人も苦戦しているようだ。
「めげてる場合じゃないわ。早く見つけて安心させてあげなきゃ」
舞香は持って来たグィネヴィアの分の道具に目を向けながら気を取り直した。
「あ、まいちゃん。また来るよ」
綾乃は前方から来る花妖精に目を向けた。
先導を過酷な環境にも対応出来る『パスファインダー』を持つリーブラに任せ、シリウスはグィネヴィアの名前を叫びながら続く。ちなみに捜索に邪魔と判断し道具はグィネヴィアの分しか持って来ていない。
「ったく、行くなら行くで一声かけてくれりゃいいのにな。まぁ、助けを求められたらオレでもそうしていただろうけど。しっかし、グィネヴィアといいフォリンといい何で一人で抱え込もうとするんだろうな。もっと人に頼ればいいのによぉ」
シリウスはため息を洩らした。こうしている時も視線は周囲に巡らせている。
「……そうですわね。グィネヴィアさんは優しい方ですからシリウスと同じように目の前で困っている人を見ると放っておけないのですわ。だけど、もう少しそそっかしいのと……もっと図々しく生きてもいいでしょうにね。シリウスのように」
リーブラはちらりとシリウスの方に視線を向け、冗談っぽく笑いながら言った。
「リーブラ、褒めているのか馬鹿にしているのか分からないぞ」
シリウスは苦笑いをしながらツッコミを入れた。
「……シリウス、花妖精ですわ」
リーブラは接近する襲撃者に気付き、お喋りを終わらせ『アイアンフィスト』を使用し素手で払った。襲撃者である花妖精もまた犠牲者なので傷付けたくはないのだ。
「……多いな。リーブラ、ここを離れるぞ」
シリウスは襲撃者の数にこのまま膠着状態でいるのは時間の無駄だと考え『ホワイトアウト』で花妖精達の方向感覚を奪い、リーブラの『戦略的撤退』で退却した。
この後も捜索を続けた。途中、花冠消失の犯人がフォリンである事や北で発生している事を知るとシリウス達はフォリンの事が気になりながらもグィネヴィア捜索を急いだ。
「えと、グィネヴィアさん……あの、いたら返事して下さい」
リースは空飛ぶ箒スパロウにまたがって森の中を移動しながら必死に大声で呼びかけていた。引っ込み思案な性格のため大声は苦手だがグィネヴィアを捜すために頑張っている。ナディムとセリーナは後ろから捜しながら付いて行く。リースは『ディテクトエビル』、セリーナは『殺気看破』、ナディムは『イナンナの加護』で襲撃者の警戒を強化していた。対策用の耳栓もランタンも忘れずに装備している。ちなみにグィネヴィアの分はナディムがしっかりと持っている。
凶暴化した花妖精に会う度にランタンで追い払いながらも捜索を続けた。
道々、
「グィネヴィアのお嬢さん、自国のために頑張っていたんだな。留学してもきっと国の連中のためにと遠慮してやりたい事も我慢した事もあっただろうな。そう考えると世間知らずの姫さんが一人で重要な任務なんてよっぽど大変な事が起きているんだな」
ナディムは、グィネヴィアと関わった出来事を振り返った。願いを叶える石を探していたのもとある双子主催の親睦会に参加したのも自国を救うための協力者を得るためだったのだと分かる。
「グィネヴィアちゃんの国の人達のためにも早く見つけないとね〜」
セリーナものんびり口調ではあるが、グィネヴィアを心配していた。
「は、はい。え、えと見つけたらグィネヴィアさんと一緒に花冠に使えるお花を探したいですね」
リースが呼びかけを少し止めて仲間達の話しに加わった。視線は絶えず、グィネヴィアを捜していた。途中、北の惨事や花冠消失の犯人を知らされた。
グィネヴィア捜索者が森に入る前、葉が色褪せ、黄色になりつつある木の裏側。
「……このままでは」
一人木の影に身を潜ませるグィネヴィアは途方にくれていた。
「……早く森を出て皆様にお会いしなければ」
どれぐらい時間が経過したのかは分からないが、仲間達に迷惑を掛けている事だけは分かっていた。グィネヴィアは知らなかった。自分や祭司の捜索、花冠の準備が進められている事を。
突然、
「……この声」
グィネヴィアの脳裏に知った声、ルカルカの声が響いてきた。
“グィネヴィア、無事? 怪我は無い? どこにいるか分かる?”
ルカルカの問いかけに驚きながらも知った声に安堵しながらグィネヴィアは無事である事を伝えるも居場所は分からないと申し訳なさそうに答え、花冠やフウラ祭司の事を心配した。
“花冠もフウラ祭司の事は心配しないで今捜索しているから。グィネヴィアの所にもすぐに助けが行くから。あんまり、すまない気持ちにならないでね”
ルカルカは何もかも心配無いと伝え、慰めてから会話を終わらせた。
ルカルカとの脳内会話終了後、
「……皆様と森を助けに来たはずですのにこんな迷惑をかけて……わたくし」
慰めのおかげで少しの間は心細さを感じずに済んだが、すぐに独りぼっちの寂しさとみんなに余計な手間を掛けている自分を責めずにはいられなかった。
それでもグィネヴィアは動けずに助けを待つ事しか出来なかった。
捜索者を待ち続けてかなりの時間経過後。
捜索者が来るまで襲撃者に見つからずに済むと思っていた時、
「きゃぁ!!」
数人の凶暴化した花妖精に発見されてしまった。対花妖精の道具を持たないグィネヴィアには突然の危機。
しかし、
「グィネヴィア様を傷付ける事はこのわたくしが許しませんわよ!」
どこからともなく麗が現れ、登場早々『雷霆の拳』で雷光の如く素早く構え次々と地面に撃墜させ気絶させていった。アグラヴェインが懐柔した花妖精は正確な情報をくれたようだ。
「グィネヴィア様、ご無事ですか」
麗に続いて現れたアグラヴェインはグィネヴィアの無事を確認する。
「麗様にアグラヴェイン様」
グィネヴィアは見知った二人の登場に安堵した。
「……ありがとうございます。皆様がいなかったらわたくし……」
グィネヴィアが申し訳なさそうに麗達に礼を言っていた時、横から
「グィネヴィア!!」
綾乃を引き連れた舞香が登場した。アグラヴェインから連絡を受け、猛スピードで空飛ぶ箒スパロウで駆けつけたのだ。
「あっ、舞香様に綾乃様」
グィネヴィアが驚く中、舞香は箒から降りるなりグィネヴィアをそっと抱き締めた。
「無事で良かったわ。もう心配したんだから……」
安堵し、抱き締めながらグィネヴィアの頭を撫でた。
「もう大丈夫だよ」
綾乃もにっこり。
「……はい」
グィネヴィアは綾乃にうなずきながらもうるりと瞳を潤ませ、今にも泣きそうであった。
「ほら、泣かないで。こんな事ぐらい誰も迷惑だなんて思っていないわ」
再会をひとしきり楽しんでから舞香はグィネヴィアを解放し、笑顔を向けた。
「そうですわ。わたくし達同じ百合園の仲間なんですから!」
麗が当然だと言わんばかりの力強さで舞香を援護。
「そうだぜ。もっと頼って欲しいぐらいだぜ」
「見つかって安心しましたわ」
シリウスとリーブラも連絡を受けて急いで駆けつけたのだ。
「……皆様、本当にありがとうございます。わたくし、皆様がいなかったら……本当に何も出来なくて……」
グィネヴィアは百合園女学院の仲間達に囲まれ、素敵な仲間と出会った事に感謝すると共に思わず自分の不甲斐なさに言葉を詰まらせた。
「おいおい、そんな事無いだろう? エリュシオンでみんなを助けたじゃねぇか。それだけじゃない、他にもいろいろ助けただろう? それは全部お前だから出来た事だ。何にも出来なくてというのは自分の事を卑下し過ぎだろ」
シリウスはうつむき加減のグィネヴィアに呆れながら優しく説教をした。今までの事を思い出しながら。エリュシオンでの出来事、夫の頭探しに難儀していた年老いた幽霊夫婦、石青年の事、優しいグィネヴィアだからこそ出会った人達ばかりだ。
「……そ、そうです。グィネヴィアさんには素敵なところがたくさんあるんですから」
リースも必死に励ます。リース達もまた連絡で知った情報を元に駆けつけていたのだ。ある提案を抱えながら。
「そうそう。だから笑顔、笑顔。お姫様がうつむいて泣いてちゃ、みんな笑えないんだから。貴女がみんなに笑いかけてあげなくちゃ。ね?」
舞香はグィネヴィアに向かってにこっと満面の笑みで元気にしようとする。
「……はい」
グィネヴィアは舞香の笑顔に誘われるように顔を上げ、こくりとうなずいた。
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