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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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「……ほう、夜光桜か。夜の花見もたまには良いかもな」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)はちらりと夜光桜に目を向けた後、自作の重箱二段の花見弁当を広げ、盃を山南 桂(やまなみ・けい)に差し出した。
「確かに綺麗ですね」
 桂は盃を受け取り、酒を注がれながら舞う光る花びらを目で追って花見を楽しんでいた。
「……風流だな」
 酒に弱い翡翠は盃に浮かぶ光る花びらが次第に輝きを失う様を眺める事で酒を楽しんでいた。
「……ところで主殿、いつもと雰囲気違うようなんですけど、酔いましたか?」
 酒を飲んでいた桂が自分が知っている翡翠と違う雰囲気が気になっていた。
「いや、酔ってはいないが、そうか、夜の姿はレイスと美鈴しか知らんから夜と仕事の時だけ、性格変わるだけさ」
 薄く唇の端を吊り上げながら答えた。
「……そうですか」
 多少雰囲気が変わろうが翡翠である事は変わらないので追求などはせず、桂は黙って酒を飲んだ。
「……せっかくの花見だ。桂、久しぶりにお前の笛が聞きたい。行けるか?」
 とても風流な環境にいるせいか何気なしに桂の笛が聴きたくなった翡翠。
「俺の笛ですか? とても人に聞かせる物じゃないですよ。久しぶりですので、腕、落ちていますけど、良いんですか?」
 桂は弁当を食べる箸を止め、翡翠の唐突なお願いに表情を少し曇らせた。
「別に良いさ、聴くのは自分だけだろうし、花見に合う曲を一つ頼む」
 翡翠はもう一度桂に演奏を頼んだ。音楽の批評家では無いので別に腕が落ちていようがいまいが気にはしない。
「……分かりました。では、一曲」
 二度も頼まれた桂はとうとう折れて立ち上がり、両目を閉じ、横笛を静かに丁寧に吹き始めた。桂の美しい外見と風により舞い散るほのかな光によって夢幻の一つに見えた。腕が落ちてると言っていたが、目立ってそうだと分かる箇所はどこにもなかった。
 たった一人の聴衆である翡翠は笛を吹く桂を静かに眺め、音を楽しんでいた。

 桂の演奏が終わると同時にどこからともなく激しい拍手が響いたかと思ったら少女座敷童が現れた。
「笛の音に惹かれて珍しい客が来たみたいだな。これでも食べるかい?」
 翡翠は手招きをしながら弁当を見せた。少女座敷童はじっと翡翠と弁当を見比べ熟考していたが、すぐにやって来た。
「食べる。あ、あたし、結衣」
 元気に色んなおかずをつまみ始めた。
「主殿、元々、食べない方なんですから、勧めるのも良いですが、ちゃんと食べて下さいよ?」
 桂は作った本人がほんのわずかしか食べていない事に気付いていた。
「……分かっている」
 翡翠は適当に答えるも食べる様子は無かった。もう桂は何も言わず、結衣に自分が作った桜餅を勧めた。勧められた結衣は美味しそうに食べた。『調理』を持つ翡翠と桂の料理はどれも美味しく結衣はとても満足していた。
「ところでそれは横笛ですね」
 桂は弁当や桜餅を食べる結衣の帯に挟んでいる横笛に気付いた。
「うん、そうだよ。でもあたし下手で綺麗な音が出ないんだ。練習してたらすごく綺麗な音が聞こえて……前に起きた人を誘拐したりする事件があったでしょ。あたしも友達もその事件には巻き込まれなかったんだけど、友達、妖怪が嫌いになったの、自分が妖怪である事も、家に閉じこもっているんだ。だから……」
 結衣は食べるのをやめて事情を話し始めた。
「それで来たのか」
 と、翡翠。激しい拍手の理由は頼りになりそうな先生を発見した喜びも含まれていたのかと。
「そうだよ。だから、教えてよ。友達を励ましたいんだ」
 翡翠の言葉に力強くうなずいた後、訴えるような目を桂に向けた。
「俺がですか?」
 桂は困ったように聞き返した。人に聴かせるにも渋ったのに教えるとなるとますます即答など出来ない。
「うん。友達の好きな曲でも吹いたら元気になるかなって。だめ?」
 結衣は両手を合わせ目を潤ませて必死に頼み込む。
「……そう言われましても」
 どうしたものかと考える桂。結衣の様子から相手はとても大切な友達である事が分かる。だからこそ簡単にやると返事など出来ない。
 そこに
「いいんじゃないか。袖振り合うも多生の縁というだろ」
 翡翠の発言が進展しない桂達の会話に割り込んだ。
 桂は翡翠の言葉と結衣の必死な顔を見て少し考え込んだ後、
「……では、どのような曲か教えて貰えませんか」
 承諾した。
「ありがとう!!」
 そう言って結衣は桂に演奏したい曲を教えた。桂は手本として見事に演奏していたが、結衣にとっては少々難しい曲ですぐに吹けるようなものではなかった。桂は的確な助言をし、練習を続けるように教えた。小さな生徒はしっかりと耳を傾けていた。
 翡翠は静かにその様子を眺めていた。

 数時間後、
「ありがとう。絶対に吹けるようになるからね!!」
 結衣は嬉しそうに帰って行った。まだまだ練習は必要だが、桂の助言を受けて吹けるようになると自信を持ったようだ。
「欠かさず練習を続けていけば必ず吹けるようになりますから、焦らずに」
 桂は最後の助言を別れの挨拶とした。
「可愛い生徒が出来て良かったな」
 結衣が去った後、翡翠が軽く桂をからかった。
「……少し性格悪くありませんか?」
 からかいに気付いた桂は少しだけ不機嫌な顔をして翡翠に答えた。
 この後も二人はのんびりと花見を楽しんだ。