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リアクション
【ドクター・ハデス】
ホホホホホホホ!
俺……私の名は、世界制服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部にして白衣の天使ナース・ハデス!
悪しき悪魔たちは、このハデスが看護しちゃうぞ♪
いや、一応本名を名乗っておくとだな、俺……私の名は、ドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
しかしこの日だけは、全くの別人よ♪
冒頭でも述べたように、今の私はナース・ハデスなのだ。ナース・ハデスなのだ。
大事なことだから、二回いいました。はいそこ、明後日の方を見てゲロ吐かないように!
何故この私がナース・ハデスへと華麗な転身を遂げたのか。
理由は、ただひとつ。
悪の秘密結社の幹部として、金鋭峰に対抗する為である。
囮役程度、教導団の団長に出来て、この俺……私に出来ない筈はないッ!
必ずや金鋭峰以上のセクスィーなアピールで、悪魔共を一網打尽にしてみせるわッ!
その為にわざわざ【魔法少女コスチューム】に【変身!】して、超ミニスカートの白衣に身を包んだって訳でございますよのッ!
………………どうして、こうなった。
あ、いや、後悔などしている場合ではない。
ここは気を取り直し、我ら……じゃない、私達オリュンポスは、不埒な悪魔共を誘い出し、教導団よりも多くの悪魔を捕らえるのだ……のよッ!
「分かりましたッ、ハデス先生! 私も、悪魔を捕まえるお手伝いをしますッ!」
蒼空学園高等部の制服を着込んだペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が頼もしげに応じれば、
「分かりました、ハデス様! その不埒な悪魔達を一網打尽にする為に、囮になればいいんですねッ!」
と、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)も勇ましげに胸を張った。
そして女装した全身黒タイツ姿の我が戦闘員達も、気合十分に
「イーッ!」
と甲高い声を上げて、忠誠のポーズを取っている。
実に、実に実に実に実に実に実にッ! 実に、素晴らしい光景ではないかッ!
おっと、いかんいかん。
興奮のあまり、ついつい周囲の状況確認を怠ってしまっていた。
空大西キャンパス前駅に停車し、更に大勢の乗客がどかっと押し寄せてきたのだが、その直前に、ひとりのけしからん巨乳娘が、悪魔を捕えたとか何とかいって、空大西キャンパス前駅に待機していた教導団員に引き渡しておったな。
確か、あのけしからん巨乳娘は、冬山小夜子という御仁ではなかったかな。
あれ程のいやらし……けしからん巨乳娘ならば、悪魔も簡単に引っかかるというものだから、私としても納得のいくところではある。
今のところ、金鋭峰に後れを取った訳ではないからな。
しかし、だからといって手を抜いて良い訳ではない。私達も早速、囮捜査だ!
……と息巻いた直後に、すぐ近くから妙な息づかいが聞こえてくるぞ?
「んっ……あっ……んふっ……」
おい、何だこれは。
女の喘ぎ声ではないのか? しかも、かなり性的興奮を伴っていると見える。
もしかすると、悪魔とやらが囮捜査官に手を出しているのかも知れない。これは是非、参考までにじっくり観察し、私が悪魔めを陥れる際のヒントとしたいところだ。
が……どうにも、様子がおかしいな。
声は、ドア付近から漏れてくるのだが……おいおい、これは一体どういうことだ?
薄手のシャツにミニスカという、いかにもな格好の娘っ子がドアに押し付けられ、背後から抱きすくめている男の手によって、胸やら尻やらを服の内側から直接、触れているようだ。
それはまぁ、良い。エスカレートした痴漢なら、そこまでやる奴も居るだろう。
だがな、問題は男の方だ。
こやつ確か……コントラクターではなかったか?
私が事前に入手した情報によれば、女の方はミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)、そして男の方は潜入捜査官である筈の教導団員霧島 玖朔(きりしま・くざく)ではないか。
「ここは、痴漢が多いから見張っていたんだ……俺がそばに居るから、安全だろう?」
などと霧島なる教導団員がぬかせば、
「触ったりするだけで満足なの? あたしは、物足りないわ……だから、この後ふたりっきりで、どう?」
と、女の方も挑発まがいの台詞で切り返す始末だ。
正直……何をしにきたんだこやつらは、と思わざるを得んな。
ぶっちゃけ、本人達だけで楽しんでおけば良かろうというのが私の意見だ。我がオリュンポスの目的はエロ行為の盗み見などではなく、悪魔捕縛なのだ。
コントラクター同士の乳繰り合いなど、全くもってアウト・オブ・眼中である。
何の参考にもならないから、私はこのふたりのいちゃつきシーンなどさっさと見限り、改めて、悪魔の存在の有無について確認すべく、視線を四方八方に投げかけてみた。
「おいてめぇ! そこまでだっ!」
不意に、若い男の鋭い叫び声が車内に響いた。
まるでさっと潮が引いていくように、その声の中心から乗客達が驚いた顔つきで退いてゆき、ちょっとした空間が出来上がる。
見ると声相応の青年が、別の女性と一緒になって、ひょろっとした青白い顔つきの男を取り押さえていた。
青年は、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)という若者だな。彼に協力しているのは、パートナーのミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)という女性らしい。
この黒崎青年の後ろには、別のふたりの女性がやや怯えた表情で佇んでいる。
ははぁ、どうやら読めてきたぞ。
恐らくこのふたりの女性が囮役となり、現れた痴漢だか悪魔だかを、黒崎青年とミリーネなるパートナーが一緒になって捕まえた、というところか。
囮役のふたりは、情報に間違いがなければ、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)と椿 ハルカ(つばき・はるか)の両名であるな。
「ひとの恋人に手を出す奴ァ、許せねぇ!」
尤もらしい台詞で決めポーズを取っている黒崎青年だが……しかし、よくよく考えればおかしくないか?
自分の恋人に、痴漢捜査の囮役をやらせていたのか?
いっちゃ悪いが、それは男として最低の行為ではないのか?
いや、まぁ、余所の恋愛事情など知ったことではないが、どうにも腑に落ちんな。
もしかしたら、恋人の少女が自分から囮役をやるといい出したのかも知れんが、例えそうであったとしてもだな、すんなり受け入れる男の神経というものを、私は疑わざるを得ない。
いやいやいや、いかんいかん。
オリュンポスの幹部ともあろう者が、赤の他人の恋愛についてどうこういっているなどとは、それこそ由々しき事態だ。
こちらはこちらで、仕事に集中せねばな。
結局、その痴漢が悪魔だったのか、ただの痴漢だったのかはよく分からないまま、駆けつけてきた教導団員達に引き渡され、黒崎青年達の囮捜査はひとまず終了だな。
囮役であることが知れたのだから、これ以上の捜査は不可能ということだな。
よし、今度こそ我らオリュンポスの出番だ。
悪魔めが出現したら、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)の出番だ。
絶対に、逃がしはせぬぞ。
「あっ……ハデス、様……っ!」
アルテミスの、幾分息を殺した声が静かに呼びかけてきた。
どうやら、来たようだな!
金鋭峰の女装よりも、我らオリュンポスの作戦が優っていた事実を証明する時だ!
「悪魔が来ても、私は変身すれば大丈夫ですッ! というわけで、機晶変身ッ!」
改造人間のペルセポネが、【変身ブレスレット】から【パワードスーツ】を出現させ、蒸着しようと試みた……が、これは一体どういう訳だ。
ペルセポネは変身するどころか、純白の下着姿のままで、その場に変身ポーズのまま突っ立っておるぞ。
しかもここで、事故が起きた。
「やん……ってちょっと、なんで発明品が私の方に!?」
アルテミスの声に振り向くと、とんでもない事態に発展していた。
悪魔を捕縛する筈の発明品がどういう訳か、触手を次々と伸ばしてアルテミスとペルセポネに襲いかかっているではないか。
これは、かなり美味しい……いやいや、そうじゃなくて、危ない展開だ。
どうやら私は、発明品のテスト段階でアルテミスとペルセポネを攻撃対象として設定していたのだが、本番前に攻撃対象データを悪魔共に書き換えるのを、すっかり忘れておったようだ。
「あああああっ! ハ、ハデス先生!」
「助けてください、ハデス様!」
ふたりの懇願する声をまるで無視するかのように、発明品は容赦なく、あんなことやこんなことを……。
ん?
どうしたことだ?
何故か急に、視界が真っ暗になってきたぞ。
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