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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション



――エレハイムサイエンス社


 ロビーに笑い声が響いた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! 
 ククク、エレハイム・サイエンス社よ! この俺の《機晶技術》知識を買わんかね?」
 受付が何こいつという顔をする。いきなり団体を引き連れて入ってきたかと思えばおかしなことを言い出す白衣に本日終了間近の営業スマイルが引きつる。もう勤務時間は終わるというのに、こいつはなんだと。
「さて、ここで一つエメリッヒ博士に取り次いで貰いたい。天才が会いに来たと」
「エメリッヒですか……」
 受付がこんなにのもチャント、アポイントメントが有ったことに驚く。が、エメリッヒは社内にはいないと人管理システムが告げる。
「申し訳ございませんが、博士は外出中です。外来の受付は直に終了いたしますのでまた明日お越しください――ひぃ!?」
 受付台に突き刺さった【メス】とハデスの腕で回っている【改造ドリル】が顔に近づく。耳元でけたたましく唸るモーター音に受付が涙目になる。
「おいおい、悪の天才科学者が何もなしに一般企業に来るわけがないだろう? 知ってるのだよ。この会社が人間を使った実験をしているってのは。それを手伝ってやろうといっているのだ俺は。他の博士でもいいから出せ……なんならここが拐ったアリサという女性と同じく、受付くんも改造してやろうか?」
 久々の悪人顔のハデスが迫る。
 その後頭部を高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が叩いた。
「ちょっと兄さん!? ESCに協力するって、何血迷ったことを言っているんですかっ!? アリサさんを助けに来たんじゃないですか!?」
「何を言う咲耶。我々オリュンポスがこの高度化学世界を訪れたのだぞ! なら多少の犠牲を払ってでも我らは新たな科学力とその発展を遂げなければならん! それが世界征服のためになるのだ!」
「つまり、兄さんはただこの世界の技術が欲しいだけじゃないですか! だめです!」
 妹に兄が叱られる。だが兄は言うことを聞かない。
「ハデスさん、ちょっとよろしいですか?」
 SFL0053445#ミネルヴァ・プロセルピナ}がハデスの肩を突き、顔を向かせる。
「なんだ?」
「私欲のため身売りをするのはよろしいですが、まずはこの状況をどうにかしてくださいませんか?」
 疑問符を浮かべてハデスが周りを見渡すと、すっかりと警備アンドロイドに囲まれている状況が目に飛び込んできた。この状況、前にも見たような気もしなくもない。いや、いつも通りか。社員に刃物とドリルを向けては、こうなっても仕方ない。
「さてじゃあ、お話を聞きまししょうか? それであなた達の処遇を決めましょう」
 ハデスの指名通り、博士が現れる。指に幾つもの宝石を嵌めた、奇怪なサングラスの長髪が。
「オレはアイザック・サンジェルマン。第一研究所の主任をしています。さて、色々とオレの実験を知っているみたいですし、そこの受付ともども、みんな改造してあげましょうか?」


「きゃっ!」
 電子錠を掛けられた咲耶が部屋に押し込まれる。鉄の部屋だ。窓は小さな窓があるが、そこから外へは出れるような大きさではない。
 【レックスエレイジ】で腕の錠を破壊しようとするが、拘束者の破壊意志を読み取って、高圧電流が流れる。下手に力を入れることが出来ない。
「これどうすればいいの……兄さん馬鹿……」
 自分の身の置かれた状況に兄への恨みがこみ上げる。
「あなたは? 咲耶さん」
 奥から咲耶に声が掛かる。
「アリサさん?」
 アリサが駆け寄る。彼女には拘束具はついていない。必要がないからだろう。外側ロックの部屋に閉じ込めるだけで十分だった。
 アリサが尋ねる。
「どうして咲耶さんがここに?」
「……兄に売られたんです。実験材料として」
 兄であるハデスはアイザックと密約し、アリサと同じ強化人間である咲耶を素体として売り渡したのだ。今頃彼らは強化人間がどういうものか、二人をどうするのか話しているだろう。
「『これでも化学の発展のためだ。すまない、許せ』って、あの笑顔、絶対すまないって思ってないです!」
 妹に電子錠が掛かるのを見てにこやかに笑う兄の顔が思い出すだけでも腹立たしい。
 しかし、すぐに意気消沈する。明日を迎えるまでこの姿で居られるかもわからないからだ。
 咲耶がボソリとアリサに尋ねる。
「……私達どうなるんでしょうか?」
「明日までは大丈夫です」
「……え?」
「王族の視察がくるため、実験はできないそうです」
 怯えた様子もなく、アリサが答える。
「大丈夫、皆さんが助けに来てくれますよ」