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とある魔法使いの灰撒き騒動

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とある魔法使いの灰撒き騒動

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【いともたやすく行われるえげつない行為】

「……ちっ、避けられた!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が忌々しげに吐き捨てると構えていた【拡散性ミリオンバスター】を下ろす。中には【全自動みかんの皮剥き機】で皮をむいたみかんを絞った物が装填されている。
 これで詩穂は偽アッシュを【シャープシューター】などで狙い撃ったのだが、悉く避けられてしまった。
「しかし液体やフェイントまで完全に避けるとか……一体どういうことだよ……」
 本物アッシュがそう言って舌打ちする。

 何故、偽アッシュは攻撃を避けられるのか。それは目という特性故である。
 彼は目のパーツであるが故、目に関する能力が段違いに上げられている。視力は勿論、動体視力もである。
 異常なまでに良い動体視力から見える世界は、動く物が全てスローモーションである。本来であれば避ける事が困難な液体もゆっくりと向かってくる光景になる。その中でどう動けば良いか、という判断を見てから下す事ができるのだ。
 更に視力の面でもフェイントも動体視力と合わせ、その視力から細かい筋肉の動き等から囮の行動も読める。
 つまりはこの偽のアッシュにとって、回避は後出しじゃんけんのようなものである。攻撃を確認してから、回避行動に移すことができるのだ。

 が、それを本物アッシュを含め誰も気付くことはなかった。

「アッシュ如きが。舐めた真似をしてくれるね……」
 詩穂がまるで養豚場の豚を見るような冷たい目を偽アッシュに向けるが、涼しい顔をしている。
「けど、目だから弱点だと思ったんだけどなー……」
 詩穂ががっかりしたように【拡散性ミリオンバスター】を見る。
 目のパーツ、というからには眼球が飛んでいる、と思った為詩穂は用意してきたのであるが実際に居たのは偽アッシュ。高い回避力に加え、小さい眼球をピンポイントで狙うのは困難であった。
 実際目にかかったら効果的なのは間違いないと思われる。目にかかったら、であるが。
「あ、そうだ」
 ふと、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)が思い出したかのように手を叩くと、ごそごそと荷物を漁りだす。
「あったあった」
「ん? なんだそれ?」
 ターラが荷物から何かを取り出したのを見て、本物アッシュが問う。
「これ? 染みるっていうことで有名な某目薬。これ、アイツに効くんじゃない? 眼球なんだし」
「ま、まぁ……確かに効くだろうけどな……」
 そう言うターラにジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)が困ったような表情を浮かべる。
「何? 何か問題でもあるの?」
「いや、それをどうやってアイツにかけるんだ?」
「さあ? 知らなーい」
「し、知らないって……」とターラの返答にジェイクが言葉を失う。
「……ターラ、一つ聞いていいか?」
 何とか平静を装いつつ、ジェイクが問う。
「何ー?」
「まさか、その目薬しか持ってきてない、とかいうんじゃないよな?」
「……ジェイク、後は任せた」
 グッとターラがジェイクにサムズアップ。
「っておい! 丸投げかよ!?」
「大丈夫、ジェイクならできるわ。多分。後シンディもなんとかしてくれるはず。大丈夫大丈夫、何とかなるって」
 そう言ってターラは満足げに頷く。完全に丸投げする気満々である。
 その様子を見てアッシュは「大丈夫かおい」と不安な表情を浮かべていた。
「そんな事言われてもなぁ……なあ、案は有るか?」
 ジェイクが困ったように頭を掻きながらシンディ・ガネス(しんでぃ・がねす)に問いかける。彼女は何か考える仕草を見せていた。
「……思ったんだけど」
 ふと、シンディがぽつりと口を開く。
「何だ?」
「今回の件っていうか、この状況になったのってアッシュのせいよね?」
「う……ま、まぁそうだけどよ……」
 突然槍玉に上げられ、ばつが悪そうに本物アッシュが顔をそむける。
「なら、その変な格好をしたアッシュを盾にして挑めばいいんじゃないのかしら?」
 シンディが鬼畜な発想をしてみせた。
「おお、名案!」
 ターラが「その発想は無かった」とばかりにぱちぱちと手を叩く。
「名案でもなんでもねぇよ!」
 流石に本物アッシュもこれは苦笑い、では済まない。
「流石にそれは酷いだろ……」
 その横でジェイクが困ったように呟いた。
「でもそれくらいしか策ないんじゃないかしら? それとも元の姿戻るのをあきらめる?」
「それ諦めてたまるかよ!」
「えー! 諦めようよー!」
 すると、今まで黙っていたリィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)が不満そうに会話に口を挟んでくる。どうやらリィナは今のアッシュの格好を気に入っているようである。
「いや何で諦めなきゃならないんだよ!?」
「だって折角手に入れた個性だよ? 折角の個性が無くなっちゃうんだよ!? それでもいいの、アッシュくん!?」
「いいに決まってるだろうが! こんな恰好俺様は望んでねぇから!」
 本物アッシュの答えに、リィナは不満げに頬を膨らませる。
「ならやっぱりアッシュが盾になるしかないわね」
 シンディがそう言うと、ターラもうんうんと頷く。
「だから何でその発想になる!?」
「でもそれくらいしかないわよ? さ、恐れないでレッツシールド!」
 ターラがそう言うと、シンディが本物アッシュの背を押し出す。
「ってちょ、やめろって! マジヤバいから! シャレにならないから!」
 ジタバタと本物アッシュがもがくが、シンディはド真面目にアッシュを盾にして進もうとする。これで誰もアッシュを助けようとしない辺り、皆よく訓練されている。
「はぁ……っておい……!」
 ふざけているようにしか見えない光景に呆れた様に溜息を吐いたジェイクの目に、偽アッシュが映る。
 それはこちらへ視線を向けて、怪しげな光を放っている姿であった。ビームの前兆である。
 その視線の先は、本物アッシュと、それを盾にするシンディとターラ。
「おい! ふざけてる場合じゃないぞ!」
 ジェイクが慌ててターラ達の下へと駆け寄る。が、
「ぬおぉぉぉぉ! 盾にされてたまるかぁッ!」
本物アッシュの振り回した腕が、ジェイクを捕らえる。
「――え?」
 そしてジェイクは本物アッシュ達の前へ。結果、
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
哀れ、ビームの餌食となるジェイクであった。
 おかげで本物アッシュ達は無傷であったが、盾ことジェイクはぼろ雑巾のようになり、その場でばったりと倒れた。
「あーあ、ジェイクったらボロボロになっちゃって」
「こっち盾にしても良かったかもしれないわね」
 ぼろ雑巾になったジェイクを見て、ターラとシンディが呟いた。