校長室
婚活卯月祭、開催中!!
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蓮華のいる、すぐ近くの調理ブースに馬車が停まっている。馬車から日よけを掛けた先では、調理するエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)の手元をジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が覗いていた。 「もう少しで焼き上がりそうですね」 ホットサンドを焼きながら、エメは手際よく数種類のカナッペを用意している。エメはこの祭りで、ジェイダスと一緒に調理をしようという約束をしていた。 「美味しそうだ」 「ジェイダス様のお口に合うと良いのですが――味見をして頂けますか?」 あーん、と言いながらエメの差し出したカナッペを、ジェイダスは口にする。 「……ほう、なかなかのものだな」 「ありがとうございます」 「自分でも味見をしてみたらどうだ? 今度は私が食べさせよう」 こうして時に一緒に食べさせ合いながら、エメとジェイダスは手際の良く軽食を作り終えた。 エメとジェイダスは、調理する二人を眺めていたラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)と共に、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が場所取りをしている草原の一画に移動した。リュミエールはこの眺めの良い場所を、前日から場所取りして確保していたのだ。 蘇芳色地に黒で薔薇を染め抜いて作成した防水加工の布製レジャーシートに、同色の日除けのテントが設置されている。 「お待ちしておりました。ジェイダス様、ラドゥ様」 「ほう、ここから見える景色はなかなか美しいな」 大喜びで二人をシートに案内するリュミエールと、草原を一望するジェイダス。 「夕暮れには、一面が金色に輝いてとても美しいのだそうですよ」 エメは言葉を付け足しながら、ジェイダスとラドゥの前に食事を用意して行く。 並べられたのは、先ほどエメとジェイダスが作ったホットサンドとカナッペ、飲み物はアイスレモネードとその場で挽いたコーヒー。 リュミエールは飲み物や料理の給仕を担当しながら、四人は夕暮れまで穏やかな時間を過ごした。 夕暮れ近くなった頃、のんびりとした時間を過ごしていると、リュミエールはすぐ近くを野うさぎが走って行くのを見付けた。 「ラドゥ様」 「何だ」 「ほらあそこ、野うさぎがいるよ」 「それくらい分かっている」 素っ気ない返事ながらも、ラドゥが自分と同じものを見てくれているのが嬉しくて、リュミエールは思わず微笑んだ。 すぐ近くに咲いている花を、エメとジェイダスは眺めていた。 「野の花も味わいがあっていいものですね。今度華材に取り入れてみてもいいでしょうか」 「楽しみだな。どのように生けるか、期待していよう」 「精進致します」 ジェイダスとエメが野の花を見ながら話していると、 「できた!」 と言って、リュミエールが顔をあげた。その手には、花冠が乗っている。 リュミエールは先ほどから、近くに咲く花を使って花冠を作っていたのだ。 「ねぇ、ラドゥ様」 「何だ」 リュミエールは微笑んで、ラドゥに花冠を差し出した。 「大好きだよ」 「……なっ!?」 エメは突然のことに、リュミエールとジェイダスとラドゥを順に見つめた。ジェイダスの顔からは一瞬表情が消え、リュミエールをじっと見据えてからラドゥを見た。 「だけど僕はこうやって4人でお茶を楽しむのも好きだし、ラドゥ様が誰を一番に想っているのかよく知ってるし、困らせたくもないんだ」 リュミエールの言葉を聞きながら、ラドゥはちらりとジェイダスを見た。ジェイダスはもう、いつも通りの不敵な笑みを浮かべてラドゥを見返していた。 「だからそうだなあ、ラドゥ様、お友達からお願いします」 安全だと思われるのも面白くないしね、と微笑むリュミエール。 「大胆なことをするな」 「そうかな? それに、ジェイダス様がいない時にこそこそ言う方が嫌な感じだと、僕は思うよ?」 エメはリュミエールの発言をじっと見守るように見つめている。 「ねえ、ラドゥ様。お友達になってくれますか?」 ラドゥはちらりとジェイダスを見てから、ふいと顔を背けた。 「…………勝手にしろ」 ラドゥの言葉は、拒否しているようには聞こえなかった。 それから少しして、リュミエールがうとうととし始めた。前日から場所取りをしていた疲れが出たのだろうか、それか、ラドゥに告白を済ませたため安堵したのか。 「……眠ったか」 ラドゥはそう言って、寝入ってしまったリュミエールの頭をちょんちょんとつついた。 「撫でているつもりか?」 「そ、そういうわけではない」 ジェイダスとラドゥの様子を見ながら、エメは微笑んだ。 「そろそろお開きにしましょうか」 エメは寝入っているリュミエールに近づくと、軽々と肩に担ぎ上げた。 「またこうして外にもお出かけしたいです」 リュミエールを馬車の御者台に乗せると、エメはジェイダスたちに向き直った。 「美しい景色を眺めるのは、美意識を磨く上で必要だからな」 「暑くなってきたら、避暑に湖畔に出かけるのもいいですね」 そんな会話をしながら、エメたちは丘を後にしたのだった。