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婚活卯月祭、開催中!!

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 丘の中腹で景色を眺めているセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)の元に、緒方 太壱(おがた・たいち)が歩いてきた。
「……よぉ、ツェツェ、元気にしてたか?」
「ん? 元気よ」
「イヤあのそういう意味じゃなくてよ、体調はどうかって……」
 太壱の言葉が聞こえているのか居ないのか、セシリアは「あっ」と声を上げて丘の麓の方を指差した。
「あ、パパーイだ……すばるさんと一緒よ、ほら! わたしが持たせた弁当も一緒だ!」
「聞いてネェし!」
 セシリアの指差す先には、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)の姿がある。
「仲よさそうにしてること、多くなったんだ、パパーイ達」
「そっか、そっちの両親もひとまずは安心…だな」
「そーだ! タイチのご両親から遊びに行く許可出たんでしょ、ここにいるって事は!」
「え? まあ確かに親父とお袋には遊んでこいと言われ……」
「ほら、お祭り見に行こうよ! わたしあの屋台の食べもの食べたいな〜タイチ、おごって!」
「コラ、話聞いてネェだろツェツェ!」
 太壱はセシリアに手を引かれ、丘を下って行った。


 丘の裏手にあたる、人気の少ない一画に、林田 樹(はやしだ・いつき)が立っている。樹は、この祭りに警備員として参加している。
「いっつきちゃん! どう、警備捗ってる?」
 背後から樹に抱きついたのは、緒方 章(おがた・あきら)だ。
「いきなり抱きつくなアキラ……そろそろ約束の時間になるのではないか? まあ、奴のことだからもう着いているとは思うがな……」
「はぁい……だ、そうですよ『先生』……殺気看破で分かりますって」
 にやり、と笑った章の視線の先から、アルテッツァとすばるが現れた。
「……お待たせしました」
「……はっ……あの、ロシアンカフェの時は、どう、も……」
「わざわざ呼び出してイツキに抱きつくところを見せるなんて、何の用なんですかMr.オガタ?」
 少し震えているアルテッツァを、章は含み笑いをして見た。
「樹ちゃんは僕の嫁ですから。……野郎の執念深さは警戒するべき、ですから」
「……」
「?! ……マスターを怒らせるとは、キサマ、死にたいようだなァ!」
 アルテッツァの無言の怒りを読み取り、すばやく機関銃を構えるすばる。
「今はいがみ合っている場合ではないぞ」
 樹の一喝が、不穏だった空気を瞬時にして凍り付かせた。
「分かりましたイツキ、……スバル、『今回は』銃を納めなさい」
「あ……はい、わ、わかりました」
 大人しくアルテッツァの言葉に従い、すばるは機関銃を下げた。
「改めて伺いますが、何の用で僕達を呼び寄せたんですか?」
 アルテッツァは声を落ち着けて、樹に訊ねた。
「……話というのは他でもない、あの小娘のことだ。アキラ、例の診断結果を提示してくれ」
「これがセシリア君の診断結果です」
 そう言って、章は診断書を取り出してアルテッツァたちに渡した。
「わざわざ教導団の医療施設に来てこの検査を受けたんですから、よっぽど貴男に内緒にしておきたかったんでしょうね、先生」
 そこに出ているのは、遺伝子診断の結果だった。
「遺伝子診断のとおり、貴男と六連さんの子ということになります」
 章は、淡々と事実を伝える。
「……教職員の健康診断すら受けなかったのには、こんな理由があったからなんですね。それにしても、遺伝子検査……やはり、シシィが言っていた通りでしたか」
「やっぱり、あの時にワタクシが感じた違和感は、そういう意味だったのですね……」
 すばるは、セシリアと始めて会った時に感じた違和感を思い出す。
「……が、厄介なのはこの後です」
 章は、また別の診断書をすばるに渡した。すばるはその診断書に目を通し――数秒の後に、首を傾げた。
「? ……マスター、この検査結果、遺伝子疾患だらけです。セシリアさんのこの結果は、まるで、パートナーロストを起こした時のような……」
「そうだ。この診断結果はパートナーロストでも起こさなければ得られない代物だ」
「『パートナーロスト』?」
 樹の言葉に、アルテッツァが不審そうな声をあげる。
「しかし貴様の話では、未来ではパートナー契約を行っていないようだ……な?」
 そう言って、樹はアルテッツァの目を覗き込んだ。
「ボクが聞いていた話では、「未来ではパートナーはいなかった」……と」
「だとすれば、残る可能性は一つ……『貴男のパートナーロスト後に、彼女は誕生した』」
 章の言葉が途切れた後、四人の間には沈黙が流れた。
「……理論上は可能です」
 重たい空気の中、すばるが診断書を握りしめて、そう告げた。
「採取された生殖細胞で顕微鏡受精を行えば、ワタクシではない者も母胎になれます。でも、そんな狂ったこと……」
「多分それを起こさせないために、この時代に来たのだろうな」
 樹は視線を空へと向けて、呟くように言った。遠くを見るように、だが、どこか決まった地点を見据えるように。
「……その理由をバカ息子……我が家に来た『未来人』パートナーもおそらく知っているようだ」
「ウチの太壱君は彼女を護るためなら何でもしそうですからね」
 樹の言葉に続けるように章はそう言って、苦笑いをした。
「どうやら、事態は退っ引きならないところまで来ているようですね。シシィが『ノーバディ』を名乗っている理由も、推測出来ました」
 アルテッツァは、閉ざしていた目蓋を開いて、樹と章を順番に見た。
「……協定を組まないか?」
 樹が、そうもちかけた。
「あの2人が私達のパートナーになった以上、死なせると言うことは、我々のパートナーロストにも繋がるのだ。……多分、それを『息子達』は、望んでいないはずだ」
「樹ちゃんの提案、受け入れてくれますか……僕達それぞれの未来のために」
 樹と章の真剣な眼差しを、アルテッツァは見据えた。
「……OKイツキ、その依頼、受けましょう。絆で繋がっている以前に、シシィは……ボクの娘ですから」
 アルテッツァは言葉を続ける。
「それと、一度タイチくんとやらにお会いしたいですね。全ては事が解決してから……ですがね」
 四人は、視線を交わした。
「……アルト、天学の黒髪。小娘の遺伝子疾患を解決する方法、それを共に探してくれ。天学と国軍の技術があれば、何かは見つかるはずだ……頼む」
 そう言って、樹は深々と頭を下げた。
「それでは、失礼しますよ」
 アルテッツァに続いて、すばるもぺこりと頭を下げ、二人は踵を返した。

「マスター、ワタクシも出来うる限りお手伝いいたします」
 樹たちから姿が見えなくなった頃、すばるはアルテッツァに声をかけた。
「……マスター?」
 すばるは、アルテッツァの指先を見た。アルテッツァの指先が、わずかに震えていた。
 その指先を、すばるはそっと握りしめた。