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リアクション
「性転換の薬ィ〜、性転換の薬はいらんかねぇ〜!」
とある街角。片手に籠をぶら下げた怪しげな男性が、弾んだ声を上げながら、空いている方の手で小さなビニール袋に入ったピンク色の……チョコレートと思しき物体を振り上げていた。
歴史的な実験(本人談)に成功した、桜坂 のの(さくらざか・のの)である。
本来は女性であるののだが、今はその手の中にある「性転換の薬」とやらの効果のお陰で男に姿を変えている。
どうやら、薬の効果は覿面のようだ。
普段はフリルやレースをあしらったフェミニンな格好を好むののだが、今はパートナーのパトリックから借りた蒼空学園男子制服をカッチリと着込んで、長さの変わらなかった髪は後ろで一つに結わえている。
それだけならば特に怪しげではないのだが、なんというか、ぶら下げている籠とか、手にしているあまりにどぎついピンク色のチョコレートであるとか、振りまいているやたらと躁な雰囲気であるとかが相まって、どうしようもない怪しさが立ちこめている。その所為で余り人は近づいてこない。
が。
「性転換の……薬!?」
そんな中、ものすごい勢いで近づいて来た人影がふたつ。
姫宮 みこと(ひめみや・みこと)と、早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)だ。
「これ、本当に効果があるのっ?!」
今にもののの胸倉に掴みかからんという気迫で、蘭丸が問いかける。
しかし、実験成功に浮かれているののは蘭丸の気迫などするりと受け流し、もちろんですよお嬢さん、と笑顔で答える。そして、手にしたチョコレートの包みをふわりと蘭丸の、そしてついでにみことの手の上に乗せた。
「これが……これが夢にまで見た性転換の……薬!」
「これが有れば……ボクにも安寧の日々が!」
みことと蘭丸の二人は、渡された包みを握りしめると、顔を見合わせて頷き合った。
そして、ののにぺこりと一礼をすると、足早にその場を立ち去っていった。
と、その様子を見ていたのか、別の人影がひょこひょことののの元へと近づいて来た。フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だ。
「あのー、これは、なんなのですか?」
先ほど受け取っていたみこと達の、ただならぬ嬉しそうな様子に興味を引かれたらしい。出しっ放しになっている犬の耳がぴょこりと動く。
「ふふふ、人類の夢、性転換の薬ですよ、お嬢さん」
「へぇ、性転換の薬! ということは、たとえば私が食べたら――」
「男になる、ということですね。効果は半日ほどで切れますが」
「なるほどなるほど、おもしろそうですね!」
「ええ、日頃出来ないことも自由にできますね。例えば……異性の更衣室に入ったり、とかね」
ふふふ、と含み笑いを浮かべたののが悪知恵を伝授するが、フレンディスはそれがどういう意味なのか、理解していないらしい。
「なるほど確かに、日頃は入る事ができませんものね」
こくこくと純粋な眼差しで頷いている。しかし、浮かれているののは細かい事は気にしない。流れるような動作で籠の中からチョコレートを取りだし、フレンディスに差し出す。
「差し上げますよ、はいどうぞ」
ののからチョコレートを受け取ったフレンディスは、尻尾を振り振り走り去っていった。
残されたののは、ふと何かに気付いたらしく空を仰いだ。
「さっきの二人に、効果時間のこと伝え忘れたわね……まあ、いいか」
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