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ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな) リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた) シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)



同性、異性を問わずに道ゆく人が振りむかずにはいられない美形というのは、男も女もたしかに存在する。
僕の家族の麻美くんなんかもその類で、しかもぼぅっとしてて、頼りないから、街を歩くと次々と人がよってきて、土、日祝日に散歩にでかけたりすると、麻美くんを先頭に知らない人の集団が行進する、みたいな事態になったりもする。

誰か、芸能人がきてるみたいだよ。

芸能人って、あれ、誰?

カッコイイよね。超キレイ。

みんな、ついていってるし、いってみようか。

困ってるみたいだし、助けてあげよっか。

みたいな。
ハーメルンの笛吹きというか、ああいう現象を実際に目にしてしまうと、美しいものには魔的な力があると、僕も実感せずにはいられない。

「私、正直、生きてるのに疲れたわ」

僕の前にきて、いきなり愚痴をこぼした彼女もあきらかに、麻美くんと同種の人で、人をひきつける美のパワーを全身からきらきらと発散していた。
キメ細かな陶磁器のような肌と、表情豊かな大きな瞳、鼻筋はきれいに通ってて、顔のどのパーツのバランスも完璧。
パラミタにいる契約者の人たちって美形の人が多いな、とは思うんだけど、この人の場合はキレイのランクが普通の契約者よりもさらに100くらいうえで、ただ立ってても笑ってても、髪が揺れただけでも、全部がグラビア写真みたいで、こうして、ぶぅたれてても映画かドラマのワンシーンめいてて。
僕が彼女をキライじゃないのは、彼女が天から授かった能力はすべてが外見に関するものと、あとわずかな残りはすべて戦闘力で、女の子として、どころか人間としての普通に生きてゆく能力は、知力も、コミュニケーション力もなにもかもが、人類以前だからだ。

最高の外見を持つトラブルメーカー、リカイン・フェルマータ。

1度会ったら、誰も彼女を忘れられない。

「リカインじゃな。どうした」

「ファタくん。
勝手にほれたはれただの騒いで死んじゃう人がいるのは、私の責任なの?
維新ちゃん。
例えば、私がここであなたを好きだ、愛してるって叫んで、維新ちゃんのためとかどうとかわめいて自殺したら、維新ちゃんなら、どうする」

「目の前で、リカインちゃんがダイナマイトを飲み込んで自爆したとしても、とりあえず、僕なら、逃げると思うけど」

「だよね。私だって、維新ちゃんとおんなじことをしただけなのに。
どうして、こんな仕打ちにあわなくちゃいけないのかな。
黒幕は誰なの。
そいつをブチのめさないと、やってられないわ」

口だけでなく、本当に相手をブチのめしにいってしまうから、リカインちゃんは立派だと思う。

「いまのリカインちゃんの話から、僕が想像するに、リカインちゃんはハーブ園の殺人の犯人だと疑われてしまっていて、その理由は、被害者のアーヴィンさんがリカインちゃんを好きになってしまって、あげく、死ぬの生きるの騒いで、リカインちゃんを深夜のハーブ園に呼びだしてそこで、自殺するか他殺されちゃって、死ぬの直前まで現場に彼といたリカインちゃんは、アーヴィンさん殺害の疑いをきせられている、とかだよね」

「すごいわ。維新ちゃん。
ウソつくぐらいしかのうのない、かわいそうな子だと思ってたけど、ずいぶんかしこくなったじゃない。
まさにその通りよ。
あの夜、彼にむりやりハーブ園まで連れていかれはしたけれど、私への愛をかたちでみせるとかいって、地面に積もった雪にダイブしてクロールをはじめたところで、私は帰らせてもらったわ。
あの人、あの夜、いつもよりさらに様子がおかしかったし、あとで考えるとクスリでもやってたような気もするんだけど、まさか、あのまま、死んじゃうなんてね。
ねぇ。でもどうして、私が疑われた理由がわかったの。すごいじゃない」

「ありがとう。
それは、きみのアクションを読んだから、あわわわ」

ファタちゃんが僕の口を手のひらでふさいだ。

「よいか維新。いくらおぬしでも、作品世界を壊してしまうのだけは許すわけにはいかんぞ」

「ウソをつくしかのうがない、なんて言うからさ。
僕は、本当のことを話そうと努力してだね」

「限度問題じゃ。よいか、そんな方向にすすんでおると、誰もおぬしの今後の戯言など読んでくれなくなるぞ。
汝、己を愛せよ。じゃ。
維新、おぬしも物語は好きじゃろう」

「それは好きさ。
わかったよ。みんなの物語を壊すような無神経なマネはするな、ってことだよね。
マナーの問題だよね。
ごめんなさい」

「反省すればよいのじゃ」

「まぁまぁお二人さん、もめなくてもいいじゃない。私はなにも気にしてないわよ」

リカインちゃんは、僕とファタちゃんの会話の意味がわかってないのか、寛容だ。

「ありがとう。リカインちゃん」

「いえいえ、意味がわかんないけど、とりあえず、感謝してくれてうれしいわ。
それでね、ここでハーブ園事件の関係者同士が話しあって、私の疑いも晴れて、あの晩の事件の全貌があきらかになってきたところなのよ」

しかし、それだと、後の被害者を異常な精神状態のまま、放置して帰ってしまったリカインちゃんの責任はゼロじゃない気がするな。そのへんは、どうなるんだろう。

「もはや事態は、リカインさんが思っていたような単純なものではなくなっているのです」

へ。
聞きおぼえのない男性の声がした。

「ファタちゃん。リカインちゃん。いまの聞こえたよね」

「そうじゃな」

「ええ。私の頭のうえのほうから、声がした気がするわ」

リカインちゃんが天井をみあげる。
僕もファタちゃんもそっちを眺めたけど、天井にはなんにもなくてもなかった。忍者も守護天使も幽霊もはりついていない。

「もし、私を探しているのなら、私はここにいますよ」

「また聞こえたわ。近いわね。いったいどこにいるの」

リカインちゃんが左右を見回す。
でも、いくら探しても、そんなところに彼はいないよ。
僕は気づいたんだ。
ファタちゃんもわかったらしく、僕と同じところに目をむけてる。

「リカインちゃんの髪だよね」

「ふむ。おそらくウィッグのような感じで、リカインの髪についておる、なにかじゃろうな」

僕とファタちゃんは顔をよせて、つぶやきあった。

「リカインちゃんはわかってないみたいだから、放っておこうか」

「じゃな。そっとしておくほうがよいじゃろう」

このまま、リカインちゃんはになにも教えずに立ち去ろうとした僕たちに、また声が呼びかけてきた。

「私がどこにいるのか、わかられたようですね。
ここは、なかなか居心地がよいのですよ。
あなたがたはアーヴィン殺しの犯人捜しているわけではなさそうなので、興味もないでしょうが、連続殺人事件は、マジェスティックに次々と闇を呼びよせているようです。
この館にいるだけでその闇に巻き込まれていると考えていいでしょう。
くれぐれもお気をつけください」

「ありがとう」

リカインちゃんのセミロングの金髪のどこかにくっついているカツラさんに、僕はお礼を言った。やっぱり、リカインちゃんには彼のことは教えてあげられないよね。
だって、彼がそこにいるとわかったら、自分の頭を壁に激突させたり、容赦のないゲンコツで叩きそうだもの。

「あれ。維新ちゃんもファタくんも、いっちゃうの。声の主はどこにいるのよ。
私にはさっぱりわかんないわ。ほんと、ムカつくわねぇ」

「それは見つけぬほうがおぬしの身のためじゃ」

「リカインちゃん。いつまでもキレイでいてね」

キレイなら他の欠点は全部、帳消しになると思うんだ。

「声の主さん。隠れてないで、でてきなさいよ」

ドスッ。ドスッ。ドスッ。

腹を立てたリカインちゃんが、石造りの床に正拳突きを連打で打ちおろしてます。
床にヒビが入りそうだよ。
誰か止めてくれないかなーと願いつつ、僕らは離脱です。