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リアクション
紫色の空の下で満開に咲いた桜の花――
そんな非現実的な景色の中に閉じ込められた人々は、それぞれに脱出への手がかりを求めて奔走していた。
「謎は公園中に隠されている」という犯人からの言葉、そして空から降ってきた挑戦状。シェスティンやかしこ達のように、その二つを結びつけることが出来た者は多かった。公園中に隠された謎、その答えをこの用紙に書き込むのだろうと踏んで、各々隠されているだろう謎を求めて公園中を捜索した。
そして。
「これかしら」
「多分、そうだと思います」
公園内を捜索するうちに合流した風馬 弾(ふうま・だん)とセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)たちは、一つの箱にたどり着いていた。
その蓋には、【A:狸の火消しの倅が言うには、「たせんたにひゅたうた」】と刻まれている。そして、解答用紙にもAからEのアルファベット。その二つを結びつけるのは簡単だった。
「たせんたにひゅうた……だけじゃ、意味が分からないね」
「そうね。でも『たぬき』って事はやっぱりセオリー通り、『た』を抜いて読むんじゃ無いかしら」
弾と、そのパートナーであるエイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)は顔をつきあわせて、せ、ん、に、ひゅ……と一文字ずつ拾って読んでいる。
すると横からセレンフィリティが痺れを切らしたように、
「こんなもん、シンプルに考えりゃーいいのよ! たぬきでひけしなんでしょ? 『た』と『ひ』を抜いて、せんにゅう!」
と胸を張った。
「僕もそう思います」
セレンフィリティが口上を述べている間に同じ答えにたどり着いた弾も(こちらはやや自信がなさそうに)同じ答えを口にする。
「……で?」
「せんにゅう、って解ったはいいけど、どうしたらいいんでしょうね、これ」
答えてみたが、何かが起こる気配は無い。
どこかに答えを書き込むのか、何かを操作するのか、と弾とセレンフィリティのふたりは、箱を持ち上げてみたりひっくり返したりしてみる。
「ねえセレン、あなたまさか、その字が読めない、とか言うんじゃないでしょうね……?」
その様子を見たセレンフィリティのパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が盛大なため息を吐いた。セレンフィリティの、あまりの自信と勢いにここまでツッコミそびれていたのだ。
「字?」
きょとんとするセレンフィリティに、セレアナはこれよこれ、と蓋の上の一文字を指差す。
「せがれ、よね」
と、答えたのはエイカだった。
「せがれ……ってことは、もしかして、『れ』んにゅう?」
まさかねえ、と首を傾げながらエイカが続けると、ぱんぱかぱーん。気の抜けたファンファーレが鳴り響き、ぱかりと箱の蓋が開いた。
「あ、あれっ? 正解?」
答えた本人が一番驚く。セレアナはやれやれと言いたげな表情で再びため息を吐き、セレンフィリティと弾は目を丸くする。
「で、こんなものが出てきた訳だけれど」
ひとり落ち着いて居るセレアナが、ひょいと箱の中から「れんにゅう」と書かれたプレートを拾い上げた。
小さな正方形が四つ組み合わさって大きな正方形を形作り、さらにその左上にぽこりと飛び出すようにもう一つの正方形がくっついている。その、一番左下のマスに「れ」、その右に「ん」、上に行って「に」、その左に「ゅ」、一番上の飛び出したところに「う」、と変な並び方をしている。
「これは何かしら……っていうのが次の謎ね」
「形も文字の並び方も、この『解答用紙』のマス目と同じだわ。ってことは、他にもこんな様なのがあるのよ」
一度の失敗でめげるようなセレンフィリティではない。次々とスルドイ推理を披露し、さあ次を探しに、と今にも駆け出しそうだ。
「でも、全部探してたら間に合わないわね」
セレアナが冷静に、公園中央に聳える大時計を見上げる。スペードの形をした長針は、今2の文字を少し過ぎた所だ。このペースで五つ全ての謎を解くのは現実的とはいえない。
「さっき行き違ったクレアさんが、時計塔のところで情報を集約しようって言ってたよね」
「他の人からの情報が届いてるかも! 行ってみましょ!」
そう言うと、弾とエイカはちらりとプレートを持っているセレアナの方を見る。すると、セレンフィリティがセレアナの手からプレートを取り上げて、弾たちに投げて寄越した。
「先に行っていて頂戴。時間も無いし、急いで。私達は他を探してみるから」
「わかりました!」
セレンフィリティからプレートを受け取った弾たちは、急いで公園中央の時計塔を目指して走り出す。
プレートを取り上げられたセレアナは、ふたりの背中を見送ってから、パートナーの方を振り返った。
「で、どうするのセレン。まさか、今から全部探すつもりじゃないでしょうね?」
「そうねえ、ここから脱出しないことにはデートの続きもできないし。でもまあ、他にも動いてる人は居るみたいだし、大丈夫じゃない? それより折角だからお花見でもどう?」
あっけらかんと言い放つセレンフィリティの言葉に、セレアナは今日最大のため息を漏らすのだった。
こちらでは、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)と雲入 弥狐(くもいり・みこ)のふたりが箱の一つを発見していた。
その蓋には、【B:(土+衣+筏−竹−イ)(米−八+一+倒−イ−至)】と書かれている。
「うっ……こう言うの、苦手……」
沙夢は頭を抱えた。問題は見るからに漢字パズルだ。
「でも、さくらちゃんを助けないとね……!」
折れそうになる心に自分で活を入れ、沙夢はその場にしゃがむと蓋に書かれた文字の欠片をなぞりながら考える。
「あっ、そっか、こっちは……!」
二つ目のカッコの中身を何度も検討してから、沙夢はぽんと手を打ち合わせた。
「米から八、つまり下の点ふたつを無くして、一をくっつけると半、倒からイと至を消せば、リみたいなのが残るから、それをくっつければ……判!」
多分! と最後に自信のなさを付け加えて、それでも一応は回答にたどり着けたことを喜ぶ。しかし、もう一つの文字が解らない。
「うーん……そうね……」
沙夢の隣では、引き続き弥狐が地道に一文字目の答えを考えている。
「土と衣はそのまま使って、筏から竹とイを取って……」
「そこまでは分かてるってばー!」
弥狐の言葉に、沙夢はうううと頭を抱える。
「ほら、こういう字有るじゃ無い。土の隣に、筏の残った部分を置いて、土の下に衣を置けば――」
弥狐はさらさらと、拾った枝で地面に文字を書いてみせる。
「そっか、裁!」
できあがった文字を見て、沙夢はやっと合点が行ったようだ。隣に自分が思いついた文字を並べてみると――
「さいばん?」
多分合っているとは思う、思いつつもまだ少し自信が持てない。沙夢は半分疑問形のまま回答を口にした。するとその途端。
ぱんぱかぱーん。
やっぱりやる気の無いファンファーレが響く。そして、ぱかちょと箱の蓋が開いた。
「やったあ!」
自信が無かった沙夢だったが、それで一気にテンションが上がる。
早速開いた箱を覗き込む。するとそこには、やっぱり一枚のプレートが入っていた。
四つの正方形が、Lを反対にしたような形に並んで居る。三つが縦に並び、その一番下の左側にひとつ。そこに、上から順番に「さいばん」と刻まれていた。ん、が横に飛び出した一マスに収まっている。
「それで……これをどうしたら良いのかな」
「他の人がコレを探してるかもしれないし、解ってそうな人に預けた方がいいかも」
公園中央に聳える時計を見上げた沙夢は、3の文字を過ぎようとしているスペードの長針を見つけた。このままでは間に合いそうにない。
「そうは言っても、他の人を見つけるのも結構大変そうな……」
ふたりは周囲を見渡してみる。ふたりがこの箱を見つけたのは、公園北側のだだっ広いエリアだ。が、他の人の影は見えない。
おそらく他の所を探して居るのだろう。ここにたどり着く前に、何組か調査に取り組んでいるチームに出会っている。
「そうだ、誰かが時計塔のところで情報を集めよう、って話をしてたよね。行ってみよう!」
弥狐が、すれ違ったチームのことを思い出して提案する。沙夢に異存がある訳も無く、ふたりは手に入れたプレートを持ち、公園中央に立つ大時計を目指した。
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