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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 前編

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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 前編

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1/トーナメントにて

 今のところ、おかしな様子はないように思える。
 あくまでもこのトーナメントの参加者、当事者としてではなく。端から見る視点──部外者、観客という立場からの感想ではあるが。

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は闘技場の今まさに試合の真っ最中であるその数々のリングと、そこに戦う者たちの織り成す情景を見下ろしながら、そう状況を評する。
 本当なら、リカインもあそこにいるはずだった。……正直、出場するつもりだった。
 残念ながら、ちょうどいいパートナーがいなかったから。だから、こうやって見る側に回ることになってしまった。
 
「……ま。それでも結果オーライ、かな?」
 
 たしかに色々と不自然なイベントではあると、見ていて感じられる。
 単なる撮影用・記録用とは思えないほどの膨大な、いたるところに設置されそれぞれのリングに向けられたカメラ。
 入場料どころか、コンコース内の売店からなにから無料──それこそ、今リカインが手にしている、ストローの刺さった紙コップのウーロン茶にしても一切、代価は徴収されなかった。
「注意はしておくに越したことはなさそうね」
 
 参加ができなかったからこそ、できることが今、周囲にたくさんあるのだ。
 俯瞰し、会場を見渡すこと。ひとつひとつに、警戒を向けておくことができる。当事者ではないがゆえに、客観的にすべてを見つめられる。これは、自分にしかできない役目だ。
 
「っと。はじまったわね」
 
 空は吹きさらし。また一試合、石造りのリングに降り立ったふたつのペアの間で戦端が開かれようとしている。
 武舞台の上、相対したふたりと向き合う、コート姿の女ふたり。いかにも動きにくそうなその服装で、不敵に笑んでいる。……その、片方だけは。
 
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
 
 笑みを浮かべているのがどちらかは、言わずもがな。
 セレアナはやれやれといった表情で深く、ため息を吐いていた。
 やがて、セレンフィリティの合図でふたりは、身を包んでいたコートを同時に脱ぎ捨てる。
 コートが宙を舞ったそこに現れるのは、いわばふたりの一張羅というか、勝負服というか──水着である。
 
「でも、ま……あれで、強いんだものね?」
 
 個々人でも、ペアのコンビネーションとしても。
 今は単に水着というだけで観客席からやんやの歓声を受け、彼らや対戦相手からもラウンドガールと勘違いされている、あのふたり。
 けれど本気で優勝を狙いに来ている、というのがわかる。
 
「さてさて。一体いつ、どこでなにが起こるやら」
 
 一回戦、順当に彼女たちは勝ち上がるだろう。だから別にこれ以上、あのリングを凝視する必要はない。
 他の、同じ材質の硬いリングへと目を移す。
 
「……そういえば」
 
 そして、自身の座る観客席のベンチへと。その、足許へと。
 
「この椅子や、通路も全部同じ材質……みたいね?」
 
 リカインは、軽く足元を踵で踏み鳴らしてみる。
 よくよく見ても、見たことのない石材だというのがわかる。
 なにもかも無料の大会。
 なにもかも同じ材質で組み上げられた、この闘技場。
 
 ──……一体、どうなっているんだ?
 

 
 大技は、禁止。読まれると厄介な、十八番の技も基本、封印推奨。
 
 それが、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の安請け合いに巻き込まれる形でこのトーナメントに参戦する羽目になった御凪 真人(みなぎ・まこと)が彼女へと告げた、最低限の条件。
 
「まあ……もう少しよく考えて、動いてほしかったですけどね」
 
 使う技は、炎も雷もどれも、基本的なものばかり。中距離から、セルファの援護に徹する。
 真人のサポートを受けて、セルファも前衛で対戦相手を押し込んでいく。
 
「て、えええぇっ!」
 
 こちらが明確に両者のポジションを固定し、役割分担をしているのに対し、相手は交互に入れ代わり立ち代わり、立場を変化させる戦術をとってくる。
 
 なかなかのコンビネーションだ──だが、させない。
 入れ代わりの瞬間を狙い、その足許めがけ火術を放つ。
 回避に集中して、ようやく避けきれるそのタイミングで、だ。
 
「真人、ナイス!」
 
 たたらを踏んだふたりを、セルファが追いこんでいく。
 あとはひたすら、後方からの援護射撃をセルファの立ち回りに織り交ぜて、相手を完封すればいい。それで、済む。
 だがそれも、この対戦相手がまだ一回戦の、敵に回して対処が比較的容易なレベルなればこそ。
 得意技、大技も封印して。果たしてどこまでやっていけるやら。
 ここはまだ本戦ですらない。各ブロックの代表者を決めるための、その最初の最初でしかないのだから。
 
 強豪は上に行けばいくほど、次から次に敵として現れるはずだ。顔見知りも、そうでない者も。
 まだまだ、気は抜けないな。セルファが相手チームの片割れを薙ぎ払い、叩きつけたのを見て、真人も思考から戦いの中へと帰還する。
 
 追い打ちの、雷術。これでひとまず、気を失ってもらっておこう。
 
「セルファ! 先々のことも考えてあまり張り切りすぎないように! やりすぎも厳禁ですよ!」
 
 とりあえず、今は手の内を見せないこと。そのようなやりすぎを彼女にさせないこと。そこに尽きる。
 それが、真人の念頭にあることだった。