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種もみ学院~契約の泉へ

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昼なお暗い契約の泉


 本家B級四天王のチョウコの助けを求める声に応じて問題の契約の泉に来たものの……。
「いくら何でも、これは暗すぎるわよ……」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は契約の泉がある小さな森の入り口でため息を吐いた。
 森は単純に生い茂る木々で薄暗いのではなく、まるで墨を蒔いたような暗さ、いや黒さだった。
 途方に暮れるさゆみの手に、チョウコがそっと懐中電灯を握らせる。
「足元危ないから」
「ありがとう……」
 二人で微妙な表情で森を見ていると、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が木々の向こうに守護天使らしき影を見つけた。
 とっさに駆けだしたアデリーヌを、さゆみは慌てて追いかける。
 暗闇に消えようとしていた守護天使を、アデリーヌが呼び止めた。
 守護天使はとても無気力に振り向く。
「あの、あなたはここに住んでいますの?」
「住んでいる……? そうだな、そうかもしれないな」
 守護天使の青年は、暗い声で答えた。
 それから、アデリーヌに追いついたさゆみを見ると、うらやましそうに二人を見て言った。
「いいな、君達は会えて。俺は幻のパートナーと共にここで埋もれていくよ……」
「あっ、待ってください!」
 アデリーヌが止めるも、守護天使はスッと闇にとけていってしまった。
 立ち尽くすアデリーヌの手を、そっとさゆみは引いた。
「いったん戻ろう」
「ええ……。あの人はずっと会えないまま、それでもここで待ち続けていたのですわね」
 アデリーヌはもう一度守護天使が去った森を振り返った。
 森を出るとチョウコがホッとした顔で二人を迎えた。
「迷い込んじまったかと思ったぜ。どうだった?」
「すっかり沈み込んでいる様子でしたわ」
「重症ね」
 アデリーヌとさゆみがため息交じりに返した。
 しかし、さゆみには一案があった。
「ここに移住者達が来るのよね? パーッと歓迎会なんてどう? 移住者はパートナーを求めて来るんだから……そうね、契約前夜祭と地球人到着歓迎会を連チャンでやるの。そしたら、落ち込んでる泉の住人達も少しは気分が晴れるんじゃないかなと」
「お祭りに引き寄せられた人達の話を、もっとじっくり聞きたいですわね。解決策を見つけられるかもしれませんし」
 続けたアデリーヌの言葉を聞くと、チョウコも頷いた。
「そうだな。この暗さ、ちょっと放っとけないよな」
「でね、お祭りするのにキマク商店街の力も借りたいの。屋台とかはやっぱり商店街の人達が詳しいでしょ」
 すると、酒杜 陽一(さかもり・よういち)酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)に向かって言った。
「屋台のことも追加で話しといて」
 美由子はすぐに頷いて携帯を取り出した。
 きょとんとしているさゆみに陽一が説明した。
「俺も商店街に頼みたいことあるから、一緒にな」
「ありがとう。あなたも何か計画があるの?」
「キャバクラ喫茶やろうと思って」
「キャバクラ……?」
「過度な接触は禁止の、あくまで喫茶店がメインのな」
「へえ、じゃあそこで音楽やるのもありかな?」
「いいんじゃないか? 喫茶店て言ってもオープン喫茶だから」
 そこで瑛菜が加わってきた。
「音楽やりたいって人のために舞台作ろうよ。移住者にもミュージシャンいたよね? きっと聞いてるだけじゃ収まらないよ」
「じゃあ、舞台も作るとして……その前にこの暗闇を何とかしないとなぁ」
 チョウコは眉間にしわを寄せて考えるものの、妙案は浮かばない。
「あいつらをすぐにどうこうするのは難しそうだからさ」
 と、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が口を開く。
「キャバクラや屋台を置くにしても場所も確保しなきゃならんし、ここにたむろしてる連中はいったん一カ所に集めよう。バラックにでもさ」
 そのためにすでにガガ・ギギ(がが・ぎぎ)親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)が動いている。
 そうするか、とチョウコも納得した。
 ここで陰気を振りまいているパラミタ人は、見つけ次第バラックに収納することに決まった。
「菊、手が必要なら種もみ生を使ってくれ」
「そうさせてもらうよ。ガガが指揮をとってるから、従ってくれるかい」
「わかった。……ところで陽一のキャバクラは人はもうそろってるのか? あたしの知り合いに声かけようか?」
 陽一は何かをたくらむような笑みをうっすら浮かべると、後ろの少し離れたところを見やった。
 そこにはパラ実生の男子達が怯えたような顔で固まっていた。中には種もみ生もいる。
「ホストの需要も考えて呼んだんだ。衣装やメイクは美由子がやるよ。キャバ嬢は商店街の人にも話してるけど、呼んでくれるとありがたいな」
「ん、わかった」
「チョウコ、陽一、屋台の区割りを決めるからこっちで話し合おう」
 菊に呼ばれ、二人は草の上に座り込んで相談を始めた。

 ガガが指揮する建設現場──。
 まず、大量の篝火を焚くことから始まった。
 そして今、種もみ生も手伝いに加わりバラック造りに励んでいる。
 金槌片手に「疲れた〜」と、首にかけたタオルで汗をふきふき卑弥呼はガガの傍に来た。
「ねえ、ガガ。50本目の釘を打った時に思ったんだけどさ、啓蒙と言えば出会い系での契約詐欺に注意しようってのも大事じゃないのかな?」
「ああ、そうだな。ここの連中もその手に引っかかったのが何人いるやら」
「力を得るためだけに契約して後はポイなんて酷いよね。でも、パートナーロストはちゃんと知ってるのかな。契約で繋がった地球人が自分の知らないところで大ケガでもしたら……。どんな影響が来るかなんて考えたくないな」
「逆もまたしかりだな。見たろう、今にも自殺しそうなのもいた」
「……信頼関係が成立して離れてるならともかく、一度も会ってない人のせいで酷い目にあうのは、知人の借金の連帯保証人になって、借金取りに押しかけられるのと同じくらい怖いよ」
「やけに具体的な例えだねぇ。そういう目にあったのかい?」
「まさか! あたいが生きてた時代は貨幣は流行ってないもん」
 流行り廃りでもないだろうとガガは思ったが、口には出さなかった。
 ガガはこのバラックを、ただパラミタ人を押し込めるだけの建物とは考えていない。
 ここで、地球の文化や冒険に必要な技術や知識を学び、地球人がいつ会いに来てもいいように準備をする場所にしたいと思っている。
 そうすることで、パートナースキル以外でも頼りになるパラミタ種族が待っていることを宣伝できるようになればということだ。
 自分を磨くことが少しでも希望になれば、とガガは酔い潰れている哀れなパラミタ人達を見た。
 工事をする時、素面のくせに絡んできて大変だったので本当に酒を飲ませて潰したのだ。
「他の契約者にもあの人達が元気になることを願ってる人もいるしさ、頑張って完成させよう。よし、休憩おしまい!」
 卑弥呼はぐっと伸びをすると、再び現場作業に戻っていった。