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種もみ学院~契約の泉へ

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種もみ学院~契約の泉へ

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「ここが契約の泉か。賑やかだな」
 ジャジラッドの案内で到着した元ディーラーの老紳士が口元をゆるませた。
 彼はステージに目を向けると、
「あそこにいるのはどちらのお嬢さん方かな。かわいらしいな」
「派手に動き回ってるのがパラ実の生徒会長で、もう一人が軽音部の部長だ。どっちも理想のおっぱいには遠いな」
「ははは、そうか。おや、演奏者が変わったな。眼鏡がキュートなお嬢さんだ。一緒にいるのはアメリカ人かな」
 老紳士は機嫌よく言うと、音楽祭のような盛り上がりを見せるステージから、オープンカフェへと視線をずらした。そして、目を丸くする。
「あれはもしや、ヨシワラ!?」
「いや、たぶんキャバクラだろ」
 老紳士の日本に対する知識は偏っているようだった。
 そのオープンカフェは、お客にキャバ嬢がついておもてなししていた。中にはホストをつけている女性客もいる。
「ジャジラッド、わしらも行くぞ。そうだ、カジノはここがいい。ヨシワラ(吉原)とトバ(賭場)、表には一般客向けの遊園地でもあれば客を呼び込めるだろう。何より、契約の泉自体が売りになる」
 ジャジラッドが新たにわかったのは、この老紳士が女好きであるということだった。
 陽一が設営したキャバクラ喫茶はゐずみという。
 ソファー、テーブル、日除け用パラソルをワンセットに、それぞれが充分な間隔をあけて配置されていた。
 席は喫煙と禁煙に分かれているという細やかさだ。
 これらと飲食物の調達は、キマク商店街から美由子が行った。
 キャバ嬢は土地柄からすぐに集まったが、少数ながらも需要があるだろうホストは陽一が用意した。
 以前、百合園の(圧迫)面接を受けた時に逃げ出したパラ実生である。
 陽一からホストに誘われた時、彼らは無理だと断った。
 体力には自信があるが、容姿には自信がない。
「勝手に帰ったくせに。俺なんて自分で切って持っていったのにさ……」
「うぐっ。デタラメじゃなかったのか」
「当たり前だろ。見るか?」
「いらん!」
「やってくれるよな?」
 やると言ったらやる、陽一の壮絶な一面を見たパラ実生は観念した。
 服は美由子が選んだ。
 きちんとしたスーツを着せ、髪も整える。
 持って生まれた容姿は変えようがないが、これだけでも印象は変わるものだ。
 着慣れない服に居心地悪そうにしている彼らに、陽一はアドバイスした。
「新米キャバ男に技術なんて誰も求めてない。君達は君達らしくお客さんと楽しくやればいいよ。その格好もよく似合ってる。大丈夫だ」
 この言葉でだいぶ気持ちを落ち着けた彼らは今、そこそこうまくやっている。
 特に移住者の女性には人気があった。
 カツアゲに来たパラ実生とはまた違うパラ実生に、渋い魅力を感じたようだった。
 五人囃子の素朴な演奏も雰囲気をかもしだしている。
「万が一に連れてきた用心棒は、必要なさそうね」
「それどころか、用心棒も人気出てるしな。ほら獣人力士なんて子供達が群がってる」
 陽一が言う通り、大きく逞しい体の獣人力士は子供の相手に大わらわになっていた。
 さらに特戦隊は、名乗りとポーズを取らされている。
「平和でいいじゃない。後はこの経験からパラ実生が自分の別の魅力に気づいてくれればいいんでしょ?」
 美由子が言いかけた時、わっと一席が盛り上がった。
 見ると、両脇に和希と瑛菜を抱えた老紳士が笑っていた。
 新たなカレーとおにぎりの追加にありついていた酪農一家に、不意にが勧めた。
「パートナーのことなんだけど、こいつとかどう?」
 と、円が指したのはテキサスに共に行き、今日も行動を共にした種もみ生の一人だった。
 いきなり指名された彼は、驚いてむせた。
「単純そうだけど、わりといい子だから、安心できると思うよ」
「おいおい、あんま俺達をなめるなよ」
「あれ? 契約する気ないの?」
「ある! だがよぉ、相手がおっさんてのはなぁ」
「じゃあ奥さんは?」
「おお、人妻か……」
 と言っても、歳は親子ほど離れているが。
 さらに旦那と息子達がダメと言う前に、
「あら、いいわよ。息子が一人増えるのね〜。よろしくね」
 円がササッと二人を握手させた。
 二人はしばし見つめ合い、ふと、手のぬくもりではないあたたかいものを胸の奥に感じた。
「契約、完了……?」
「何かしら……夫以上の繋がりを感じるわ」
「おおおぉ〜い!」
 慌てる旦那に、冗談よと笑う。
 円はチョウコとカンゾーにこのことを知らせた。
「契約者第一号だー!」
 二人は声をそろえて大喜びした。
「二人共、契約の泉に行ってこいよ!」
 カンゾーが大声で勧めると、何やらテンションが上がった種もみ生が、サッと酪農一家の母親をエスコートした。
「待て待てー!」
 父親と息子達がドタドタと追いかけていく。
「よくやった! ほら、飲め飲め!」
 チョウコが円のコップにオレンジジュースを注ぐ。
 この現場を目の当たりにした移住者とパラミタ人は、しだいにお互いを意識するようになっていった。
 一方、もともとここにいたパラミタ人は──。
「……では、パートナーのお名前と性別、年齢、出身国や住所がわかるならこちらに記入してくださいね」
 『契約情報サービス屋』と看板を立てかけた屋台を出す御神楽 舞花(みかぐら・まいか)の前には、長い列ができていた。
 来ないパートナーをただ待つだけではなく、自分から動いてみる──このことを契約者から教えられた泉の住人達は、舞花の屋台を見つけるともっと積極的に探すことを始めた。
 舞花も困っている彼らの力になれればと思って、この屋台を出したのだ。
「ねえ、本当に見つかるの?」
 泣きそうな顔の魔女に、舞花は微笑みかけた。
「今日明日とはいかないかもしれませんが、私の持てる技術のすべてを使って探します」
「いつまで待てばいいの?」
「あ……そうですね。見つかったらすぐにでも連絡しますが、それまでは一週間に一度、定期連絡をします。これでどうですか?」
「うん、わかった。連絡がないのはもうイヤ」
 舞花を信じた魔女は、弱々しいながらも笑顔を見せた。
 そこにチョウコが顔を出した。
「何か大変なこと始めたな。もしパラミタにいるようなら、あたしに言えよ。どこにいてもふん捕まえてやるから」
「ふふっ、あんまり乱暴はダメですよ」
「できるだけ気をつけるさ。そうだ、いい知らせがあるんだ」
 チョウコはウキウキと続ける。
「みんなのおかげで、この泉が明るくなっただろ。だからキマク商店街はここの経営を続けるんだってさ。陽一のキャバクラ喫茶も彼がいない時は商店街のオヤジさんが見てくれるし、あたしらもバイトできる」
 それに、と鮪の壮大な計画や併設されるかもしれないカジノのことも話した。
 一気に進んだ話に舞花は目を丸くする。
「完成したらすごいと思わないか? 荒野の一大観光地になって、そこで働きたい人が増えたら、オアシスも元気になるよな!?」
 バシバシとチョウコは舞花の背を叩く。
 希望がふくらんでハイテンションになっていた。
「明日からまたカンゾーと話し合わねぇとな」
 音楽部も……とか何とか言いながらチョウコはステージのほうに戻っていく。
 舞花は、自分もがんばろうと気持ちを引き締め、次の人と向き合った。


 キャバクラ喫茶・ゐずみで無事に原宿の女の子達と再会できたブラヌ。
 竜司を始め、若葉分校の面々は少し離れたテーブルから様子を見守っている。
 始めは緊張気味だったブラヌも、しだいに打ち解け楽しそうにおしゃべりしている。
 もしかしたら、彼の人生でこんなに複数の女の子を相手にしたのは、生まれて初めてかもしれない。
 やがて、双方は席を立ち笑顔で手を振って別れた。
 女の子達は屋台のほうに遊びにいった。
「ばんちょぉぉぉ〜」
 ブラヌの涙目と垂れ下がった口元が結果を物語っていた。
 若葉分校生は、みんなでブラヌを慰めたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

こんにちは、冷泉です。
リアクション公開が遅れてしまい、すみませんでした。
シナリオにご参加してくださった皆様、ありがとうございました!
種もみ学院の現状について、後日マスターページにまとめておきます。

それでは、またお会いできたら嬉しいです。