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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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第2章 速やかに避難誘導せよ

 セレンフィリティとセレアナたちが人々を避難誘導している頃。
 真宵はスィーツショップの店主に、店を任せてもらうよう、懸命に説得していた。
「ここに、町を壊そうとするやつらが攻めてくるかもしれないの。だから、早く避難してほしいの、分かる?…で、そいつらの中でプリン大好きなやつが、この店に立ち寄るかもしれないから。そいつの対処を、私たちでやるからお店を貸してほしいの」
「食べにいらっしゃるだけなら、私どもでもよいかと思います。それと店の者ではない方に、お任せするのはちょっと…」
 商売人なら当然ともいえよう態度で、店主はかぶりを振る。
「(商品だけじゃなくって、お金の管理とかもあるし。簡単に信用するはずもないわね)」
 どうしたものかと首を捻り、考え込んだ真宵は…。
 曖昧に言わず正直に告げるべきかと、動こうとしない店主を見る。
「わたくしたちは、イルミンスールの者よ。これから襲ってくる可能性は、あなたたちでは倒せない。無論、プリンを食べにくるだけってのもありえないでしょうね」
 説得しようとしても、店は自分たちで守ると言い張る店主に、彼女は言葉を続ける。
「普段使うようなスキルでは、目に見えないの、傷もつけられないのよ。そんな相手にどうやって戦う気?疑って挑んで、無残に散るわけ?店も、客も…何も守れずに倒れちゃ、後悔しか残らないわよ。だったら、私たちに任せて逃げるのが一番よい方法だと思わない?」
「いえ、しかし…。店を守るのも私どもの役目でして…」
「よく知らない相手に任せるっていうのが、不安なのは分かるわ。けどね、あなたに何かあったら…?商売なんて、次のやつ探せばいいってわけじゃないでしょ」
「それはそうですが…」
「心配ごとがあれば、テスタメントが見張っていますからご安心を」
 もしや留守の間、売り上げなどを泥棒しようと狙っているのでは、と思ったテスタメントが聖女のような笑顔で言う。
「ちょ、ちょっと!さりげに失礼なこと想像してない!?」
「いくら説明しても、いきなり現れた相手にすぐ了解するとは思えないですよ」
 初見ではないにしても多少警戒するのは当然だと説明する。
「だったらどうすれば…っ」
「このテスタメントが、真宵を監視していれば店主さんも安心することでしょう」
「なっ…、そんなこと言ったら誤解されるじゃないの!!!」
 危険人物扱いするパートナーにプツッとキレた真宵が怒鳴る。
「お話を聞いたところ、そのような方ではないと思いますが。本当に任せてしまっても、よろしいのでしょうか…」
「えぇ、もちろんよ。お店もそうだけど、お金もちゃんとね」
 真宵の言葉を信用すると店主はぺこりと頭を下げ、従業員と共に店を出て避難する。
「あ、真宵。避難場所を言わなくってよかったのですか」
「外で誘導している人がいるからへーきよ。まだ店にいる客は、後でってことになるかしらね」
 一度に誘導しようものなら、店内で騒がれてしまいそうだ。
 そうなれば、備品だとか壊されたり、慌てて逃げようとした客が怪我する可能性もある。
 無用な混乱を避けるためにも客には、この状況をまだ伝えていない。
「―…それにしてもよい香りですね。美味しそうなのです」
 テスタメントはショーケースに入ったお菓子を、かじりつくように見つめる。
「品物に手出すんじゃないわよ」
 拳を無理やり視界に入れ、うっとりとした顔をするパートナーを正気に戻す。
「はっ、そうでした。いけません、テスタメントとしたことがっ」
 顔を上げてかぶりを振り、誘惑に負けないようにケースから目を離した。



「ん〜。軽いといっても、数が多いと重い〜っ!」
 コレットはシェルター用に買っておいた金属の板を抱え、一輝の方へと運ぶ。
「足場を組んでいるヒマはないからな」
 飛行能力のあるコレットと、小型飛空艇アラウダを操る自分と2人でやるしかなかった。
「魔性を取り込んでいないボコール相手なら、少しは時間稼ぎにもなるだろ」
「うーん…」
「さっきも言ったが、補強しないよりはマシだ」
 本当にこれだけでよいのか、と首を捻るコレットに守るための策は必要だろうと言う。
「だよね、頑張らなきゃ!」
「(もっと細かい部分まで作りたいけど厳しいか)」
 強度のことを考えると、破られて進入されにくい編み目状がよいのかもしれないが、そこまで作る時間が足りない。
 人々を集めるために借りた宿の周りに、金属の板を張り巡らせたような形となった。
「脱出口は複数あったほうがいいか」
「元々の入り口は1つしかないよね」
「まぁ、そこは増やせないから。シェルターに扉をつける感じになるな」
 借りた場所の壁をぶち抜いて増やすわけにはいかないため、宿の周りを囲ったものに扉をつけるしかなさそうだ。
「コレット、飛空艇に乗れ」
「えっ、でもまだ飛べるよ?」
「襲撃された時に、そのスピードじゃ追いつかれるだろ」
「分かった、オヤブン」
 小さく頷いたコレットは、迷彩塗装を施した小型飛空艇アラウダに舞い降りた。
「不可視相手だと見えないが、小さな変化があれば見逃さないようにな」
「う、うん。―……皆、もうすぐ砂嵐のほうに到着する頃かな」
 現地へ向かった仲間が無事に戻るように祈り、報告のあった方角へと目を向けた。



 セレンフィリティは一輝から届いたメールを確認し、避難誘導していた人々を即席シェルターのほうへ案内する。
「宿の1つの周りを囲ったのね」
 扉の前へ辿り着くと独りでに開いた。
 空から姿を確認した一輝が、リモコン操作をしたのだった。
「へぇ、不審者を入れないためかしら?」
「中は…広いとはいえないわね」
 大部屋ではあったが、町の住人全員となるとかなり窮屈だ。
「もっと大きなところもあったんじゃないの」
「広すぎるのも考えものよ、セレアナ。それだけ、守る範囲も広くなっちゃうもの」
「それはそうだけど…」
 言葉を続けようとした時、不平不満の声が聞こえ始めえた。
 狭い、いつ頃家に帰れるのか…などと、住人たちがぶつぶつと呟く。
「確かに狭くってつらいこととかあるかもしれない。けど、皆を守るためなのよ。お願いだから我慢して」
「セレン。まだ避難させてない人がいるわ」
 地図を開いたセレアナは、チェックマークのついていないエリアを指差す。
「―…広場の露天周りのところね」
 案内していない者を連れてこようと、2人はシェルターを出た。
 一軒家を訪れたセレアナはドアをノックした。
 “どなた〜?”という声と共に、小さな子供を抱えた母親らしき人物が顔を出す。
「私たちは、イルミンスールから派遣された祓魔師よ。もうじきここは、ボコールという者たちに襲撃されるかもしれない。避難場所へ案内するから、貴重品だけまとめてちょうだい」
「ふつまし?それと、ボコールって…?」
「(ちょっと、セレン。ここの人たちにはまだ私たちの存在を教えてないわよ)」
 それだけでは分からないと、セレアナは恋人を肘で突っつく。
「(あぁ、そうだった)」
 いたずらに怖がらせないよう、伏せていたことを思い出した。
 しかし以前訪れた時とは違い、手段を選ばないやつらだ。
 後で知って恐怖に怯えさせるより、もう教えてしまってもよいか…と判断する。
「私たちが使っているようなスキル…、例えばバニッシュとかでは対処できないやつらもいるの。それくらい危険な相手ってこと。早く避難の準備をして!」
「セレンったら、相変わらずざっくりしすぎだわ。ええっと、私たちは普段使う魔法などで倒せない相手と、戦うための力を持つ者…。実体のない魔力を持つ者…魔性を取り込み、悪用するボコールという集団からあなたたちを守りにきたのよ」
「そういうやつらと戦う力を持つ者が、祓魔師ってこと」
 まだ信用しきれていない様子の女に、セレンフィリティはエクソシスト免許を見せた。
「ぁ…魔法学校の記し!?」
「言い忘れるところだったわ。持ち出すものは、大荷物にならない程度にね。カバン1つ分くらいにしてもらえる?」
「え、ぇえ!!んもぅ、どうしてこの町を狙ってきたのよぉ〜っ」
 ようやく彼女たちの言葉を信用したのか、女は慌てて部屋に戻って家族に状況を説明すると、大急ぎで貴重品を集めた。
 ドアの外で待機していると、慌しくバタバタと駆けてくる足音が響く。
「はぁっ、お待たせ…」
「忘れ物はないわね?いつ戻れるか分からないから、戻って取りに行くとかは出来ないわよ」
「たぶん…ないと思うわ」
「急いで、こっちよ」
 セレンフィリティは宿の方を指差して恋人と誘導する。
 一輝に扉を開いてもらい、シェルターの中へ避難させる。
 全ての住人し終えたセレンフィリティは、疲れたようにしゃがみ込む。
「相変わらずくじ運が弱い……」
 どっちかといえば、砂嵐の中へ特攻するほうが似合いそうな気がしたものの、町の住人を守る側になった。
「会議で決まったことなんだし。ぼやかないの」
 後方支援に回ることになり、俯く恋人の頭を撫でた。
「うぅ、分かってる。町は壊れても、人がいれば復興できるけど。肝心の人を守れなきゃ、意味がないものね」
 状況を見るからに人も町も両方守るのは厳しそうだった。
 ならば、人を守るほうに集中したほうがよいだろうと考えた。
「海で泳いだ後、おいしーご飯食べらなきゃいやだからね。後ショッピングもしたいし!」
「ふぅ…やっぱり考えるところはそこなのね」
 相変わらずな恋人の態度に小さくため息をついた。
 それでもいざとなれば、人命を最優先して動いてくれるだろう。
 まだ一輝やソーマから特に連絡はないが、いつ襲撃されるかは分からない。
 セレアナはエレメンタルケイジを握り、敵襲に備えた。