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一寸先は死亡フラグ

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一寸先は死亡フラグ

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 ルカルカが連行され、残されたのはキロスと呼ばれていた酷い有様の物体である。
「……さて、これ本当にどうしようかしら」
 香菜が額に手を当て、溜息交じりに呟いた。先程も同じような事で頭を抱えていたが、事態は悪化しただけだ。多分このままだと元キロスは腐ってしまうだろう。腐ると言っても腐敗的な意味である。×の記号がつく方じゃない。
「邪魔するのだ」
「失礼するよ」
 さてどうしたものかと悩んでいると、今度はリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)と何故かアヒルを抱えているララ・サーズデイ(らら・さーずでい)が部屋の扉を開けて放つ。
「事件と聞いてきたのだよ。このホテルはリリ達の縄張り、ホテル探偵として見過ごすわけにはいかないのだよ」
「正しくはホテル探偵『代理』だがね」
 ドヤ顔で語るリリと補足するララ。
 リリとララは普段は【薔薇十字社】の探偵であるが、今回はこのホテルのホテル探偵が腰を痛めてしまい、休養している間の代理としてアルバイトに来ていたのであった。ちなみにホテル探偵と言うのは実在する職業である。
「アルバイトとはいえ縄張りのホテルで事件が起きたとなってはホテル探偵の出番なのだよ」
 ドヤ顔で語るリリに少し不安げな表情でララが言う。
「しかしリリ、私達はどちらかというとハードボイルド寄りの探偵じゃないか。話を聞くと他にも有名な探偵が宿泊しているらしいし、分が悪いんじゃないか?」
「甘いのだ。脳筋のララと違ってリリは推理もいけるのだ。というわけで被害者を検分するのだよ」
 そう言ってリリとララはズカズカと部屋に入る。
「その前にちょっと貴女達! 部屋に入る時はノックするのがマナーよ!?」
 通常なら常識的であるが今はそこじゃないというツッコミを香菜が入れるが、リリとララは全く聞いちゃいない。ハードボイルドだ。
「香菜ちゃん違うよ。ツッコむのはララさんがアヒルさん抱えている所だよ! 現場に羽毛が飛び散っちゃうよ!」
 ルシアが香菜にそう言った。いや違うそうじゃない。
「ああ、こいつか。これは客が忘れていったのをさっき捕まえたんで仕方ないんだ……しかし、これは酷いな」
 ララがボロ雑巾より酷いキロスを見て顔を顰めた。
「……ふーむふむふむ」
 ボロ雑巾未満のキロスの傍らでしゃがみこんだリリが数度頷くと、ゆっくりと立ち上がる。
「犯人は……お前だ!」
 そしてリリが真っ直ぐに指さした。
「……え、わ、私? 私ですか!?」
 リリに指を指された千明は一瞬何があったか理解出来ないようにぽかんと口を開けるが、犯人と名指しされた事に気付くと慌てたように首を横に振る。
「ち、違いますよ!? 私犯人じゃないですよ!? 何で私犯人にされてるんです!?」
「簡単な事なのだよ」
 リリは仕方ない、というように小さく溜息を吐く。
「予知したことが怪しいからなのだよ!」
 そしてドヤ顔で言い放った。なんともハードボイルドである。
「リリ、流石に強引すぎるよ。というかまだ犯人名指しするのは早いよ」
 呆れた様にララが言う。
「そうだよ。それに尺的にもまだ早いよ」
 ルシアが同意するように頷く。というか尺とか言うな。
「むぅ……まあいいのだ。後5、6人死ねば何かわかってくるはずなのだよ」
 リリがさらりと凄まじい事を言ってのける。ハードボイルドすぎる。

――結末を言うと、リリとララは今回の件について何かが解る事は無かった。

 リリは少し部屋で考える仕草を見せながら歩き回る。
「やれやれ……あ、こら!」
 ララの手にいたアヒルは身を捩り、さっと逃げてしまう。
 後を追うララがリリの横を通り過ぎた瞬間、何かに気付いたよ言うにハッと顔を上げる。
「……ふむ、わかったのだ! 犯人はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ってなんだいきなりぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 悲鳴と残して、リリとララの姿が消えた。足元に存在していた床が、突然消えたのである。落とし穴が1つしかないと何時から錯覚していた。
 悲鳴がドップラー効果により残る中、数秒してからぐちゃりという何かが潰れる様な音が響いた。
「「「……うわ」」」
 穴を覗き込んだ香菜、ルシア、千明の口から思わず言葉が漏れる。酷い有様、としか言いようが無い物が中にあった。
「また問題が増えた……」と香菜が頭を抱えた時だった。
「……何してるんだ?」
 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が部屋を覗き込んだのであった。