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リアクション
■敵アジトを制圧せよ
――ニコーレ大音楽堂から離れた、小さな廃村。そのすぐ近くには深く茂った大森林が存在しており、物を隠すにはうってつけの地域といえよう。
その考えのとおりなのか、大森林の中には古王国時代のものであろう朽ちた遺跡が所々に存在している。そんな遺跡の中のひとつに、契約者たちの小さな一団の姿が見受けられる。
「ここがクルスシェイドが使ってると思われるアジトか……こりゃ、情報がなかったら確実にわからん場所だな」
「ヴィゼルに感謝すべきなのかどうか……複雑なところなのだよ」
そう呟くのは斎賀 昌毅(さいが・まさき)と阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)。クルスシェイドがアジトとして使っているこの遺跡は元から隠蔽目的もあったからかかなり巧妙に隠されており、フレンディスたちからの目視情報と昌毅たちがヴィゼルのノートパソコンから入手した遺跡の目星情報がなかったら見つけるのも一苦労な所にあった。手に入れた情報元が情報元だけに、二人は素直に喜ぶのも少しばかりはばかれてしまう。
「あまり時間は残されてないし、クルスたちの事は別働隊に任せて、予定通り踏み込むか」
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)の合図に、契約者たちは呼応するようにして頷いていく。……アジト内の制圧において、やるべき最大の目的は“捕らわれたままである機工士4人の救出”である。この目的と共に、昌毅と那由他の二人は今後のことを考え、アジト内に保管されているであろう様々な資料を確保するべく行動をするつもりのようだ。
というのも、デイブレイカー事件の際には意図的に消された情報も数多かったため、“夜明けを目指す者”の実態を明らかにすることはほとんど叶わなかった。そのため、今回は邪魔が入る前に関連資料を“押収”の名の元に、とにかく運び出してしまおうという考えらしい。
「問題としては資料を運んでる途中で敵に襲われたらどうするか、ってのがあるんだが……」
「大丈夫、中にいる敵は僕とローザくんたちでどうにかするから」
「戦闘は私たちに任せて、昌毅ちゃんと那由他ちゃんは資料運びに専念してね。……あ、いくら特殊9課の権限で資料を押収できるからって、自分の欲しい情報を勝手に持ってったりしないでね」
「……イ、イイモノヲクスネタリシナイデスヨ?」
戦闘は主にザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)とローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)たちが中心となってくれるため、資料押収や人質救出に専念できるようである。ただ、そんな雰囲気を感じ取ったのかローザは昌毅に、勝手に資料を抜き取らないよう釘を刺していたりもしたが。
……アジト内に突入した救出班一行。敵の襲撃が予想されていたものの、その予想に反してアジトの中はほぼ静寂に包まれていた。
「ほとんど敵の姿はないみたいだねぇ……これなら逆に機工士たちの場所をすぐ聞き取れるかも」
先陣に立ち、『超感覚』で周囲の音・振動・臭いなどを確認しながらアジト内を探索する清泉 北都(いずみ・ほくと)。同行者に『禁猟区』を施したお守りを渡し、異変に気をつけるよう注意を喚起。また、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)も『イナンナの加護』を使って周囲――特に罠を警戒しており、何かあれば『トラップ解除』ですぐに罠を解除できるよう、細心の注意を払っている。
「……まさか機工士たちを放っといて大音楽堂に向かったとか? だとしたら相当抜けてるような気がするわ」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)もまた、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と一緒にアジト内を探索している。しかし、何らかの防衛手段がまったく敷かれていないことに首を傾げるばかりだ。
「配下がいるなら“丁重に”情報収集しようかと思ったんだけど、これじゃどうにもならないわね。資料に期待するしかないか」
……ここに機工士が捕らわれている、ということはそれなりの目的があるはず。そしてその目的は機晶技術、もしくはそれに準じたものを発掘、もしくは再起動させようとしているのではないか。そして彼らが監禁されている場所はそれが眠る場所ではないか……。
その場所をクルスシェイドの配下から聞こうとしていたセレンフィリティであったが、配下の一人も見当たらないためそれもできずにいる。――というより、このアジト内で人がここ最近動いていた様子すらないのだ。
「セレンの尋問の様子をコントロールする必要がないのは嬉しいけど……なんだかあまりにも人の気配がなさ過ぎない、ここ?」
セレンフィリティより周りを見ているセレアナがそう疑問符を投げかけるのも無理はないほど、周囲から気配というものがまったく感じられない。
不気味なほどの静寂を保つ遺跡アジト……『超感覚』を使う北都の先導を受けながら先へ進む救出班は、探索を進めていく内に広めの部屋へと出てきた。どうやらここは食事や会議を行うときに使っていたと思われる広間のようだ。
――そしてそこには、ひとつの部屋を守るようにして、大きな両刃斧を手に携えた巨体な甲冑鎧……アームズタイプと称された、主犯格の一角がいた。
「こっちにいるような気がしたんだけど、まさかの正解……この前は防戦一方だったし、借りはここで返させてもらうわ」
アームズタイプがこっちにいるのではないかと思って救出班側に参加したリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だったが、まさかの当たりに油断することなく、戦闘体勢を構えていく。同様に先陣を切っていた北都とモーベット、ザーフィアとローザも戦闘体勢を取り、すぐに行動を起こせるようアームズタイプへけん制する。
まったく人間味を感じない気配を見せるアームズタイプ。前方にいる数人をその視界に捉えると、声を一切発することなく武器を構え、遠慮なしとばかりに大斧の横払いで先制攻撃を仕掛けてきた!
「ちょっとちょっと、問答無用って奴なの!?」
先陣を切っていた北都とモーベット、元から戦闘要員として戦列に参加しているザーフィアやローザ、そしてアームズタイプとの因縁を晴らしたいリカインを中心とした契約者たちはすぐさま横払いに反応して、後方へと飛び退いていく。そのまま両陣営は睨み合いへ移り、動きが止まる。
……アームズタイプを取り押さえることも重要ではあるが、一番重要なのは捕らわれたままである機工士たちを救出することである。契約者たちはその場で目を配り合わせ、戦闘班がアームズタイプを引き付けている間にセレンフィリティとセレアナの二人で、アームズタイプが守っていた扉の奥へと向かう作戦を取ることとなった。
「時間がないから、一斉攻撃で仕掛けよう……いくよぉっ!!」
無論、ここでアームズタイプを取り押さえることは今後の動きにもいい方向に働くだろう。戦闘班は出し惜しみせず、引き付けるだけに留まらない一斉攻撃で大鎧の機晶姫を確保するべく、攻撃を開始する。
以前の戦いで、敵側に付いた契約者に邪魔立てされた経験から、北都はその対策として『歴戦の生存術』を使って耐性を施しておく。いつどこから攻撃を仕掛けられるかわからないため、常に警戒が必要といえよう。
そして『エセンシャルリーディング』でアームズタイプの動きなどを見極め、弱点となりえる箇所を探っていく。
「あれだけの大きな斧を振り回しているからこそ……足元を攻撃すれば!」
足元を集中的に狙えば大きな隙ができるはず。そう『行動予測』した北都はすぐさま戦闘班全員へ知らせていく。それを聞いた戦闘班は攻撃を仕掛けようとするが……アームズタイプもそう甘くはなかった。
けん制を仕掛けるべく《六連ミサイルポッド》を撃ちこみながら大剣による一閃攻撃を繰り出そうとするザーフィアだったが、アームズタイプは爆炎をものともせず、大剣の刃も大斧で切り払う形で防いでいく。
流れるようにしてローザもアームズタイプへ『抑え込み』をかけようとするが、それを察知したアームズタイプはその体格に似合わぬ素早いサイドステップで『抑え込み』を回避していった。
だが契約者側も手をこまねいているわけではない。アームズタイプの回避先を北都の『行動予測』で指示してもらったリカインが回避先で先回りしており、懐に入り込みながらアームズタイプに向かって『咆哮』込みの連続攻撃を繰り出していく。相手は機晶姫であることは事前に聞いているが、これが中身込みなのかを気にすることなく、動きを奪うため下半身に対しての連撃を叩き込んでから鋭い蹴りで腹部を強く蹴りつけ、後方の壁へと飛ばした!
「硬いっ……!」
《レゾナント・テンション》で威力の増した拳で攻撃したはずなのに、確かな手ごたえを得られないほどの防御力に一瞬驚きの顔を見せるリカイン。だがすぐに表情を取り戻すと、態勢を立て直して壁へ吹き飛ばしたアームズタイプへ対峙しなおす。
……アームズタイプが吹き飛んだ壁の左側にある扉が少し開かれている。どうやら、セレンフィリティとセレアナが無事に扉の奥へと進めたようだ。そして程なくして戦闘班の持つ《銃型HC弐式》から二人からの連絡が入ってきた。――首尾は成功、捕らわれていた機工士たちを救出したとのことだった。
「なら、こっちもすぐに片をつけないと――なっ!」
機工士を救出できたのなら長居する理由はない。体勢を立て直して大斧を構えなおそうとするアームズタイプに対して、燕馬が『奈落の鉄鎖』を大斧に絡ませて下へと引っ張る。ガクンッ! と急に引っ張られたことによって、アームズタイプに一瞬の隙が生まれる。もちろん、それを見逃す契約者たちではない。
「今だっ!」
「ほらほら、死にたくなかったらおとなしく投降したまえよ!」
燕馬の《枷かけの銃》《魔銃ヘルハウンド》による援護射撃と共に、ザーフィアが大剣の一撃を、ローザが再びの『抑え込み』で一気にアームズタイプを制しようと仕掛ける。アームズタイプは危険を察知し、大斧を手放して緊急回避に移ろうとするが……。
「これ以上は逃がさぬ!」
「動きを……止める!」
回避先には『龍鱗化』によって守りを固めたモーベットが立ち塞がる。アームズタイプの巨体を何とか受け止めながら『勇士の剣技』で肉を切らせて骨を絶つ一撃を加えてからすぐさま離れると……北都がアームズタイプを逃がさまいと『ホワイトアウト』で足元を凍らせてその動きを封じようとする!
『勇士の剣技』によってふらついたところへの『ホワイトアウト』。アームズタイプはなす術もなく下半身全体を凍らされ、動きを完全に制されてしまったのであった……。
「うーん……これっぽっちも口を割ってくれないわね。手足を二、三本ちぎれば従順になってくれるとは思うんだけど」
――戦闘後、ローザは確保したアームズタイプから話を聞こうとするがまったく話そうとする気配がない。尋問が進まないことに思わず過激な発言を発してしまう。
「……あれ? 僕たちって一応警察……だよね?」
「まぁ相手が相手だしなぁ。本当にそうなってもし生きてたら、俺が何とか治すよ」
一方で燕馬やザーフィアは救出された機工士たちの簡易治療に当たっていた。――機工士たちは少し衰弱していたようではあるが、作業させられていたからか動けないほどではなかった。何とか話を聞くこともできそうだ。
まず契約者たちが聞いたのはさらわれた後に何をされていたのか。それを聞くと機工士の一人が説明をしてくれた。
「――俺たちがメンテナンスさせられていたのは、機晶技術を用いた一振りの剣だったよ。あれには局地地震を引き起こす力がある。……まさか起動実験までしていたなんてな」
さらに話を聞くと、機晶技術を用いた剣――以後、機晶剣と呼称する……はいまだ未知数な部分が多く、大音楽堂の地下で現在起こっている事態も機晶剣が引き起こしたでは? と機工士たちが予測を立てていた。奇しくもその予測は昌毅と那由他が押収してきた資料の一つにも記載されていたため、ほぼ確定といってもいいだろう。
「そういえばあのクルス君の偽者が変なことを聞いていたよ。“この剣は機晶合体できるのか?”って。機晶技術を用いられてるし、あの剣自体を機晶姫と見れば不可能ではない、とは答えたけど……まさか、ね」
……その話を聞いて、契約者たちはある推論を立てる。もしクルスシェイドが機晶剣……そしてクルス自体と機晶合体することによって、機晶剣の性能が格段に上がったとしたら……?
「……局地地震じゃすまなくなるな。よくて空京全部、下手したらパラミタ全土に大地震を引き起こせるかもしれない」
思っていたよりも事態は深刻なようだ。エレーネへ連絡を取れる契約者が、今得た情報をすぐに伝えていく。これで他の契約者たちにも同じ情報を共有できるだろう。
その後、アームズタイプをしっかりと捕縛し、ふらつく機工士たちを支えたままアジトを脱出。それぞれの処置を済ませるべく一度空京へと向かうのであった……。
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