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リアクション
「もう、何なのよ、予定していたクリスマス休暇がドタキャンになるなんて……しかも年明けまで仕事三昧って……あたしがどんな悪い事をしたって言うのよー!!」
急遽入った教導団少尉としての公務にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は苛立ち混じりの嘆きを吐きまくっていた。
「……これじゃ、クリスマスじゃなくてクルシミマスじゃない。セレアナは予定通り休暇に入って誘われた幼稚園のクリスマス会に行ってるし……あぁ、せっかくクリスマスのプレゼントも用意したのに……がっかりしてるだろうなぁ……セレアナに任せておけば問題無いけど」
自分とは違い、休みを楽しむセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を思い出し、余計にやり切れない。
そんなセレンフィリティにささやかな奇跡が起きた。仕事の合間に休憩をしていた時、上官に呼び出され仕事増量の覚悟で向かうと、今日一日だけの休みを貰ったのだ。
上官の呼び出しから戻って来たセレンフィリティの顔は
「やったぁ!! まさか、一日だけど休みが貰えるなんて! これってクリスマスの奇跡じゃない!! 急いで幼稚園に行かないと!!」
晴れ渡り、すぐさま幼稚園へと急いだ。
夜、ツァンダ。 あおぞら幼稚園。
「……という事で代わりにメッセージカードを預かったから……」
セレンフィリティの欠席の理由を話し、セレアナは託されたカードを子供達に渡した。カードには欠席の謝罪とプレゼントを用意した事、素敵なクリスマスを楽しんで欲しい事が書かれてあった。
しかし、
「せっかくセレンお姉ちゃんに会えると思ったのに」
「そうだよー」
サンタ帽子を被った絵音とスノハは色々遊べると期待していた分がっかり具合が酷く、カードでは慰めきれない。
「前、一勝一敗で引き分けだったから今日の勝負でどっちが勝つか決めようと色々用意して練習だってしたんだぞ!」
ハロウィンでセレンフィリティと張り合い今日も勝負出来ると楽しみにしていたウルトの怒りも収まらない。
「……カードどころじゃないわね」
カードでは納得させる事が出来ず、保育士のナコも子供達を宥めるために必死の様子。
「お姉ちゃん達のお仕事、大変なんだね。せっかく来てくれたのにごめんね」
読書家のシュウヤがセレアナの所にやって来た。しっかり者のためか他の子とは違い、今の状況を受け入れ、労いまでする。
「ありがとう……ハロウィンの時もだけどシュウヤはしっかりしてるわね」
セレアナは気遣うシュウヤに礼を言った。
その時、
「……ん? メール?」
スマホに奇跡のメールが着信していた。
メールの確認を終えるなり
「みんな、もうがっかりする必要はないわ」
セレアナはセレンフィリティがクリスマス会に参加出来る旨を伝えた。
途端、先程とは打って変わって子供達は大はしゃぎ。
「みんなでセレンお姉ちゃんを驚かせてみない?(……セレンの事だから絶対に驚かせようとするはず)」
セレンフィリティの行動を把握するセレアナは子供達に一つの提案をした。
「やる!!」
遊び盛りの子供達の答えは満場一致。
子供達はセレアナの指示に従い、準備を整えた。
一方。
「さて、どうやって驚かせようかしら……それにしても静かね。まだ終わっていないはずだけど……乱入で確認してみようかしら」
無事に幼稚園の敷地に入り込んだセレンフィリティは乱入かこっそりか驚かせる方法に頭を巡らすも教室の照明が消えている事が気になり乱入で驚かせる事に決めて教室に侵入した。
教室に侵入すると同時に
「メリークリスマス!!」
高らかに声を上げるセレンフィリティ。
しかし、
「…………誰もいない……と言う事はクリスマス会終わっちゃった!? 嘘、急いで来たのに」
教室は暗く静かで誰もおらず、並ぶテーブルには料理もない。まるでクリスマス会が終わったかのよう。
「……結局、あたしのクリスマスって」
セレンフィリティはがっくりと肩を落とし、散々なクリスマスに少し泣きそうになってしまう。
そんな時、突然教室が明るくなり、
「メリークリスマス!!!」
賑やかな声があちこちから溢れ、クラッカーの陽気な音が飛び出す。
「ええっ!? ちょっと、どういう……」
何も知らぬセレンフィリティは驚くばかり。
「セレンの行動はお見通しという事よ」
セレンフィリティの隣に来たセレアナは上官からのメールを見せた。
「……もう」
メールを見た途端、セレンフィリティは口を尖らせつつも間に合った事にほっとしていた。
この後、セレンフィリティ達は子供達にプレゼントを贈った。中身は子供達の好きな色のマフラー。色はナコに頼みこっそり調査して貰った。子供達は貰うなり包装を開け、思うままに首に巻いていた。
よううやくクリスマス会が始まった。
「そう言えば、あの三人の姿が見えないのだけど」
セレアナは隣でケーキを食べる絵音に訊ねた。絵音に亡き妹重ねている元誘拐犯がいてもおかしくないのにそれがいない。
「イリアルお姉ちゃん達、来られないって、でも昨日、お父さんとお母さんとイリアルお姉ちゃん達と一緒に夜ご飯を食べに行ってとても楽しかったよ。三人とも少しだけ寂しそうな顔してた」
絵音はセレアナを見上げ、三人組と両親と過ごした事を楽しそうに話した。
「そう、家族やあの三人と仲良くしているのね(もしかしたら亡くなった家族の事を思い出したのかもしれないわね。それならクリスマス会を断ったのももしかしたら……)」
セレアナは絵音が家族や例の三人組と仲良くやっている事にほっとしながらも三人組が亡き家族を思い出し、クリスマス会に参加するのが辛くなったのではと少々心配していた。
「そうそう、イリアルお姉ちゃん達と昨日のお昼にね……」
絵音はロッカーに行き、鞄から何やら取り出して戻って来た。
そして、二人に可愛らしくラッピングした小箱を差し出した。
箱を開けると
「これはクッキーじゃない」
「もしかして絵音が作ったの?」
セレンフィリティは驚き、セレアナは市販品とは思えない様子から見抜いた。
「四人で一緒に作ったんだよ。セレンお姉ちゃん達に何かあげたいって言ったらクッキーを作ったらって」
絵音は昨日イリアル達と作った事を明かした。絵音がしたのは型抜きだけだが。
二人はクッキーを一枚食べ、
「今まで食べたどのクッキーよりも美味しいわ」
「クリスマスプレゼント、ありがとう」
セレンフィリティは少々大袈裟にセレアナはわずかに笑んだ。味は美味しいが、それ以上に込められた優しさが二人にとって嬉しかった。料理の一番の調味料は気持ちというのは本当らしい。
「ありがとう」
絵音はお姉ちゃん達の喜ぶ顔に大満足。
絵音と話した後、セレンフィリティはウルトに挑まれトランプやオセロ、ジェンガなど様々な勝負をした。
「オセロもあたしの勝ちね」
セレンフィリティは勝利者の余裕の笑みを浮かべた。現在三回連勝中。
「くぅ、せっかく練習したのに。じゃ、次はこれで勝負!」
ウルトはオセロを脇に寄せジェンガを取り出した。
「なんなら、ハンデ有りでもいいわよ?」
大人の余裕とばかりハンデプレゼントをしようとするが
「んなのいらねぇよ。勝負はハンデ無しで本気でやるもんだ。それに強い方が燃えるし」
ウルトは不機嫌な顔をしてつっぱねった。
「いい事言うじゃない。だったら、本気で行くわよ」
ウルトの潔さにニヤリとするなりセレンフィリティはこの勝負も容赦なく叩きのめした。この後も様々な勝負をするもセレンフィリティの本日の負け回数は少なく、総合での勝利者となりウルトは心底悔しがり闘志に燃えたという。
その様子を
「……また子供と張り合って……」
勝負を離れた所から見守るセレアナは大人げないセレンフィリティに溜息を吐いていた。
昼、空京、公園。
「……今日、幼稚園でクリスマス会があるだが……」
用事で来ていた酒杜 陽一(さかもり・よういち)は公園に見知った三姉弟を発見し、早速話しかけていた。ちなみに幼稚園から誘われたクリスマス会は昼から夜までである。
「……断った。そっちは?」
二番目の弟ハルトが代表して答えた。三姉弟は陽一と同じく絵音と仲良くしているが、以前亡き妹を重ね勘違いで絵音を誘拐した犯人でもある。
「プレゼントを用意してから行く予定だよ。しかし、君達が欠席だと絵音ちゃんががっかりすると思うけど」
陽一は寂しがるだろう絵音の事を思って言葉を重ねた。
「あの子には昨日会ってあの子の両親と一緒に夕食を食べたり……昼には良くしてくれているあんたらにあげるクッキーを作るのを手伝ったり……十分」
一番下の弟ナカトが昨日の温かで楽しかった交流をペラペラと話し始めた。しかも絵音に口止めされた事も。
「ナカト、それは内緒だって言われてたでしょ。お馬鹿」
姉のイリアルはうっかり者の弟の脇腹を小突いた。
「あっ、しまった……俺が言った事は内緒で」
気付いたナカトは顔を青くし、絵音に嫌われないように陽一に必死に頼む。
「大丈夫、黙っておくよ。それより、断る理由は?」
陽一は軽く笑いながら約束を結んだ後、欠席の理由に探りを入れた。
「……家族で過ごしたクリスマスを思い出して心配させてしまうから」
「何とかさ、やっていこうと思ってもこの季節はどこも賑やかで……」
「だよなー。ツリーの飾り付けでサミエはいっつもてっぺんに星を飾りたがって……外に出てクリスマスの歌が聞こえると口ずさんで……もしかしたらひょっこりと」
姉弟は顔を俯かせ、理由を寂しそうに語った。何とか誘拐事件以来、前を向いて歩いてはいるが、両親と妹を事故で失い別れの挨拶が出来なかった理不尽さ、妹の遺体が見つからなかった悲しさを未だに完全払拭出来ないでいるためこういうイベントの日になるとふと寂しくなったり妹が現れるのではと思うようだ。
「…………(今日はクリスマス、奇跡でも起きて三人がサミエちゃんとご両親に会ってきちんとしたお別れが出来れば、気持ちを切り替えて再出発する切っ掛けになるのだが)」
陽一は言葉を挟まず、胸中で三人を心配していた。
その時、
「元気そうだね」
「イリアル、ハルト、ナカト」
男女の優しい声が俯く姉弟に降りかかり、顔を上げさせた。
「!!」
顔を上げた三人は目を見開きただ驚くばかりで言葉が出ないでいた。目の前にいるのは亡くなったはずの両親。
「お父さんとお母さんと一緒に会いに来たよー」
絵音にそっくりの少女が両親の側に立ち、姉弟に笑いかけている。
それを静かに見守る陽一は
「……(あの子がサミエちゃんか。本当に絵音ちゃんにそっくりだ。生存していたらおおごとになると思っていたが、両親と一緒という事は)」
現れたサミエについて色々考えていた。
「……会いにって……事故で……」
驚きの次は再会の喜び。姉は涙を流しつつ途切れ気味に訊ね、弟達も泣き顔だった。
「心配で様子を見に来たの」
「それにあんな別れになってしまって、三人に謝りたいと思ってな」
瞳を潤ませる母親と父親は三人を悲しませた事に心配と後悔を抱いていた。
「謝らないといけないのは私達の方よ。あの時、止めていれば事故になんか巻き込まれなかったのに」
「サミエだって怖い思いをする事はなかった」
イリアルとハルトは事故から続く後悔と悲しみを吐き出した。
「仕方が無い事よ。事故が起きるなんて誰にも予想出来なかったんだから。あなた達のせいじゃないわ」
「事故が起きた時、お母さんとお父さんとはぐれちゃって……とても痛かったけど、今は痛くないし、いつも一緒にいられるから大丈夫だよ」
母親とサミエが答えた。
「……サミエ……それはやっぱり……」
ナカトはサミエの言葉からもう生存の可能性は無いと知り、涙が滲む。
「……随分悲しませてしまったね……でもこれからは僕らの分まで生きて幸せになるんだよ。自慢の僕らの子供でサミエの姉と兄なんだから」
父親は姉弟の顔をしっかりと見て自分達の願いを言葉にした。
「……」
姉弟は静かに黙って耳を傾ける。
「……私達が側にいる事は出来なくなったけど、ずっとあなた達を愛している」
「イリアル姉ちゃん、ハルト兄ちゃん、ナカト兄ちゃん、ずっと大好きだよ」
母親は三人を抱き締め、サミエは三人に抱き締められた。
この後、姉弟との別れを果たした両親と妹は去った。
別れた後。
「……サミエがお父さん達と一緒で良かった」
「……あぁ。三人のためにもしっかりしないと」
「……自慢だもんな」
無事に別れが出来たおかげか心無しか姉弟の表情が晴れやかであった。
「……無事に別れが出来て良かった。これで三人も」
家族の再会に立ち会い見届け終えた陽一は三人が本当の再出発を歩ける事にほっとした。
この後、再出発の第一歩に姉弟は陽一と共にプレゼントを買って夜のクリスマス会に参加し、絵音を驚かせた。陽一は絵音からクリスマスプレゼントを貰い、美味しく頂いたという。
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