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古代遺跡の罠

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古代遺跡の罠

リアクション

■地下3階層

 暗い遺跡を駆け巡る影があった。
 迷い込んでしまったモンスターとも、野盗とも違うそれは更なる侵入者である仲間の救出が目的でもない。
「ふふふ、報告さえしなければ財宝は最初から無かった事になるであります」
 1人笑いながら、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は探索を行うという名目で護衛から離れ、遺跡内部で財宝を探し回っていた。
「……っと」
 丁度大広間に出るところで、彼はそこにモンスターが群れを成していることに気が付く。
 迂闊に出れば戦闘は避けられないだろう。
 どうするべきか、そう悩んでいると対面側の通路からやってくる人影が見えた。
「しめしめ、であります」
 彼らにモンスターを請け負ってもらおうと考えた吹雪は彼らが部屋に踏み込むなり、足もとに転がっていた瓦礫の破片をモンスターと彼らの間に投げ込む。
 気が立っていたモンスターは突然の音と侵入者に驚き、飛びかかる。
「モンスターですの!」
 咄嗟に襲われた彼らのうち、男性が正面に立ちモンスターを受け止める。
 その隙を見計らい、ダンボールを被って背後をすり抜ける様に反対側の通路へ駆け抜けることに成功した。
 しばらく遺跡を駆け抜けていると、通路の隅に部屋があることに気が付く。
「お宝の匂いであります!」
 勢いよくドアを開けると、そこには見たことの無い武器がいくつも転がっている。
「……武器庫、でありますか?」
 剣や槍といったものから、見たこともない銃器があることから武器庫であることは間違いない。
 目的の物とは違ったが、売れるものもあるかもしれないと探索をしようとした矢先、こちらへ近づいてくる足音に吹雪は気が付いた。
 野盗か、他に同じことを考える契約者か。
 どちらにせよ目の前のお宝の為に排除するしかないと吹雪は部屋の入り口の真横でダンボールを被り、機を待った。
「ま、気になるものはしょうがないよね」
 入り口から部屋に入ってきたのはラルウァ 朱鷺(らるうぁ・とき)
 彼女も依頼を受けた契約者の1人だが、目的は探索のようだ。
「お、これは……」
「財宝を独り占めしようとは許さないであります!」
 意識が部屋の中へ行った時がチャンスとばかりに、吹雪はダンボールから飛び出すとラルウァの首を絞める。
 突然のことに対応しきれなかったラルウァは暴れるが、しばらくすると意識を失ったようだ。
「お宝はこちらがいただくであります!」
 袋を広げ、あたりに転がる武器を詰め込み、部屋を後にしようとする。
 しかし、部屋を出ようとしたときに疑問点に気が付く。
「このままだと、不味いでありますよね」
 契約者の1人が気絶したのを放っておくと、後で全員を詳しく調べられるかもしれない。
 今回の指揮官は特に気の抜けない相手なのだ。
「お、起きるであります! 大丈夫でありますか!」
 そう思うなり、武器の詰まった袋をダンボールで覆い隠して吹雪はラルウァを叩いて起こす。
「……うん?」
 何度か叩くうちにラルウァの意識は戻ってきたようで、ゆっくりと彼女は起き上がる。
「大丈夫でありますか? 野盗に首を絞められていたところだったので何とか追い払ったであります!」
 関係ない野盗に罪をかぶせ、自分のやったことを隠すように嘘を並べる。
「不意打ちされたとはいえ、助かりました。 折角情報源を見つけたのにやられては元も子もありませんからね」
 意識が戻ったばかりでよく理解できていないのだろうか、直ぐに納得してくれたようだ。
「しかし、この階層にも野盗が居るのか」
「ほ、本隊への連絡は自分が勤めるであります! あ、そういえば先ほどあちら側で戦闘の音が聞こえたであります!」
 そう言えば先ほどモンスターにけしかけた人たちが居たなと吹雪は思い出す。
「野盗に襲われてる人達だろうか、連絡は任せるよ」
 そういうなり、ラルウァは急いで走り出した。
 彼女の背中をみて、吹雪は大きなため息をつき、ダンボールの中に隠された武器をよく調べてみる。
「……ほぼ劣化してるでありますな」
 これは売れるのだろうか、と思いつつも袋を背負いその場を後にした。


「鉄心!」
 野獣型のモンスターが源 鉄心(みなもと・てっしん)の腕にガブリと噛みついた。
 部屋に入るなり突然の襲撃に驚いたティー・ティー(てぃー・てぃー)は大切な人の名を叫んでいた。
「大丈夫だ、いつどこから入り込んだのか知らないが……」
 大きく腕を振るい、引き離そうとするがしぶとく離そうとしない。
「……人を襲うならやむを得ない」
 なるべく殺したくはなかったが、仕方ないと武器を構える。
 しかし、戦うにしてもティーは今戦えるような精神状態ではない。
「イコナ、支援してくれ!」
 ならばもう1人のパートナーであるイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に支援を頼もうと彼女の名を呼び、振り返るがその姿はない。
 どこにいったのだろうと辺りを探し回ると、衝撃的な光景が目に入った。
「これで大丈夫ですの!」
 あろうことか、部屋の隅にうずくまっていたモンスターを治療していたのだ。
「イコナ……」
「け、怪我してたのが可哀そうだったんですの!」
 この状況で敵になる相手の治療をするなんてどういう事だと思う矢先、鉄心に噛みついていたモンスターが牙を離した。
 どんなに抵抗しても離さなかった相手が急に牙を離したことに驚いていたが、モンスターは怪我を負っていた小柄な同種の元へと駆け寄っている。
 その様子を見て鉄心は1つの確信を得た。
「親子か……ティー、話せるか?」
 先ほど敵意は感じられない、この状態なら大丈夫だろうと武器をしまう。
「イコナちゃんに感謝ですね、やってみます」
 ゆっくりと近づくティーに気づいたモンスターは彼女に対して威嚇する。
「大丈夫ですわ。そのうさぎはめったに乱暴なことしませんから…怖がらなくても大丈夫ですの!」
 イコナが言うと、威嚇を解いた。
 それを見てティーはモンスターの前に座り込む。
『騒がせてしまってごめんなさい。 入り込んだ仲間が迷ってしまって……今は、それを助けたいだけです』
 ティーは周りにも聞こえる様に言葉を発しつつ、彼らと意識を通わせる。 
『え、同じ理由? 迷い込んだ子供を……そうですか、なら争う理由はありませんね』 
 相手の言葉はわからないが、ティーの言葉から察するにモンスターは遺跡に迷い込んだ子供や仲間を助けに来ていたのだろう。
『はい、私達の仲間には貴方達に手を出さないように伝えます』
 交渉は順調のようだ、もはや彼らから敵意は一切感じない。
「抜け道や、別の入り口があれば、教えて貰ったりは出来ませんの?」
『……それは見つからなかった? なるほど、入り口は1つだけなんですね』
 がっくりと肩を落とすイコナ。
 しかし、重要な情報だとなだめる様に鉄心が肩を叩く。
「随分とおかしな組み合わせですねぇ」
 自分達がやってきた通路から声が響く。
 急いで来たのだろう、肩で息をしているラルウァの姿がそこにはあった。
「モンスターと話を付けましたですの!」
「本当に?」
 モンスターを説得、にわかには信じられないといった様子で様子を見るラルウァだったが、目の前で会話をしているティーを見る限りは信じられるようだった。
「そうだ、さっきここを調べてて面白いものを見つけてね」
 彼女の手に握られているのは1冊の本だ。
「それは?」
「日記さ、古代時代の」
 そう言いながら彼女は日記を鉄心に手渡す。
 書かれている内容自体は飛び飛びで情報源は少なかったがそこには重要な情報があった。
「ここは古代時代のレジスタンスの秘密基地なのか」
 古代時代の王国に敵対する隠れた組織あったのだろう、ここがその地下基地というわけだ。
「しかし、女王の石像の真下に入り口があるっていうのは皮肉だな」
 敵対すべき存在の真下に基地を作る、隠れ蓑としては有効だったのだろうか。
「日記を見る限り、財政難な組織だったみたいで財宝の類は全くないみたいだね」
 ラルウァの言う通り、序盤の日記は腹が減っただの金がないだのの内容ばかりだ。
 ページが進むにつれ準備が整ってきたや、強力な武器が手に入ったと記されている。
 そして、最後のページには「明日が決戦だ」と記されており、それ以降の記載はない。
 しかし、地上の居住区がそれなりに形状を保っているのを見る限り、彼らの作戦は直前で阻止されたのだろう。
「……本当に何かを守りたいのなら、噛み付く相手は選ばないとな」
 モンスターに向けて言ったのか、過去のレジスタンスに向けたのかはわからないが鉄心は1人呟いた。