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リアクション
第 2 章
洋館に突入した救助隊は広いエントランスでそれぞれ分かれて捜索を開始した。いくつかのパーティになり、通路や突然扉を破って現れるゾンビを相手に清泉 北都(いずみ・ほくと)が【ホワイトアウト】で行動不能にしていく。
「出来るだけゾンビの始末は避けたかったんですが、こう多いとは思わなかったですねぇ……どこから来ても、もう驚かないけど」
「大半の人型ゾンビは、近くの墓所を荒らしたのかもしれませんね……眠りについていた死者を冒涜する行為には怒りを覚えますが、同時に向かってくる彼らをもう一度眠りにつかせてやらなくてはなりません」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)の放つ【我は射す光の閃刃】の光輝属性魔法がゾンビ達を貫き、その身体は瞬く間に灰と化していく。北都達の前方で露払いにと進む大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)もほぼ殲滅し終えたところであった。
「北都の【超感覚】で気配を察してもらってたとはいえ、ちょっと多過ぎやしないか? これは調査団見つける前にこっちの体力がなくなるんちゃうか……」
顎を伝う冷えた汗を拭う泰輔は明かりの無い通路の先に蠢く物体に、半ばうんざりした顔をするものの視線で訴える讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)に頷いた泰輔が【召喚】を使うと瞬時に物体の傍へ移動した顕仁は【火術】を仕掛ける。
「哀れな存在ではあるが、同時につまらぬものよ――潔く死者は眠るべきであろう」
【火術】を仕掛けられた無形のゾンビがのた打ち回り、太い尾のようなものでしきりに壁や扉を叩き続けると、崩れた壁から何かを引きずるような物音がした。
「何か、います……! 顕仁さん、離れて下さいっ」
北都の叫びに泰輔が【召喚】で顕仁を呼び寄せると壊れた壁につっかえながら通路を塞ぐ程の物体が姿を現す。洋館の薄暗さに目が慣れ始めたレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が見たままのシルエットを呟いた。
「……蟻?」
レイチェルの隣でその姿を見た泰輔も、その言葉を繰り返す
「……蟻やな。というか……普通、蟻ってこんなでかくないはずやけど」
通路を塞ぐ程の巨大な蟻が彼らを見下ろし、時折触覚を動かしながら辺りの状況を探るような動きを見せる。反射的に一歩二歩と後ろへ下がるレイチェルと泰輔に反応して前足を大きく横薙ぎに攻撃を始めた。
「冗談キツイわー! これ、ゾンビっていうより……教導団の団長さんが言っていた遺伝子操作の賜物……じゃないやろか」
泰輔はレイチェルを後ろに庇いながら前足の一撃を何とか避けて2人は北都とクナイの居る位置へ下がる。
「……もし、遺伝子操作が生んだ生物なのだとしたら普通の攻撃では沈んでくれそうもありませんね。フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)様、何か策はございますか?」
北都を後ろに庇い、【龍鱗化】で防御を固めながらクナイが問いかけるとフランツは銃の構えを解かないまま答えた。
「即席の作戦になってしまうけれど、まず動きを止めたいから顕仁の『さざれ石の短刀』で石化……北都君の【ホワイトアウト】で凍らせて一気に叩き割る、という方法が早いと思うけれど、ああ…でもあの大きさだと樹木葬15万Gっていう見積もりだったけど3倍は見積もった方が良い気がします」
若干、フランツも思考の混乱を見せているのかクナイは咳払いを1つすると北都へと振り返る。
「北都、顕仁様の石化に続いて【ホワイトアウト】を仕掛けて下さい。通り過ぎ様に【煉獄斬】で横薙ぎに斬りつけます」
「……よし、じゃあ僕はその後に【百獣拳】を叩きこむよ」
「ふむ、我もそれに異論はないな。泰輔、【召喚】を頼む」
顕仁が巨大蟻の死角に現れ、数度に渡って『さざれ石の短刀』で斬りつけた後に北都の【ホワイトアウト】が蟻を取り巻いて氷漬けにしてしまうと、間髪入れずにクナイが炎を纏った剣【煉獄斬】で横薙ぎに一刀を走らせ、それに続いて北都が【百獣拳】を叩きこんだ。全員が通り過ぎると氷漬けになった蟻の身体が崩れ出し、大小様々な欠片が通路に散っていく。その様を見ながらレイチェルは固く拳を握った。
「この蟻も、『道具』として扱われたも同じ……自分自身以外の他者をこのように扱う類の人、私はやはり好きになれません」
レイチェルの呟きに、泰輔とフランツがレイチェルに寄り添うように歩き出す。その姿を見ながら後ろから顕仁が肩を竦めつつ続き、北都とクナイは砕かれた蟻の残骸を一度振り返ると泰輔達の後を追った。
◇ ◇ ◇
エントランスから別の通路を選び、ゾンビ達の配置を把握しながら進むトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は特にゾンビが出没する通路を絞っていった。
「重要なものや第三者の手に渡りたくないものには、無意識にでも警戒を強めて守らせようとする。その心理を逆手にとってカルカー中尉達や魔道書達の救出にもっていこうと思うけど、これで異存はないか?」
ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が傍らのアルバ・ヴィクティム(あるば・う゛ぃくてぃむ)、ラフィエル・アストレア(らふぃえる・あすとれあ)と頷き合ってトマスへ異存無しの旨を伝えた。
「本格的な戦術戦略になると、現役軍人のあんた達の方が上手をいくだろう? もし、厄介な罠やら開かない扉なんかに当たった時は任せてくれ」
パーティの方針がほぼ決まった所で、トマスは改めて銃型HCを手に通ってきた通路の情報を入力してマッピングしていくと、周囲を警戒するテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が途端に耳を澄まして長く続く通路の先を見据える。
「なんか、数だけは取り揃えてそうな気配だな。鳴き声みたいなのも聞こえるけど、これ動物……か?」
テノーリオの言葉にミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)と魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)もそれぞれ武器を構えた。後ろを警戒するヴァイスとアルバもそれぞれ臨戦態勢を取り、ラフィエルが全員に【パワーブレス】を掛ける。
「……ラフィエル、【光術】で照らしてみてくれないか?」
「あ、は…はい!」
ヴァイスの声に【光術】でテノーリオの前方を照らし、鳴き声の正体を見た彼らは一様に顔色を変えた。
「ね、鼠!? というか、どんだけ居るんだよ!」
通路を埋め尽くさんばかりのイモ洗い状態で鼠の集団がパーティに迫ってくると飛びかかってくる鼠も居れば足元を攪乱して素早く動き回る鼠やらよじ登って遊びだす鼠など一気に混乱させた。
「ちまちましていて、やり辛いぜー! 手数ばかり出してきて時間稼ぎか!?」
一匹一匹を相手にしてしまうテノーリオが叫びながら鼠を殲滅していく。ミカエラは『ウイングソード』で飛びかかってくる鼠を斬り捨てていくと地面に倒れた鼠はすぐに灰と化した。
「やはり、この鼠達も……光輝属性の攻撃ならこの数も一度に片付けられるかもしれないわ」
『ウイングソード』で横薙ぎに鼠を始末しながら、ミカエラはラフィエルへ声をかける。
「ラフィエルさん、【バニッシュ】を使ってみてくれないかしら……っ、この鼠達もゾンビです、光輝属性を持つ攻撃なら彼らを静かに眠らせてあげる事が出来るはず……!」
ラフィエルによじ登る鼠をアルバが片っ端から叩き落とし、彼女に装備されている『シルバーウルフ』と『超人猿』も嫌がるラフィエルから鼠を引き剥がしにかかっている。そんな中で立てられた白羽の矢にラフィエルはロッドを強く握り直した。
「守ってもらうばかりじゃ、駄目ですよね……やってみます!」
「――そなたなら出来る、自分の力を信じる事だ」
寄ってくる鼠を遮るようにアルバはラフィエルの前に立ち、『紺碧の槍』を構えた。すぐに【バニッシュ】の光が通路を照らし、動き回る鼠達が力を失うと同時にその身体は灰となっていく。
「……しかし、こんな大群の鼠をゾンビに仕立て上げるだと? 一体、何がしたいんだ」
剣を仕舞いながらトマスが呟くとラフィエルを労うようにそっと頭を撫でる。
「ありがとう、助かった……頼もしい人達がパーティに居てくれて有り難いよ」
ヴァイスやアルバからも撫でられるラフィエルがはにかむように笑うと、子敬が口の前に人差し指を立てて、静かにするよう促した。
「何か、聞こえませんか? コン、コンと……テノーリオはどうかな?」
「ん? 上からか……?」
聞き分けるように耳をぴくつかせ、壁に耳を当ててみたりするが聞こえる方向を特定するには至らない。
「2階か……捕まっているなら地下かと思ったが、罠の可能性も含めて確かめた方が良さそうだ」
トマスの判断で2階への階段を探し出し、襲ってくるゾンビを排除しながら調査団救出へと向かっていった。
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