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リアクション
……魔女の書斎。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は本棚から本を抜き、ぱらぱら眺めながらくすって笑った。
「なんだか懐かしい。前の静香さんの冒険も、始まりは船……だったわね」
「そうだね。あの時のこと思い出すな……ところで、大丈夫? あの時より力がなくなってるけど」
契約者としての強大な力を持ったルカルカのことだ、ギャップの大きさに戸惑っているのではないかと思ったが、
「レベル1? 別に大した問題じゃないよ。ほら見て。レベル1装備とスキルってバカにできないのよ」
ジャーン♪ とレザーアーマーとグレイトソード――歴戦の戦士の技と魂が込もった巨大な剣――やタリスマンを見せる。
静香は笑ってから、少し真面目な顔で頷いた。
「あはは、そうだね。……沢山冒険したら、それだけ今までの経験もあるし、手に入れてるものも違う、よね。そのまま契約以前に戻った――っていうのとは違うか……」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がその言葉を受けて、静かに頷く。
「あの頃とは変わった自覚が有る。性能も上がったがそういう事ではなく……」
「人っぽくなったよね」
ルカルカが嬉しそうに言うと、
「剣だから厳密には違うが……そうだな」
ダリルも僅かに微笑する。前より感情が豊かに、人に共感するようになったようだ。勿論、剣ではある。あるのだけど……ただの道具、無生物ではない。
ルカルカはそんなダリルを見てまた笑った。
「ねぇダリルー、もっと笑ってよ」
「……桜井、こっちを調べるか」
「もー。……そうだあとね、チョコレートも持って来たよ、これはオヤツに食べよう♪」
「それ、まだ持ってたんだ……大丈夫かな? 大分前にあげた気がするよ、お腹壊さないでね」
ルカルカが見せたのは、静香がプレゼントしたチョコだった。
「……そういえば静香さんって急に外に出てきたけど。どれを調べたらそうなったの?」
ルカルカは問題のモノを取ろうと、デジカメを構えたが、うまくピントが合わなかった。
「なんかおかしいなー……あ、あれ?」
何度か操作を確かめているうちに、そこにがやがやと女生徒たちが入ってくる――推理研究会の面々だ。
「あら、お揃いね。どうしたの?」
静香とルカルカのやり取りを見守っていた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が出迎えるが、亜璃珠の表情は若干、いつもの余裕がなかった。というのも、ここに来るまで、船員の殆どが彼女轟く名声を知らなかったからである。まるでいつも身に着けている宝石や毛皮を忘れてきたかのような、落ち着かない感じがする。
一応、彼女のメイドであり悪魔でもあるマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)を呼び出すことはできたが、彼女も亜璃珠第一、というより、魔法を弾く鏡などを手渡すと、お掃除に専念していた。
「はい……あの、古いお城ということで、かなり埃も溜まっていますね。メイドの性と言いますか、ハウスキーピングせずには……
その、くまなく掃除してやれば何か見つかるかもしれませんし、 少しいいでしょうか?」
ドキドキを抑えきれないマリカを止めるのも、躊躇われた。
「楽しそうね」と言ってみるが、「……まあ、その、実は」と、はにかむ。
マリカも力がないでしょうし……と思うものの、
「あなたは可愛いわね」
じゃあと連れて来た小さな魂の迅龍をなでなでするのは心慰められるが、なんだか、乗ったら潰れそうな気がするし。
「……仕方がないわ、静香さん、ちょっといいかしら?」
髪――に同化させたパラサイトブレード――で縛り上げ、悪戯を“男の子の部分”に仕掛けようとしたが、するりと抜けられてしまうし。
静香のお目付け役のつもりだが、逆に自分が退屈を持て余し気味だった。とはいえ、神獣鏡や魔法耐性のあるルビーのペンダントで、魔法の脅威から静香たちを守るという役は手を抜いていないが。
「何か見付かったの?」
「ええ」
推理研究会の面々は、部屋に取り付けられた鏡――あの塔にあったものとそっくりなもの――の中から、やはり同じようなレバーを見付けると、それを引く。
すると――ゴォン、という音がして。
書斎の一番奥、本棚がスライドして奥に通路が現れた。
「……にしてもなんだか初心に帰った気分ねえ。まだ怖いものなしで、でも周りは未知と脅威ばかりだった頃」
やっと楽しいものを見付けた獲物の顔で、亜璃珠は静香に尋ねる。
「……どうかしら、あの時のワクワク感、ある?」
「うん」
静香は昔のことを思い出しつつ、笑顔で応える。
「みんな、もう昔と違って、色々背負っていて……だから純粋に冒険なんてできないんじゃないかなって思ったこともあるけど。そうじゃないっていうことが、一番嬉しいな」
「窓がないから……暗いわね」
階段を下から覗き込んだルカルカが“光精の指輪”の光で先を照らして呟く。
「あの頃とは経験の分やっぱり違うけれど……秘宝ってこう言う事? まさかね」
そのつぶやきが終わらないうちに……、
「隠し通路! 行くぜミャンルー隊っ!」
「みゃー!」
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が叫びと共に、四人のミャンルーを指揮してダッシュする。
「こういうとこには隠し通路があって隠し部屋があって次々と人が消えていって殺人事件が起きて……あれぇ!?」
殺人事件は困るなぁ、と、背後で静香はちょっと笑うが、声はアキラには届いていなかった。なぜなら、アキラの目の前を何かがさっと横切ったからだ。
「我は射す光の――」
アキラは構え、けれど光の攻撃はちらっとした光を灯すだけに終わり、そしてその「何か」が見えて……。
「うわーっ!?」
叫び声を上げるアキラを、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が追って走る。
「こら待てアキラ!」
驚いて動けないアキラの頭を、後ろからぽかり、とやる。アキラは頭を押さえてうずくまり、
「い、痛ててて……」
「全く……皆片づけながら掃除しながら調べておるというのに、貴様は!」
ルシェイメアの言う通り、彼のいた場所はアキラのミャンルー隊によってしっちゃかめっちゃかにされていた。
絨毯や絵画はめくって戻さず、家具は移動しまくり、だけでなく本棚や家具の中身をみんな出して裏や底などに何かないか探したり、石像なんかがあればその向きを変えてみたり動かないか試してみたり……。
「何でそんなに怒んだよ……もしかしてこの城の魔女ってルーシェ?」
「うむ。実はそうなのじゃ」
「えええええっ!? まじ!?」
「ウソじゃ」
「何だー……がっかり。……まてよ、今現在持ち主がいないようなら、俺がこの城を買って住む!」
アキラの宣言に静香は遠まわしに難しいことを伝えようとするが、
「どうなんだろうね、権利とかどうなってるのかなー」
「そもそもウチのどこにそんな金があるのじゃ」
ルーシェリアのとどめの一言に、アキラは諦めたように不服そうな顔でほっぺたを膨らませた。それでさっきの見たものは何か……とルシェイメアが聞こうとした時、アキラの首にしがみついたアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)がぎゅっと目を瞑っているのに気付いた。
「……どうしたんじゃ、アリス」
「ねずみヨ! さっきねずみがいたノヨ!」
彼女は逃げ出そうと思ったが、後ろには隠し通路の中を見ようと契約者たちが詰まっていて、叶わなかったのだ。
ねずみはアンティークなローボードの下に隠れたようだ。アキラは見て来てくれよー、とアリスにお願いするも、
「汚れるのは嫌ヨ!」
と、彼女は拒否した。埃まみれになって、埃だらけのねずみに狭いところで鉢合わせなんてぞっとする。
一方で、出てきたねずみをいつでも仕留められるよう、片手からは小さな火の球が出ていたが、こちらはアキラの耳を焦がしそうだった。
「火事にならないようにしてね」
静香が近寄って言うと、亜璃珠が短い廊下の突き当りで立ち止まった。
「……ここ、魔法がかかってるわ」
その時、彼女の横まで「ぞでぃあっくさん」のイコプラがやってきた。イコプラを“サイコキネシス”で操っているのは、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)だ。
そのイコプラの背後を光が追いかけてくる。いや、正確にはその下に、光精の指輪をはめたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がおり、彼女の手元――作成した古城の見取り図を照らしていた。
「おかしいね、まだ奥行きがあるよ」
ノーンが言うと、エリシアはイコプラを壁に進めた。そして……イコプラは、壁の中に埋もれた。
「幻影の壁だったみたいですね」
一同が壁を潜り抜けると、上へ続く階段がある。そして階段の終着点には、金属で補強された四角い天井扉があった。
*
その日の探索は、陽が落ちたためもあって、一旦お預けになった。
全員で発見を持ち寄り、
綾耶や
歌菜の用意した食事を済ませ、話し合う。
翌朝を待って、彼らは屋上に上がった。
そこに広がっていたのは、屋上庭園だった。
低く段々になっている花壇に咲き乱れる草花、流れる小川、東屋、木陰を作り出す樹々とベンチ。蝶が舞い、リスや小鳥たちが集い、戯れていた。
思わず駆け出して手すりから身を乗り出すと、島をぐるりと見渡せる絶景が広がっている。
「これを守るために、侵入者除けの罠を作りましたのね……?」
エリシアは庭を歩きながら観察する。よく見ると植物は景観よりもあえて多種多様の植物を寄せ植えているように見えた。美しい花々の他に、庭でも見た薬草、ハーブ類など魔法や錬金術に使われるものが多いようだ。
「此処のみで見ることが出来るもの、住んでいた魔女にとって価値ある――」
エリシアはそこで言葉を区切り、風景を眺めた。口の端に微笑が浮かんでいる。
椿はベンチに座ると、携えていた魔女の日記を再び開き、読み上げる。
「『古王国の強大な力、契約の力。戦乱に巻き添えになって踏みつぶされていく草花と、小さな動物たち。
私はここでその小さな命たちを守っていこう。この島が誰にも破壊できない楽園になるように。
そしてこの島が、もしもの時は荒れ地に蒔く種となるように。
この島が永遠であることを願って、この島が不要であることを願って』」
椿の予想は、半分当たっていた。
つまり……この庭園が、秘宝の半分。そして力がなくなる仕組みそのものが、秘宝の半分だったのだ。
「静香ちゃん、秘宝探しツアーとっても楽しかったよ。ありがとー! 出航したら、早速おにーちゃんに、メールしてあげようっと」
秘宝を見れた、そのことに満足した顔で、ノーンが静香に笑いかける。
ノーンとエリシア、二人のパートナーである
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、空京の別宅で、夫婦でまだまだ子育てを楽しんでいる。改築工事が完了したら、親子でツァンダの御神楽邸に戻るそうだ。
「僕こそ、みんなのおかげでとっても楽しかったよ」
静香は満面の笑みで答えてから、空を見上げた。
「もしかしたら、冒険したい気持ちを持ってるってことが、冒険できるってことなのかなぁ……」
そうして契約者たちも海軍の人たちも、暫く、思い思いにこの庭で遊んだ。話し合ったり、黙ったり、内緒話をしたり、景色を見たり、水に足を浸したり、寝っ転がったりして……。
静香はそんな姿を眺めながら、皆のパラミタでの冒険の結末が全て穏やかであるように願いながら、降り注ぐ光に手を伸ばした。
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担当マスターより
▼担当マスター
有沢楓花
▼マスターコメント
ゲームマスターの有沢です。
ご参加ありがとうございました。
皆さんの和気藹々としたアクションに楽しませていただきました。
今回のシナリオではスキル制限させていただきましたが、一部説明が足りず、パートナースキルや種族の初期スキルについてご不便をおかけいたしました。
次回執筆予定は、特別シナリオ、その次は伸ばしていました黒史病(堕天使シナリオ)を予定しています。
以降、『蒼空のフロンティア』最後に向けて、皆さんが良い結末を迎えられるようなシナリオを出せれば、と思っています。
マスターNPCも少しずつ変わっていくかなと思います。
よろしくお願いいたします。