校長室
××年後の自分へ
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「……未来体験薬がこの便箋に染み込んでいるのか」 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)はまじまじと便箋を手に取って見ている。 「それでどうするつもり? もし前のような事になりそうであれば、普通に手紙を書くだけでもいいと思うけど」 向かいに座るエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が心配そうに聞いた。なぜならかつみは以前未来体験薬の被験者となり自分達との悲しい別れを見たから。またそんな事が起きるのではと危惧しているのだ。 「エドゥ、心配ありがとう。でも確かめてみたいんだ。あれから色々あって未来が変わったのかどうか。例え、俺の想像したものだとしても」 エドゥアルトの気遣いをありがたく受け取るもかつみは再び未来体験薬を使用する事を選んだ。 「そこまで言うなら止めないけど、危なそうだったらすぐに想像をやめるようにね」 揺るがないかつみの目を見たエドゥアルトは止める言葉は無駄だと悟り、警告だけにした。 「分かった。エドゥはやっぱり書かないのか?」 かつみは受け取らなかった事からエドゥアルトが手紙書きには参加しないと知ってはいたが、念のためにと聞いた。 「見学してるよ」 エドゥアルトは微笑みながら答えた。 「そっか。それじゃ、10年後でも想像してみるよ」 エドゥアルトの返事を聞くやいなやかつみは未来を想像しつつ匂いを楽しみながらペンを走らせた。 その間。 「……明るい未来を想像しているのかな。後で聞いてみようか」 エドゥアルトは万が一も考えてかつみから目を離さず見守っていた。見守られているかつみはどこか楽しそうな感じであった。 「……聞かないと中身は分からないけどどう見ても前みたいな事は起きそうにないから良かった」 エドゥアルトは前の事を思い出していた。未来体験薬の効果が抜けきらず、離れて行く自分達を追いかけようとする姿を。そんな事が起きない今回は大層エドゥアルトを安堵させていた。 ■■■ 10年後、パラミタのどこか。 「……ようやく一段落だ。本当に厄介な仕事を受けてしまったな。数ヵ月もみんなと離れる事になるとは……」 具体的に何の仕事かは不明だが、かつみは大変な仕事を受けて数ヵ月遠方で頑張っていた。現在のかつみにはとても考えられない状況。 「……明日には終わって帰れるし、エドゥ達に電話するか」 かつみは家にいる仲間達に電話をした。 かけてすぐに繋がり 「もしもし、エドゥ? 明日には仕事は終わって帰れるよ。他のみんなは元気か?」 電話先にいるエドゥアルトに明日帰る旨と他の仲間の様子を伺った。 すると仲間達が代わる代わる電話に出て元気な様子を報告してくれた。 その中で、元気な強化人間青年が電話先に出た時、 「ナオも元気そうだな。良かった。お土産話いっぱい持って帰るから楽しみに待ってくれ。それじゃ」 かつみはあれこれと長話をしてから電話を切った。 「……さてと」 久しぶりに仲間の声を聞いて元気を貰ったらかつみはさっさと仕事に戻った。 ■■■ 想像から帰還後。 「……意外だったな」 想像から戻るなりかつみは感想をぼそりと洩らしてた。 「意外? どんな未来を想像したんだい? 様子を見る限り明るい未来のようだけど」 聞き逃さなかったエドゥアルトは早速想像した未来の内容を問いただした。想像中の明るい様子のかつみを思い出しながら。 「……確かに明るい事には明るいけど、前に見た未来と似ているかな。内容は……」 かつみはゆっくりとエドゥアルトに想像した未来を語った。 かつみの話を聞いた後。 「へぇ、ちゃんと道を見つけられそうなんだね。環境は変わっているみたいだけど楽しそうにしているみたいで良かった」 エドゥアルトは思った通り明るい未来でほっとした。 「俺もそう思ったよ。あと、今、エドゥ達といるのが楽しくてほんの数ヵ月にしろ離れたりしている未来を想像する自分が少し意外だと思ったくらいかな(それに想像した未来と違って今のナオは俺と離れるのをさびしがりそうだし)」 かつみは意外な未来を想像した自分と仲間の強化人間の少年の事に口元に笑みを浮かべた。 続いて 「でも今回は不安を感じなかった。多分、エドゥ達が待っていてくれると分かっていたからだろうな」 かつみは想像している時に感じた事を話した。 「かつみ、前にも話したけど、私はこの百年ぐらいは何も変わるつもりはないよ。だから、帰る場所があるって事を覚えていてくれれば、自由にどこに行ってもいいからね」 エドゥアルトはおもむろに言った。もしかしたらかつみが語った明るくも離れた未来のためかもしれない。 「ありがとう、エドゥ。手紙を書くよ」 かつみは自分を気遣うエドゥアルトに礼を言ってから手紙書きを始めた。 その気持ちは綴る未来の自分に宛てた手紙にも表れており、自分が望んだ仕事につけたのか、パートナー達とはうまくやれてるのかというものであった。 「……(実際、未来はどうなるか分からないけど、何となく大丈夫だろ。特に後者は……)」 かつみは手紙を書きつつ自分は良い仲間に恵まれていると幸せを噛み締めていた。