校長室
××年後の自分へ
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■ロズの先を照らすために…… 「……未来の自分への手紙か。賑やかだな」 手紙書きの話を聞きつけた酒杜 陽一(さかもり・よういち)はぶらりと賑やかな中庭を歩いていた。手にはレターセットは持ってないが、何かしらの目的を持っている様子なのは明らかであった。 ふと 「あれは、ロズ。丁度、あの二人と離れていて話をするにはいい具合だな」 ロズがベルクと皆から離れた別テーブルで何やら話している事を発見。 「……しかもどうやら俺と同じ目的の者もいる」 様子から自分と同じ目的だと察した陽一はロズに声をかけに行った。これこそが陽一の目的であった。 双子から離れた別テーブル。 「それで、どんな事を書いたんだ?」 席に落ち着いた所で改めてベルクは手紙の内容を訊ねた。 「……」 ロズは手紙を差し出した。 「……随分先の未来に宛てたみたいだな」 ベルクは宛てた年数を確認してからロズの手紙を読む。双子を最後まで見守る事が出来たのか、作られた存在である自分はどうなっているのかなど、なかなかにネガティブな事が書かれていた。 「……書いている事は双子に事ばかりじゃねぇか。それも最後まで見守ったのかとか自分の身体がどうとうかあまりにもネガティブだろ」 ベルクは手紙をテーブルに置き、呆れの溜息を吐いた。 「……彼らが道を外れないようにするのが償いになると……」 ロズは以前皆に貰った助言の通りにしていると主張しようとした時、 「確かにそうは言ったが、自分を蔑ろにしろとは言ってねぇよ」 ベルクはヒスミに作られたにも関わらず真面目なロズに苦笑を浮かべた。 その時、 「双子が亡くなった後の自分の在り方に悩むのは分かるけどもう少し明るい事を考えてもいいんじゃないか」 少しでもロズの気を軽くしようと陽一が声をかけ、改めて会話に加わった。しっかりと先にしていたロズとベルクとの会話も耳に入っていたようだ。 「……しかし」 ロズは深刻そうな顔で言葉を濁らせた。 「そんな深刻な顔はするな。あの双子に勘付かれるぞ。あいつら案外聡いからな」 手紙を書き終えたダリルが現れ、ロズに釘を刺した。 「……思い悩む事があるのなら話せ。話せば、悩みは軽くなるだろうし解決方法もあるかもしれないだろ?」 ダリルが話すように促した。 「……本当に申し訳ない。迷惑を掛けるのはあれっきりにするべきだというのに」 ロズはまた迷惑を掛けてしまった事に申し訳なさに言葉を沈ませた。 「だからな……まあいい。お前が気に掛けてるのはこの手紙に書いてある事で間違いねぇな」 ベルクはロズの言い方をやめるように言おうとして話が先に進まなくなると感じたのかやめて解決に向けての手助けに入る事に。 「種族が違うからお前の寿命がどれだけか解らねぇけど。いちいち気にする事じゃねぇと思うぜ」 「そうだ。このパラミタには君以外にも作られた種族が幾つも在るしね」 ベルクと陽一がロズの寿命についてあれこれ。 「ただ、経年によってお前の身体に異常が起きないとは明確に答える事は出来ないが」 ダリルは忘れてはいけない危惧を口にする。 「……その可能性は考えている。しかし、彼らの事が……」 ロズはダリルの言葉にこくりとうなずき、手紙に綴った事を口にしようとするが、内容を察したベルクが割り込み 「確かに あの二人の事は重要だし、お前のその思考を切り替えるのは難しいかもだが、いずれ手を離れる日が来るんだ。なんつーか、もーちょいお前自身にも楽しいと思える未来予想図を書けよ」 ロズを叱咤激励した。 「……手が離れる時か……」 ロズはそう言ったきり沈黙した。ベルクの言葉でこれまで渡り歩いた数多の平行世界とそこにいた性別年齢ばらばらの双子の姿を思い出していた。確かに立派に生きている双子も中にいた事も。 「君の身体については、あの二人に素性を打ち明けたらどうかな。君一人で解決する事は難しいと思うし」 「……彼らに打ち明ける、か」 陽一の提案する解決方法が予想外だったのか多少の驚きを見せ言葉を失った。 「打ち明けてもあいつらはお前を悪いようにはしない。まあ、悪戯のネタには使うだろうが」 ベルクは深刻にならないように笑いながら言った。 「……それが気掛かりで打ち明けていないのだが」 ロズは息を吐きながら言った。まさにベルクの言うような事があるので打ち明けていないのだ。 「しかし、正体を探ろうとはされているんだろ」 ダリルのツッコミ。 「……あぁ。しかし、気を付けているから今の所は心配無い。いずれは……」 日々緊張気味な一日を送っているロズ。 「そう、そのいずれは来る。一人で見守るだけでなく今よりも助け合う事が出来れば、痛みは薄まり喜びは大きくなるかもしれない。何より二人が本当の事を知れば、何とかしようと頑張ってくれるかもしれない」 陽一はこれまでの事から双子はきっとロズのために何かしら力になると確信していた。 「……」 沈黙しロズは三人の言葉を胸中で繰り返し、どうするべきかを考える。 「俺達はあいつらによく振り回されているから困った奴らだと知ってはいるが……」 ベルクはこれまでの事を思い出し、苦笑いを浮かべたその続きの言葉は 「二人とも天賦の才の持ち主。君に万が一が起きた時に何とか出来る可能性はあると思っている。それに平行世界では君を生み出している。こういう事言うとあの二人調子に乗るから言えないけど」 陽一が引き継いだ。 「……確かに才能についてはこの身をもって知っているが、万が一に間に合うとは限らないのでは」 ヒスミの長年の研究によって生み出されたロズは双子の才能云々については誰よりも知っている。才能がなければ自分は存在していなかったのだから。ただ緊急事態が起きた際の対応は特殊な平行世界によって消えてしまいしてもらえない。 「君を生み出したのは一人だったが、ここでは二人いるから何が起きても大丈夫なはずさ。ただ、悪戯の種が増えるかもしれないが、それはそれで賑やかになると思わないか」 陽一は最初に人差し指を立ててから続けて中指を立てた。 「それは確実だ。今日まで双子と一緒にいたが、説教を受けてもすぐに懲りずに悪戯をして回る……目を離す暇がない」 賑やかになる事に関しては共に行動してよく認識している模様。 「だろうな」 「その様子がありありと目に浮かぶ」 ベルクとダリルは即うなずいた。 話すべき事は話したと感じた陽一は 「ここまで話して何だけど、どうするかはロズ次第。俺達が言ったのはあくまでも方法の一つだから(生みの親を亡くし自身の存在について迷子……あのフォルトーナも同じような悩みを抱えているのかな)」 最後にゆっくりとロズの心に刻み込むように言った。同時にロズと同じく生みの親を亡くし願いを叶える石という存在を模索する旅しているだろうを石青年の事を思い出していた。 「話も終わったところで二人に気付かれる前に戻るか」 ダリルは双子が気付いていない事を確認した後椅子から立ち上がった。 続いてベルクと陽一も椅子から立ち上がり、三人はそれぞれのテーブルに戻った。 「あぁ。本当にありがとう(……楽しいと思える未来予想図か)」 ロズは皆に礼を言って三人を見送ってから便箋を見つめ言われた事を思い起こし、 「…………(元の姿に戻る事が出来て……双子と一緒にいて……あのように気遣ってくれる者と出会った……)」 今の自分は双子といて良かったと思っているが、未来の自分はそう思っているのか、というような今のロズにとっては精一杯の事を追加で綴った。もう少し明るい事を書いても良いのだが。 文章を追加した後、ロズは椅子から立ち上がり双子の所に戻った。