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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 ジャタの森 某所
 
 
「おや……また新たなお客さんね」
 焚火の前で休む彩羽は、新たな来訪者に気付く。
 
「良かった! 無事だったんですね!」
 結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)は安堵した様子でシリウスとサビクへと駆け寄った。
 ジャタの森育ちであるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)のおかげでスムーズに進んでこられた結和。
 もちろん、仲間であるアヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)も一緒だ。
 彼女達を護衛しているのは大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)の二人だ。
「お気をつけください。ジャタの森には危険な原生生物がいます」
 
 最初こそ来里人達と一緒にいることに驚きを隠せなかった結和だが、すぐに気を取り直す。
 そして結和は躊躇なく、来里人の相棒たる少女の治療に取り掛かった。
 
「どうして……? あなたは敵なのに……?」
「……敵でも、どんな人でも、傷ついているのを見ているのは、嫌ですから。人が傷つけあうのは嫌いです、皆で仲良く出来ればそれが一番いいです。……でも、避けられない争いもあるのでしょう」
「……」
「なら、私は、その傷を小さくしようと思うんです。戦いが全て終わったあとのために」
「戦いの後……」
「ええ。生きて、和解することができる未来のために。誰にだって、未来があれば幸せになれる可能性がある。これが私の戦い。みんな一緒にしあわせに。それがたった一つ、心に抱く確かな願い」
「強いんですね、あなたは。もし九校連にいるのがみんなあなたみたいな人だったら、きっと違う可能性もあったのかもしれません」
「今からでも遅くはないと、思います。生きて、和解することがきっとできるはずです」
 
 一方、その横ではアヴドーチカが来里人の身体を診察していた。
「あんたがメインパイロットかい?」
「……」
「あの悪魔のような機体どもを仕込んだのはお前さんたちなのかい? ああいや、別にだからどうこうしようってわけじゃないんだ」
「何が目的だ?」
「目的? お前さんを治療するのが目的に決まってるだろう」
「好きにしろ」
「ああ、好きにするよ。それとさっきの質問だけどね、答えなくてもいい。ただ、医療従事者として一言文句を言ってやりたい」
「文句?」
「あんな機体じゃ、パイロットに愛される筈もない。わざわざ愛されないような子を造る親の気が知れないね」
 そう言いながら来里人の診察を続けるアヴドーチカはその途中であることに気付く。
「ん? あんな機体に乗ってる割には、随分と健康そうじゃないか」
「有人機として開発する以上、パイロットへのケアを念頭に置くのは当然のことだ。何も驚くことはない」
 
 二人が言葉を交わしている横では、結和による治療が今も行われている。
 魔法と医学を融合させた結和独自の治療法によって、来里人の相棒たる少女の怪我は瞬く間に治ったようだ。
 
「原生生物の迎撃および掃討を遂行。それによりこの付近の戦況は確保されました」
 周囲の警戒任務にあたっていた丈二が戻るとともに報告する。
 
「……まさかお前らとこうして話すなんてな。てっきり、非情のテロリストどもは話も通じない連中かと思ってたぜ」
 焚火を挟んでシリウスは来里人へと話しかけた。
「それはこちらも同じだ。まさか九校連に話しの通じるマトモな奴がいたとはな」
「言ってくれるじゃねえか、一体どうしてそこまでお前は九校連を憎むんだ?」
「聞いてどうする?」
「助けが来るまでの暇つぶしだ。何らかの事情があったんだろうけどな、ヴァイシャリーの街を襲った時点でお前等はオレの中で討伐確定してるんだ。今更見逃してやるなんてことはないから、覚えとけ」
「フン……」
 
 鼻を鳴らした後、しばらくして来里人は話し始めた。
 
「かつて、日本のとある場所、とある休日。そこでイベントがあった」
 シリウスは黙って傾聴の姿勢に入った。
「とある企業による新作イコンの展示会……それを訪れたごく普通の、とある来場客の話だ」
「……」
「その来場客の一人……結城来里人という少年は幼馴染の少女とともにそれを訪れた。「イコンオタクとこんなデートなんて色気がねえな」なんて、その少女をからかいながら……な。その少年はまさかその後、誰より大切なその少女を……もうからかえないとは、思いもしなかった」
 
 沈黙がその場を支配する。
 それを破ったのは意外な人物だった。
 
「来里人くんだけじゃありません……」
「深行、もう傷はいいのか?」
 咄嗟に振り返った来里人に続き、シリウスがゆっくりと首を巡らす。
 その先では、彩羽と結和に助け起こされたコンコルドクリップの少女――深行が口を開いていた。
「同じ日、私もあの会場にいました。イコンが大好きだったお姉ちゃんと一緒に。そして、あの事件が起きたんです」
 彩羽と一緒に少女を助け起こすのに加わりながら、来里人は告げる。
「地獄絵図となった会場で、ようやくあの機体が去っていった後……かろうじて俺達は生き残った」
 一拍の間を置く来里人。当時のことを思い出しているのだろう。
 しばしの時が経った後、彼は告げた。
 
「……そして俺達は、スミスと名乗る男に出会った――」