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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 2024年の年の瀬、大掃除で忙しいシャンバラ教導団本部施設、団長執務室。

「今年も埃一つ塵一つ残さず掃除するよ!!」
 掃除道具一式を手にルカルカ・ルー(るかるか・るー)は装飾品はないが上質の調度品と重要書類が潜む室内を見渡した。以前も掃除したが今回も担当となったようだ。
「……気合いが入っているな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が半端無いルカルカの気合いの入れようにツッコミを入れると
「そりゃ、団長室の掃除だよ!! 団長が来年も気持ち良くお仕事が出来るように掃除するのが今日の……いや今年最後のルカ達の重要な任務だよ! これは団長の部下としてしなければならない使命!!」
 ルカルカは拳を作り並ならぬ熱意が込められた声で本日がいかに重要なのかを訴える。
「……そうだな。それにしても……」
 ダリルはルカルカの訴えに多少の苦笑いを浮かべつつ部屋を見回してから
「さすが、団長、目立った汚れがない。普段は清掃員がしているだろうとはいえ、気を遣われているのだな」
 感嘆した。重要な書類が所蔵している事や鋭峰の性格もあってか乱れはどこにもなく調度品や書類や書物はあるべき場所にきっちりと収まっていた。
「そりゃ、団長だから当たり前でしょ!」
 ルカルカは当然と言わんばかりに言ってから掃除道具を装備するなり任務を開始した。
「まぁな」
 ダリルもルカルカに遅れて掃除を始めた。ちなみに教官をするルカルカと医師をするダリルのデスク周りの掃除はすでに終了している。

 分担しての掃除中。
「団長が仕事から戻って来る前に掃除を完了させるよ!!」
 ルカルカは自分のデスク周りの掃除よりも気合いの入った様子で掃除をしていた。普通人が気にも留めない場所など隅々まで手を伸ばす。
「言われなくともだ」
 ダリルもルカルカと同じく自分のデスク周りよりも丁寧で気遣う気も多い。
 そして黙々と掃除をするが、それは長くは続かず、お喋りが混じる。だからと言って掃除の手は抜かないが。
「……今年は大変な事もあったけど、こうして平和に年の瀬を迎える事が出来るなんて……幸せだよね」
 ルカルカは掃除をしなが元気に団長室を掃除出来るこの瞬間をしみじみと愛おしく感じていた。鋭峰達と共に戦った決戦を乗り越える事が出来なかったらささやかなこのひとときもなかったのかもしれないのだ。
「そうだな。下手をしたら年の瀬が来ないどころの話ではなかったからな」
 ダリルも回顧して息を吐く。
「……団長、大切にしてくれてるんだ。嬉しいなぁ」
ルカルカは机上にある自分が贈ったペーパーウェイトクロックに嬉しい顔になりながら丁寧に綺麗にしていく。
「……今年が終わり……新たな一年が始まるのか」
 ダリルはふと何かを思い出した顔になった。
「そうだけど、どうかした? 何か忘れている事でもある?」
 ルカルカが小首を傾げ訊ねると
「イルミンスールで書いただろ。一年後の未来の自分に宛てた手紙……俺はデータをパソコンに転送しタイマーにしたが」
 ダリルはイルミンスールで開催された未来の自分に向けた手紙書きの事を口にした。
「そう言えばそうだね。一年後ならこの先のいつかに来るんだよね。楽しみだね♪」
 思い出したルカルカはふふと楽しそうな笑顔に。
 掃除は順調に進み
「あともう少しだね」
「あぁ」
 ルカルカとダリルが熱心に休み無く掃除をしたおかげであと少しまで進めた所で団長室の扉が開き
「団長、参謀長!」
 ルカルカが振り向いた先に金 鋭峰(じん・るいふぉん)羅 英照(ろー・いんざお)が立っていた。
「団長達は今年のお仕事はもう終わりましたか?」
 ルカルカは笑顔で尊敬する上司達を迎えた。
「いや、一区切りがついただけだ……今日中には終わる予定ではあるが」
 鋭峰は軽く息を吐きつつ答えた。年の瀬もあってか仕事量は多くつけたのは決着ではなく一区切りだけ。今日中に片付ける予定のようだが。
 ともかく鋭峰は一区切りつき大掃除の案配を見に戻り部屋を見回してから
「……すまないな……助かる」
 鋭峰は掃除をするルカルカ達を労った。自分の部屋を掃除させている事に関してを含みながら。
「いえいえ、毎年のことですからね、もう慣れたもんです」
 ルカルカはきゃらきゃらと笑いながら答えつつ掃除を続ける。
 その様子に
「そうか。何か手伝える事があれば手伝いたいが……」
 いてもたってもいられず鋭峰は手伝おうとする。何せ自分の部屋なので。
 しかし
「あと少しで終わりますので、ご心配は無用です」
 ダリルがやんわりと断った。掃除という雑用は部下の仕事であり上司にさせるものではないと。
「……そうか」
「すっかり手持ち無沙汰だな」
 鋭峰と英照は軽く苦めの笑いを浮かべながらルカルカ達の掃除ぶりを見ていた。
 しかし
「……ジン?」
 おもむろに掃除を手伝い始めた鋭峰に訊ねた英照。
「ただ見ているのはどうにもな……何よりこの部屋は我らが主に利用する場所」
 鋭峰は特に取り上げる事でもないというよに作業を続ける。

 一方。
「……(まさか団長と掃除をする事になるなんて、ここは頑張らなきゃ!)」
「……(……戻って来る前に終わらせるはずだったが……)」
 ルカルカとダリルはますますの気合いを入れて作業を続けた。掃除は随分終わりかけだったので部屋の主である鋭峰達が加わった事で予定の時間よりも早く終わった。

 掃除終了後。
「今年の汚れは今年のうちに、で。ピカピカになった執務室は気持ち良いですね」
 ルカルカは掃除を終え綺麗になった部屋を見渡しながら言った。
「そうだな。これで来年を気持ちよく迎える事が出来る」
 鋭峰はほのかに口元に笑みを浮かべた。
「団長も参謀長もお疲れ様です。少しだけ一息入れませんか?」
 ルカルカが一休みを提案した。掃除も仕事も一段落したので甘い物でも食べようと。
「そうするか。予定が残っているとはいえ、焦る必要は無いからな」
「むしろ一息入れた方が効率が上がる」
 ルカルカの申し出に取り立てて急ぐ必要が無い鋭峰と英照は申し出を受けた。
「では、俺が茶を淹れましょう」
 料理が得意なダリルが真っ先に立ち上がり皆の分の茶を淹れ、
「茶菓子もどうぞ」
 茶菓子として鋭峰の好物である草加煎餅の入った菓子入れを沿えた。
 それを見るや
「……ほう」
 鋭峰はダリルの心遣いを軽く笑んでから好物の草加煎餅を手に取り食べ
「……」
 英照は茶を飲み和む。
 ここで
「今年も大変な1年でしたが無事に終えられて嬉しいです。来年も宜しくお願いします」
 ルカルカが手に持っていた飲み物を置き、畏まると
「いや、その言葉を言うべきは私の方だ。皆のおかげで今年を無事に終える事が出来たのだからな」
 ルカルカの言葉をありがたくもやんわりと退け鋭峰はこの一年で起きた出来事、決戦を含みながら振り返りつつ言った。感謝するべきは頼りになる部下を持った自分だと。
 ここで
「……」
 英照は何やら囲碁盤を出してきたダリルに気付いた。
「休憩がてら囲碁でもしませんか? 戦術的な思考を養うのにも良いですし……お二人が嗜んでいらっしゃればですが」
 ただ茶と菓子を楽しむだけではつまらないだろうとダリルは囲碁に誘うと同時に嗜んでいるかどうか確認を入れる。
「……囲碁か。私もジンも嗜んでいる」
 英照がちろりと鋭峰を一瞥してから答えた。
「やっぱり、お二人は強いですか?」
 ルカルカが興味から訊ねると
「……強さか、ならば彼の方が強いな」
「……私はともかくジンは強い」
 鋭峰と英照は自分の強さは棚に置き相手の強さについて話すのだった。
 つまり
「さすがです!!」
 ルカルカが納得するように両方共強いという事である。実はただ強いわけではなく超強かったり。
「それは楽しみです。何せルカ相手だと置石せねばなりませんので」
 よい勝負が出来そうだと知ってダリルはやる前から満足し、ちろりとルカルカを見た。
「もぅ、団長達の前でそういう事言わないでよ。ルカだって頑張ってるのに」
 ルカルカはむぅと頬を膨らませて反論するがダリルには取り上げては貰えず
「では、参謀長、一勝負を」
 ダリルは英照を勝負に誘った。英照には鋭峰、ダリルにはルカルカと互いに支えるべき唯一の存在を持つ者として同志と思っているというのもあったりで最初に誘ったのだろう。
「団長、お煎餅食べつつ観戦しましょ(ダリルと参謀長の囲碁対決か。これは勝敗の予想が付かないなあ)」
 見学となったルカルカは同じく見学の鋭峰に菓子を勧めた。胸中では勝利者の予想が付かず見応えのある勝負にウキウキしていた。
「あぁ、頂こう」
 鋭峰は煎餅を取り、茶を飲みつつ見学を。

 勝負中。
「……ほう、なかなか」
 鋭峰は勝負の行方を見守り
「参謀長、強いですね。ダリル、ガンバ!」
 ルカルカは参謀長の強さに驚きつつもダリルの応援もする。

 一方。
「……(これは強いな)」
 頭脳戦はおまかせあれのダリルは語を差しながら勝負し甲斐があり過ぎる相手に胸中で苦笑していた。
「……(さて、相手がどう来るのか)」
 英照はあらゆる策を数多考えながら打つ。
 ダリルと英照は互いに最高の一手を打ち続ける。盤上が白と黒に埋め尽くされ置き場所が次第に少なくなり割と長く続いた勝負は
「……降参だ。さすがだ」
 ダリルの負けに終わった。
「いや、なかなかの勝負だった」
 英照は勝利者でありながら驕る様子はなくただよい勝負が出来た事に満足するばかり。
「わぁ、参謀長、超強い! 今度はルカとやります? 団長?」
 ルカルカは英照の勝利に興奮気味に手を叩いた後、鋭峰を勝負に誘う。
 鋭峰が何か言う前に
「……ルカ、何無謀な事を言っている」
 ルカルカの強さを知るダリルが鋭いツッコミを入れた。
「そう言っても見学してるのもつまんないしー」
 ルカルカはお菓子を頬張りながらぶぅたれた。
 その時、来客を告げるノック音。
「……開いている」
 鋭峰が返答すると扉はすぐに開き
「よぉ! 人に聞いたらここにいるって聞いて来た!」
「年の瀬の挨拶回り! お菓子もあるぞ」
 ロズを引き連れたヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)が現れた。年の瀬だというのに元気である。
「……慌ただしい中、悪いな。止めても聞かなくてな」
 ロズだけが恐縮するばかり。
「……ロズ、大変だな」
 同じ作られた存在として親しみを抱くダリルは双子に振り回され中のロズに同情した。
「ヒスミ、キスミ、暇だったら少し囲碁してく? というか囲碁出来る? 団長、参謀長いいですか?(二人共、物作りとかするから頭の巡りはいいはずだから結構楽しくなるかも)」
 顔見知りの登場にテンションが高くなるルカルカは双子を誘うも鋭峰達に許可を貰っていない事に気付いて慌てて訊ねた。
「……あぁ、私は構わないが」
「知らない顔でもないからな」
 鋭峰と英照は双子とは何度か顔を合わせているため躊躇わず快諾した。
 それから
「で、どう?」
 ルカルカが改めて先の質問の答えを訊ねると
「多少なら出来るぞ」
「勝負するか? そっちの二人、何かすげぇ強そうなんだけど」
 双子は答えるなり鋭峰達の強さに興味津々。
「強いよー、参謀長、ダリルを倒したんだから! 団長も強いんだから!!」
 ルカルカが胸を張って二人に代わって強さを告げる。
「……本当か。だったら、やってみてーな。なぁ、どうだ?」
 ヒスミは明らかに強者のオーラを放つ鋭峰に目を止め、せっつくように勝負に誘うと
「……よかろう」
 断る理由のない鋭峰はあっさり受けた。

「で、お前は強いのか」
 キスミはルカルカの強さが知りたく訊ねると
「……ルカは……ダリルほどじゃないかなぁ」
 置き石が必要なルカルカは言葉を濁して誤魔化すが、
「ほほう、オレと勝負だ!!」
 キスミはルカルカのおかしな様子にニヤリとしたかと思いきや勝負を申し込む。
「えっ、ルカと!? 分かった。やるよ」
 驚くもルカルカは誘われたからにはと挑戦を受けた。
「……ヒスミが終わってからな」
 キスミはニヤニヤとすでに対戦を始めているヒスミと鋭峰の方に目を向けた。
 その鋭峰対ヒスミはというと
「くそぉ、参ったよ!!」
 あっと間にヒスミが負けを宣言し
「……超強いじゃんか。何だよ、これ全然楽しめなかったぞ!!」
 鋭峰のあまりの強さにわめいた。
「……そうか。突拍子も無い手にこちらはなかなか楽しめたが」
 鋭峰は余裕の様子であった。発明をする者としての発想か割と予想外の手を打つも鋭峰の強さは半端無かった。

 次はルカルカ対キスミ。
「……置き石かぁ」
 キスミはニヤニヤと盤上に置かれた石を見ていた。
「舐めてると火傷するからね」
 ルカルカは言うなり凛々しい顔になった。
 そしてルカルカとキスミは勝負をした。

「ロズ、囲碁はどうだ?」
 ダリルが勝負を眺めているロズに聞いた。
「……した事はない。娯楽を楽しむ暇がなかったからな」
 ロズはこれまで自分が起点となった事件の対処で解決を迎える時まで楽しむ暇が無かったのだ。
「……そうか。ならばこれから娯楽を楽しんで行ったらいい。お前の事だから自分がした事への罪悪感は今も消えていないだろうが、もうお前に迫る危機は去ったのだから」
 ロズの騒ぎに関わり彼が新しい道を歩む手伝いをしたダリルは僅かに口元に笑みを浮かべつつ励まし気遣った。
「……お見通しなんだな。しかしもう、去ったんだな……こんなに平和な時が来るとはあの時は思いもしなかった」
 ロズはダリルに見通されている事に僅かに苦笑してからしんみりと訪れた平和な時間を噛み締めていた。
「そうか。俺が打ち方を教えるから打ってみないか?」
「……あぁ、頼む」
 ダリルはまずはと囲碁に誘うとロズは即受けた。
 そして
「参謀長、申し訳ありませんが、ロズの対戦相手をしてくれませんか?」
 ダリルは英照に声をかけた。何せダリルはロズの指導に回るため対戦相手になる者が別に必要だから。
「私でよければ」
 英照は快く引き受けた。ロズはダリルの指導を受けながら碁を打ち、囲碁を理解した。
 勝負自体は英照の勝ちだったが
「……囲碁とはなかなか面白いものだな。付き合わせてしまい申し訳ない」
 囲碁の面白さを知ったロズはダリルと英照に礼を言った。自分のせいで二人の時間を割かせてしまったと。
「いや、気にするな。楽しめたのならそれでいい」
「付き合わされたとは思っていないから謝る必要はない」
 ダリルと英照は何でもない事のように言った。
 この後、双子が持参したお菓子を食べたり囲碁をしたりとひとしきり楽しんだ後、双子達は他の所に年の瀬回りをすると言って出て行った。

 双子達が去ってから少しの間、囲碁をしたり茶やお菓子でまったりと時間も忘れて楽しく過ごしたが、もうそろそろ残りの仕事を片付けないといけない時間が近づいた所で
「ダリル、四人で出来る遊びか何か持って来てない?」
 ルカルカがダリルに訊ねた。折角四人集まっているので今年最後となる四人参加のゲームをしたいと。囲碁は二人対戦なので。
「それならば麻雀セットがある」
 と、言ってダリルは麻雀セットを出した。
「さすが、ダリル。という事で団長、参謀長、最後に全員で勝負しましょう!」
 ルカルカが嬉々として麻雀に誘うと
「……今年最後の勝負か……あぁ、構わない」
 鋭峰は茶を置き、僅かに不敵な笑みを浮かべた。
「……今年最後の勝負、悪くない」
 英照も乗り
「では、勝負納めと行きますか」
 ダリルの言葉を合図に今年最後の勝負が始まった。