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そして、蒼空のフロンティアへ

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タシガン空峡へ



 タシガン空峡の雲海の中を、ラグナロクがゆっくりと進んでいました。
 操船しているのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)ではなく、精鋭のクルーたちです。手慣れてはいますが、雲海に潜む暗礁などを警戒して、ゆっくりと進んでいます。ダリル・ガイザックであれば、最適なルートを即座にとって最短時間で進むのでしょうが、今日は急ぐ旅ではありません。むしろ、雲海のクルーズも含めての、のんびりとした慰安旅行でした。
 目的地は、薔薇の学舎が運営しているリゾート施設、「雅」です。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のパートナーたちの大半は、ラグナロクの甲板にビーチチェアを引っ張り出して、のんびりと寝転んでいます。
 一人元気なのは、ルカルカ・ルーと共に艦載機であるイコンのレイに乗っている夏侯 淵(かこう・えん)です。
 ダリル・ガイザックがラグナロクを得たため、夏侯淵は、レイのメインパイロットとなりました。とはいえ、まだまだ手足のようにイコンを動かせるというわけではありませんので、こうして暇なときにはルカルカ・ルーに手伝ってもらって、慣熟飛行訓練をしているというわけです。別名、ただの遊びとも言いますが。
「おーい、ただ飛べるだけではダメだぜー」
 ゆっくりと進むラグナロクの艦橋の周りをグルグルと飛び回るレイを見て、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が囃したてました。
『なにー、見てろよ!』
 外部集音装置でピンポイントにその言葉を拾いあげた夏侯淵が、外部スピーカーで律儀に言い返します。続いて、夏侯淵は、レイでアクロバット飛行を始めました。
「うーん、引き起こしが0.3秒遅いな。ルカのサポートに頼りすぎだ」
 のんびりしているようでちゃんとレイの機動をトレースしたダリル・ガイザックが、アドバイスを送ります。
『こ、こうか!?』
 ひとしきり夏侯淵がイコンで遊んでいる間に、ブリッジを見学していたコード・イレブンナインルカ・アコーディングニケ・グラウコーピスが甲板にやってきました。
 全員で、ニケ・グラウコーピスの作ったお弁当のバスケットをかかえ持っています。
 雅のある浮遊島が見えてきたので、ラグナロクはほとんど停止していました。
「おっ、昼飯か?」
 カルキノス・シュトロエンデが身を起こしました。
「ええ、みんなで食べましょ」
 そう言うと、ニケ・グラウコーピスが簡易テーブルを広げてもらって、作ってきたお弁当を広げ始めました。
「俺の分はー?」
 慌ててイコンを甲板に着艦させた夏侯淵が、駆けて戻ってきます。
 その後ろからは、ちょっと苦笑しながらルカルカ・ルーが歩いてきました。
「ルカー、後で私もイコンに乗せてよー」
 ルカ・アコーディングが、ルカルカ・ルーに言いました。
「いいわよ。淵は少し休まないとね」
「俺は食べてるから」
 答えつつも、夏侯淵はすでにニケ・グラウコーピスのお弁当にかぶりついていました。
「どうだ、一局」
 コード・イレブンナインが、チェス盤を軽く掲げてダリル・ガイザックを誘いました。
「ほう、悪くないな」
「今日こそ、お前から勝利をもぎ取ってやる」
「それはどうかな」
 サンドイッチをつまみつつ、二人はチェスを指し始めます。
 その周りでは、一升瓶をかかえたカルキノス・シュトロエンデが、目についた乗組員を捕まえては誰彼かまわず酒を飲ませて回っていました。
 みんな思い思いに、一緒の時間を過ごしていきます。
「これは、到着は少し遅れそうだな」
 目の前にある雅を見ながら、ダリル・ガイザックがルカルカ・ルーに言いました。
「んー、連絡はしておくね。みんな一緒にチェックインする方がいいでしょう。だって、家族なんだから」
 そう答えると、ルカルカ・ルーは甲板で楽しそうにはしゃいでいるパートナーたちを見回しました。