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「はあ、うまくいかないものねえ。もう、今度は手応えあったと思ったんだけどなあ」
 葦原島のお茶処で、ソフィア・ギルマン(そふぃあ・ぎるまん)が、手に持った就職情報誌でバンバンと机を叩きながら言いました。
「まあ、落ちてしまったものは仕方がない。何か、次の方法を考えるべきだ」
 淡々と、ハリー・ヴァンス(はりー・う゛ぁんす)が言いました。
 とは言っても、これでもう三社目です。焦るなと言う方が無理でした。
 対照的に、ハリー・ヴァンスの方は、早々と通信事業の会社に就職が内定してしまっています。それもまた、ソフィア・ギルマンの焦りに拍車をかけてもいました。
「とりあえずここは奢ろう」
「ふふ、ありがと。でも御飯は割り勘でいいわよ。あなたもバイト代まだでしょ」
 慰めるようなハリー・ヴァンスに、ソフィア・ギルマンが言いました。
「それはそうと、一つ相談がある。俺にとつきあってくれないか」
「いいわよ。それで、どこに?」
 ハリー・ヴァンスの言葉に、ソフィア・ギルマンが即答しました。
「でも、あんまり遠くは嫌よ。もう夕方なんだから」
「いや、そういう意味ではない」
「え? 違うの?」
 どこが違うのかと、ソフィア・ギルマンがキョトンとした顔になります。
「どこかに行くという話ではなく、その、交際してほしい……という意味だ」
「へっ? 交際!?」
 キョトンとした顔で目を見開いたまま、ソフィア・ギルマンがフリーズしました。彼女としては、あまりにもの予想外の超展開です。
「バ、バカじゃないの! なんでアタシがアンタとつきあわなきゃいけないのよ。そんなこと、考えたことなかったし……」
「だったら、今、考えてくれ」
 真剣な顔で、ハリー・ヴァンスが言いました。
「今考えろって言ったって、強引だし、ワケワカンナイし……。知らないっ!」
 答えを出せと言われても分からないとばかりに、ソフィア・ギルマンがハリー・ヴァンスをバシバシと叩きまくりました。
「叩き合いじゃなくて、おつきあいをしてくれって話だ!」
 もう、叩くことが主体となってバシバシしてくるソフィア・ギルマンに、ハリー・ヴァンスが必死に言いました。
「いて、いててて……。ちょ、やめ、マジ痛い!」
 必死に止めようとしますが、ほとんどソフィア・ギルマンのなすがままです。
「と、とにかくちゃんと考えてみてくれ」
 殴られ続けながら、ハリー・ヴァンスが懇願しました。
「いいわよ……」
「え? 何? もっと大きく言ってくれないと聞こえな…」
「だからっ! 分かったわよって言ってんの! つきあってあげるって言ってんのよ!」
 ハリー・ヴァンスの耳をつまみあげると、ソフィア・ギルマンが、あらん限りの大声で叫びました。
 瞬間、お茶処の中の空気が凍りつき、お客さんや店員の視線が二人に集中します。
 いたたまれなくなって、二人はそそくさと会計をすませてお茶処を後にしました。
「どこでもつれてきなさいよ!」
 ソフィア・ギルマンが、小声でハリー・ヴァンスに叫びました。
 いや、それでは誘拐みたいです。
「ほらっ、最初のデートはどこよ。ちゃんとエスコートしなさいよね。ああっ、もう、じれったい!」
 そう言うと、ソフィア・ギルマンがハリー・ヴァンスを引きずって歩き始めました。
 なんでこうなったと思いつつも、ちょっと嬉しいハリー・ヴァンスでした。