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リアクション
およそ15年後――2039年頃
およそ十五年後、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は四十歳を迎えた。
結婚はしていない。が、十五年来の恋人がいた。
そしてシャンバラ教導団で情報将校として順調にキャリアを重ね、多忙な日々を送っていた。
(直接的に殺し合わない分、水面下での抗争が激しい情報戦……)
神経に疲れを感じて、こめかみを抑える。その姿は、ゆかりの見た目は二十七、八歳と若々しかった。
しかし……最近こんなことが増えた。日々に疲れを感じ始めた。仕事に遣り甲斐ばかりを感じなくなったせいかもしれない。
そんなゆかりの元に、ある日、百合園女学院からお茶会の招待状が届いた。
(気分転換に参加してみるのも悪くないわね)
丁度お茶会の日は非番と重なっていた。
そうして、ゆかりは百合園女学院の門を久々にくぐったのである。
「わぁ、変わってないねー」
呑気な声をあげたのは、ゆかりのパートナーにして副官的立場のマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)だった。
彼女も十五年経って三十四歳になっていた。勿論種族が魔女なのだから、ゆかりの齢を重ねるとは意味が違っている。見た目は十七歳くらいだろうか、かつての中学生から高校生に「ランクアップ!」していた。お子様体型がちっとも変わらないのがマリエッタは少々不満ではあったが。
マリエッタが招待状片手に、余所行きのワンピースの裾を揺らしながらゆかりの先を行くと、百合園の制服を着た――おそらくスタッフであろう――女生徒が見合った席を案内しようと話しかけてきた。
「失礼ですが、どちらの学校の学生さんでしょうか?」
「違うわよ、もう学生じゃないのよ。教導団の……ねぇカーリー、カーリーが話して」
「はいはい」
マリエッタはゆかりに説明を譲って(押し付けて?)内心溜息をつく。
さすがに外見へのコンプレックスは消えたけど、それでも時折は微妙な気持ちになる。
しかし彼女は何気なく会場を見渡して……きらりん、と瞳を光らせた。
「……ね、カーリー。席、あっちにしようよ」
「え? ええ、いいわよ?」
「じゃあ先に行ってるね!」
今回はあまり人がいないのか、テラスのあるさほど広くない会場のその隅の席に、久しぶりに見つけた守護天使の姿。
十五年ぶりではあるが、やはり彼も種族のせいかまだまだ青年期といったところだ。未熟さは、ちょっとは消えたかも?
今回は我慢できるだろうか、とマリエッタが思ったのは彼に近づくまでの間のことだった。
「久しぶりね、堕天使さん」
「ま……マリエッタさん!? 何でこんなところに!?」
声を聞けば我慢できなくなってしまう。
「それはこっちのセリフよ」
「あといい加減その呼び方止めてください」
「何、気に入らないの? じゃあ凶悪な殺雪だるま犯とでも呼べばいいのかしら?」
天敵の登場に驚愕する守護天使を早速弄り始めるマリエッタ。
「も、もっとそれよりいい名前があるじゃないですか!
僕はあの『パラミタ・オールスターズ・コレクション』で何か凄い効果にしてもらっていてですね、一部の方に重宝していただいてるんですよ!
そうだ、それに因んで今日から僕は『治癒の守護天使』……とか!」
「見切れてたじゃないの」
そんな彼女の後を、ゆかりはゆっくりと歩きながら追いながら、日々を思う。
「もう十五年か……あっという間よね」
二人が騒がしいのを横目に、案内された守護天使と同じテーブルに着き、美味しいお茶をのんびりと頂く。
(花咲く清楚な乙女たちに出迎えられて、案内されたテーブルでのんびりとお茶を飲む。ただそれだけのことだけど、それがささくれ立った心に潤いをもたらして、ささくれて傷だらけになった心をクリアなものにしてくれる。こんな瞬間は大金をたくさん積んでも決して買えるものではない)
マリエッタも守護天使と会えて、楽しそうに口喧嘩をしている。これも久しぶりの光景だ。
(シャンバラに渡ってからの20年間、本当に色んなことがあった。いい思い出だけでなく、思い出したくもないこともたくさんある)
――でも、今この時点で評価を下すのはやめておこう。
人生は死ぬまで未完成、だと思うので。