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我を受け入れ、我を超えよ

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我を受け入れ、我を超えよ

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 順番待ちをしている人数も結構減った頃。
 セルマ・アリス(せるま・ありす)ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)がそろそろ呼ばれる番になってきた。

「ミリィは何でそのぬいぐるみ持ってきたの?」

 ミリィは膝にくたびれたうさぎのぬいぐるみを置いていたのだが、セルマはそれが何のために持って来たのかが分からなかった。

「今回のカリキュラムに使えるかなって思って持って来たの」
「ぬいぐるみなら、もっと綺麗なやつがあったんじゃ」
「ううん。これじゃないと意味が無いの(地球でルーマと初めて会った時の事も覚えてなかったんだよね……)」
「そういうもんか。(忘れている記憶と関係あるのか?)」

 悲しそうな目をするが、それ以上言う事はないミリィ。
 セルマとミリィの名前が呼ばれ、部屋へ入る。

 装置が起動され、現れたセルマはミリィが持って来たぬいぐるみと同じ物を持っていた。

「そのぬいぐるみは何? 俺の弱さって何だ?」
『酷いね……これはお前が両親に貰った愛情の証だったのに……。まあ、これを捨てたのは他でも無い父親だったわけだけど。
要約するとお前は愛されてなかった。それを信じたくなくて最初にして唯一貰った愛情の記憶まで捨てちゃった』
「ああ……何だそれ……」
『しかも、そこにいる子との記憶もな』

 現れたセルマはミリィをすまなそうな顔をする。

「ミリィとの記憶?」
『それも捨てちゃったんだっけ。ミリィは捨てられたぬいぐるみを探す時に出会ってたんだよ』
「そうなのか?」
「う、うん……ルーマ、覚えてない?」

 くたびれたうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめるミリィを見るセルマ。

「あ……」

 突如に甦る地球にいた頃の自分。
 確かに両親からこのうさぎのぬいぐるみを貰っていた。
 大事にいつまでも持っていたのに、気付いた時にはそのぬいぐるみがなくなっていた。
 慌てて探し回っていた時、ミリィと出会い一緒に探してくれたのだ。

「ごめん、契約する時が初対面なんて言って……」
「思い出したの!?」
「う、うん」
「ルーマ!!」

 感極まって抱きつくミリィ。
 抱きついてきたミリィの頭を優しく撫でるセルマ。

 思い出した事でいろいろな事に気が付く。

   現実に起こる事象をどう受け止めるかは自分次第であること。
   自分で自分の状況を客観視できなかったこと。
   今は孤独感なんかに押し潰されていた当時が恥ずかしいこと。
   だが、それだけの事があの時は重たくて仕方なかったんだということ。

 そう言った事に。

「そんなこと思ってたんだな俺は……。お前は俺だ。それならこうも言える。お前の思っている事は俺の思い込みだったって」
『思い込み、だと?』
「そうだ。もう分かってるはずだ。今の俺には親の愛情だけじゃないって事。まだ俺自身が分かってないなら何度でも言う。俺には今の家族も仲間も居るから、もう孤独感に苛まれる事は無いんだよ」

 ぎゅっとミリィを抱きしめそう言うセルマ。
 セルマの頬は恥ずかしさから赤くなっている。

 嬉しそうに抱きつくミリィから視線を外すと、もう一人のセルマは消えていた。