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リアクション
相対する自分
「なんでついてくるんだ、キミは!」
受講生たちの待合室でそう叫ぶサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)。
彼女は一人でこのカリキュラムを受けようと思っていたのだが、それに気付いたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)によって共に同じ部屋で受けることになってしまっていた。
「そう言うなって、サビク……。来るな、っつってもついていくからな」
「くそ! やっぱりこの契約は失敗だった!」
頭をかきむしって後悔を露わにしているサビクの向こう側にいた、アイン・オルタナティブ(あいん・おるたなてぃぶ)と共にいる衣草 椋(きぬぐさ・りょう)とイレーナ・オルタナティブ(いれーな・おるたなてぃぶ)がシリウスの目に留まる。
「カリキュラムを受けるっても……本当に俺にもう一人の自分が、弱さが現れたりするのか?」
「(一蓮托生、自分は椋について行くだけネ)」
ここにきて間もなく、未だに受け入れきれていない椋がこのカリキュラムを受けても仕方ないのではないかと思いつつ、何も言わないアイン。
「もうそろそろですよね。私、ここで待ってますんで」
イレーナは持って来た本を取り出し、本に浸ることで時間を潰すことにした。
「や、ちょっと協力してほしいんだが」
見るからに浮いて見える涼たちにそう声をかけるシリウス。
溶け込めないでいる椋にシリウスは、己のパートナーであるサビクがこのカリキュラムでなにかを捨ててしまうようなことを仕出かす前に手を貸してほしいと頼み込む。
「だが……こういったのはパートナーだけが一緒にいくものじゃないのか?」
「誰もパートナー以外が同じ部屋でカリキュラムを受けてはならないとは言ってないぞ。ちゃんと監修員にも確認を取っている」
それでも渋る椋になんとか頼み込む事で承諾を得るシリウス。
そうこうしているうちにシリウスたちの番がやって来た。
イレーナを待合室に残し、シリウスは椋とアインをつれて部屋へ入る。
「ち、変な仲間まで連れてこないでよ。……そうだ! 起動する前に部屋から追い出した方が良い。そうした方がいい!」
「嫌だね。こいつは一緒につれてく。それにもう起動が始まってる」
「くそが!」
シリウスが言う通り装置の起動が始まり、もうこの部屋から出る事はカリキュラム終了かレオンと梅琳が装置を停止させるまで出る事ができない。
空間が変わり、何も無い暗い空間に現れるもう一人のサビク。
表情はなにも浮かんでいない。
「……力は取り戻しつつあっても、ボクは以前より弱くなっている。……ボクは今のボクを殺さなければならない。平和な世界に、キミたちに甘んじている弱い心をだ!」
下げていたサビクの剣をすらりと抜き、死刑宣告の構えを取る。
「もう一人の『ボク』よ……お前とボクは相容れられない。ボクはお前を殺し、本当の自分を取り戻す!」
女王の剣を駆使し、元の暗殺者であった頃の自分を取り戻すと意気込みで殺しにかかるサビク。
「ボクに女王陛下から与えられた使命は……古王国の力で、内に仇なす裏切りものを討つことだ!」
サビクの戦いを茫然と見ている椋。
言われるがままにこの場に来たが、自分がどうこうできるレベルじゃないと立ちすくんでいる。
連れてきたシリウスも戦うサビクを見て、何が原因であのようになっているのか考えていた。
「シャムシエルを見逃した辺りからか? どっか思いつめて……」
シリウスも椋もそっちのけで元の暗殺者へ戻ろうと躍起になっているサビク。
だが、もう一人のサビクもただ殺されるのを待っている訳じゃない。
斬りかかって来る攻撃を避け続ける。
攻撃よりも防御、回避に念頭を置いているようだ。
「そういえば、そろそろオレたちの分身も出てくる頃だよな」
きょろきょろと視線を彷徨わせると、ふっと湧いてくるようにもう一人のシリウスが現れた。
椋はこの地にいる事そのものが受け入れられないのを受け入れているという、なんとも微妙な解決方法でもう一人の自分は現れなかった。
「オレはまぁ、予想着くけどさ。アイツも迷ってるってことかな……って、オレぇ!? いやそりゃ嬉しいけど女王と並べられるとさすがにひくっつーか、アイツの忠臣っぷりは何度も見てきたしさ!?」
予想は付いていても現れた服装に突っ込みを入れなくては収まりが付かない。
こてこての装飾品をつけ、見るからに富豪夫人。いや、女王様の恰好をしている。
「……なぁ、もう一人のオレよ……この場合、意見は一緒だよな? 力貸せ。サビクを迷いから助けたい。椋も手を貸してくれ」
『もちろん。さすが、言わなくても分かってるね』
「わ、分かった。でも、俺に出来る事なんてたかが知れてるぞ」
「『それでも構わない。オレはサビクを助けたいんだ』」
一文字も変わることなく声を重ねて椋に頼む二人のシリウス。
「本当に微々たるもんだぞ……」
「それでも、力が欲しいんだ」
『サビクを助けるには少しでも多くの力が必要なんだ』
真剣な、真っ直ぐな瞳で訴えかけてくるシリウスたちに、椋は微力ながらも手伝う覚悟を決めた。
そのやり取りは聴こえなくても、自分と敵対することは感じる事が出来たサビクは剣をシリウスたちに向ける。
「……邪魔をするというなら、キミともこれまでだ。シリウス!!」
「良いだろう、オレはオレの勝手でお前を止める!」
『椋、あなたはあの攻撃を受けていた方のサビクを守って』
「了解」
『大丈夫。オレも傍にいる』
サビクの剣を受け止め、シリウスは女王のシリウスと涼をもう一人のサビクの下へ行かせることに成功する。
もう一人の自分に攻撃をするにはシリウスを退け、かつ女王シリウスと椋を倒さねばならない。
サビクは狙いをシリウスに絞った。
エクスプレス・ザ・ワールドで描いた絵が紙から躍り出てサビクへ襲いかかる。
女王の剣でそれを斬るサビク。
背後を取った女王シリウスの攻撃は女王の楯・風の鎧で防ぐ。
「裏切りものを討つ……それが寵愛に応えるということだ! ……それを一時の私心でボクは迷った! 『女王の剣』に、そんな心はあってはいけないんだ!!」
「忠誠はアムリアナ女王に捧げてもいい! けど、この契約はオレたちのもんだ。勝手に切られてたまるかよ!」
熾烈な戦いの中、シリウスの叫びは鋭い刃となってサビクに突き刺さる。
「ボクは力を目的に契約したはずが呑まれかけている、そんな自分が許せなかった……!」
『王国に仇なす者を始末する冷酷な暗殺者だったのが、感情的を殺せなかったり、シリウスの目線を気にしてしまったり……それがいけないこと?』
今まで無言を貫いていたもう一人のサビクが呟くように言う。
『忠誠と契約は違くてもいいと思うよ』
「でも……」
『シリウスが言う通り、忠誠はアムリアナ女王に。契約はシリウスに。それでも良いんだよ?』
もう一人のサビクはサビク自身の隠していた想い。
迷いの中で出来あがったもう一人の自分。
その自分にこうまで言われて否定する事が出来なかった。
サビクは自分の剣を収める。
こうしてサビクの暴走を止めることに成功し、かつ椋自身も世界をちょっとだけ受け入れることができたのだった。
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