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リアクション
2023年8月末に、タシガン空峡のトワイライトベルト上に、突如赤黒い渦が出現した。
その渦は、ブラックホールのように、付近の物質を飲み込んでいく。
その頃から、若者が行方不明になる事件も増えていた。
9月に入ってから、その付近を通ったと思われるゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)と、百合園女学院生徒会執行部、執行部長の風見瑠奈(かざみ・るな)も行方不明となった。
百合園女学院では副部長で瑠奈の親友であるティリア・イリアーノが暫定的に指揮を執り、瑠奈の計画の押し進めと、彼女達の捜索を始めたのだった。
第1章 サーラ・マルデーラの見舞い
百合園女学院生徒会執行部、通称『白百合団』の団長の、風見瑠奈は、パートナーのサーラ・マルデーラと共に、寮で暮らしている。
瑠奈が行方不明になってから、サーラは部屋に引きこもっており、白百合団の集会にも顔を出していない。
副団長のティリア・イリアーノのパートナーで、サーラと親しくしているモニカ・フレッディが付き添っているようだが、彼女にも瑠奈に関しては何も語ってくれないということだった。
「看病が必要だというのなら、代わるよモニカ・フレディ」
瑠奈とサーラの部屋の前にて、瑠奈の友人で白百合団員のシスティ・タルベルトが厳しい口調で言う。
「うん、看病代わるよ! モニカさんも疲れてるでしょ?」
白百合団員の救護班員として活動しているネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、労りを籠めた声でそう言う……が、返事はない。
「出ない、か」
システィが携帯電話の終話ボタンを押す。
「電話にも出られないほど酷いっていうんなら、病院に連れて行くべきじゃない?」
「……すみません、医者に診てもらうほどじゃないんです。ただ、誰にも会いたくないというので」
しばらくして、モニカの声がインターフォン越しに響いた。
「けど、どうしても聞きたい事がある。入れてもらえないっていうんなら、強硬手段をとらせてもらうよ。……鍵は預かってきている」
「……」
多少苛立ちながら言うシスティを、共に訪れた桐生 円(きりゅう・まどか)は注意深く見ていた。
……少しして。
「分かりました。くれぐれも詰問はしないでください。かなり衰弱しているようですので」
「分かった」
システィがモニカに返事をした後、玄関のドアが開かれた。
「先輩、げんきー? じゃないよね」
と言いながら、円は持ってきた百合の花を、サーラに手渡した。
サーラはリビングのソファーに座っており、私服姿だった。
顔色が悪く、震えているように見えた。
リビングは瑠奈との共有スペースであり、瑠奈の持ち物も沢山おいてある。
2人の武器もこの部屋に置かれていた。
ティリアの話では、警戒させてしまったり、間違いが起こらないように、瑠奈は他校訪問時には武器を持っていかないそうだ。
「楽な格好した方がいいよ? 汗を拭いて、寝間着に着替えたらどうかな」
ネージュはサーラに近づいて、彼女のおでこに手を当てて、熱を確認し、スキルを用いてサーラの症状を知ろうとする。
「ご飯食べられてる?」
ネージュの問いかけに、サーラは首を縦に振る。
「喉の調子はどうかな? はい、あーん」
少し戸惑いながら、サーラは口をあけて、ネージュに喉を見せた。
ネージュは口の中、首に触れてリンパの状態を確認する。
「声は出るんだよね? いつ頃から不調なのー?」
「少し前、から。風邪引いたみたいで」
サーラは視線を合わせずに、弱弱しい声で答えた。
「風邪ね……で、団長にパートナー通信で連絡取れる?」
円の問いに、サーラは首を横に振った。
「原因とかわかった?」
その問いにも、サーラは首を横に振った。
「ならそれをどうして、報告しない。……団に」
システィは厳しい目でサーラを見る。
「も、うしわけありません」
弱い声で言いながら、サーラは震え始める。
「熱が上がってしまいます。質問なら私がお受けします。看病しながら尋ねてお返事しますから」
モニカがシスティを阻み、サーラを庇う。
「……っ」
システィはモニカを睨んで、手を伸ばした。
が、彼女を払う事はせず、しばらく考え込み。
「サーラ、合宿の日に瑠奈が持ち帰った『百合の指輪』を知ってる? 彼女がどこにしまったのか」
システィがサーラに尋ねた。
その問いに、サーラはびくっと震えた。
「わかりません。た、ただ、その指輪があれば……瑠奈を助けられる、かも」
絞り出すように、苦しそうにサーラはそう言った。
「指輪を譲って欲しいって、瑠奈に持ちかけた人がいるみたいなんです。私もサーラにその話を聞いていたところですが……。問い詰めても語れる状態じゃないみたいですし、もう少し時間をいただけませんか? 彼女が不調な原因は、パートナーの影響じゃないと思います」
つまり、風見瑠奈は無事ですよと、モニカはシスティに言う。
またしばらくなにやら考えた後、システィは口元に軽く笑みを浮かべた。
「……分かった。キミを通すよ。ただし、時々ここに顔を出させてもらう。瑠奈のことも、サーラの事も守り、助ける為にね」
システィがそう言うと、サーラはきつく目を閉じて僅かに首を縦に振った。
「あたしはもう少し残って、元気の出る料理作ってあげるね!」
ネージュはサーラに優しい目を向けると、寮の共同キッチンへと向かうことにした。
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