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リアクション
ドーバー海峡横断部の挑戦〜苦難の道〜
「けっこう……きついね」
正悟は、エミリアの小型飛空艇で3回目の休憩をとっていた。
当たり前のことだが、氷術をいつまでも出し続けるのだから、その消耗は避けることができない。
泳いで渡っても偉業といわれるドーバー海峡を走って渡ろうというのだから、それなりの苦労は覚悟していたつもりの正悟も、さすがに疲労を隠しきれなくなっていた。
「いや、でもやる。やるんだ」
休憩を終えた正悟は、立ち上がった。
ここからは、エミリアも氷術でサポートすることにした。
「さあ、用意された時間はぎりぎりなんだ。行こう」
「はぁ。まあ、生きて帰れる程度にね」
そして正悟は再び走り出した。
この日、ドーバー海峡で漁をしていた漁師数名が、海の上を走る者を見たと、警察に通報する騒ぎが起こったという。
シャンゼリゼを歩きましょう
シャンゼリゼ通りには、物欲を刺激するショップの数々と、食欲を刺激するレストランが建ち並んでいた。
等間隔で配置された街路樹が、通りをおしゃれに彩っている。
「あ〜! 気持ちいい街並みっ!」
満喫してます、と顔に書いてあるような笑顔で、師王 アスカ(しおう・あすか)が大きく深呼吸した。
ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)と蒼灯 鴉(そうひ・からす)、そしてオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)といった三人のパートナーも、物珍しそうに街並みを眺めている。
「レジちゃんは、フランス生まれだから、凱旋門もエッフェル塔も見慣れたものかな?」
「いえ……そうでもないです。地元だと、意外と観光地って行かないものなんです」
レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は、ふんわりと笑って答えた。
どの土地でもそうかもしれないが、地元民よりも観光客のほうが、その土地について詳しい場合がある。
レジーヌの場合も例に漏れず、フランスに住んでいた頃は、わざわざ外からの観光客で溢れている場所に行こうなんていう発想がなかったのである。
実際、彼らは凱旋門から散歩をスタートさせたのだが、最も興味深そうに凱旋門を見ていたのは、他ならぬレジーヌだった。
「さっすがシャンゼリゼ通り。通行人がほぼ全員オシャレだわ」
オルベールが行き交う人々を見て、感心している。
「でも、ベルがコーディネートしてくれた服、いいと思うよ」
アスカが、着ている服を指して言った。
今回の修学旅行に着てきているアスカたちの服は、地球っぽくオルベールがコーディネートしたものだった。
「んふふ……アスカかわいい♪」
オルベール自身も、その出来に満足している。
「エリーズちゃんも、コーディネートしてみたかったなー」
「わー嬉しい! 今度お願いっ!」
レジーヌのパートナーエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)は、嬉しそうにうなずいた。
オシャレが嫌いなわけがない。
「それにしても……おいしそうなもの、いっぱいだね」
レジーヌが建物や街並みを楽しんでいるのに対し、エリーズは食べ物中心にチェックしている。
「もう、エリーズ。ちょっとは建造物とか、文化的なものに興味を持ったらどうですか?」
「んー。あっ! あれは? あれ、文化的じゃない?」
エリーズは、ある店舗の看板を指さした。
「あれ?」
皆が首をかしげた。なんだか見覚えがある。
その看板には、青い耳なし猫型ロボットや、ピンクの髪の毛をした魔法少女、おだんご金髪セーラー服の女の子が描かれている。
「へー。日本のサブカルショップだって」
日本のサブカルチャー……アニメは、ヨーロッパで大人気である。
実はドイツに行った生徒たちも、アニメファンのドイツ人女性(ただし幽霊)に出会っているのだが、そんなことエリーズたちは知るよしもない。
「わ、すごい商品数! こんなに日本から入ってきてるんだ」
エリーズはお店を覗き込んだ。
「ほんとだ、すごい! このアンダーグラウンドな雰囲気がたまらない!」
ルーツもエリーズの横から店内を覗き込んだ。
店内はコミック、ぬいぐるみ、文具、ストラップなどに溢れ、一瞬、ここがシャンゼリゼ通りであるということを忘れさせた。
「ほらエリーズ、行きますよ。時間は限られてるし、師王さんたちも目的があるのですから」
そう言われてぷくっと頬を膨らませたエリーズに、ルーツは笑いながら素早く店内に入って、剣をかまえたかわいい猫のぬいぐるみをプレゼントしたのだった。
「それじゃ、ここから別行動だね」
凱旋門からシャンゼリゼ通りを直進し、コンコルド広場に来たところで、彼らは別行動をすることになった。
目的とする行き先が異なるのだ。
レジーヌは、セーヌ川を渡ってエッフェル塔へ。
アスカたちは、このまま直進してルーブル美術館を目指す。
「ありがとう。これ、大事にするから!」
エリーズは、さきほど日本アニメのショップでルーツに買ってもらったぬいぐるみを、ずっと大切に抱いていた。
「お互い、いい思い出をつくりましょう」
二組は、宿での再会を約束し、別々の方向に歩き始めた。
エッフェル塔の表情
二人になったレジーヌとエリーズは、エッフェル塔を目指した。
かなり離れた場所からでも、フィギュアのような大きさのエッフェル塔が確認できる。
一度は、世界で最も高い建物だったのだ。その大きさ、貫禄は、今でも充分感じることができる。
「近付いてきましたね」
レジーヌの声が弾んだ。
この日は晴天だったので、塔のてっぺんまでよく見える。
曇っていると、塔のてっぺんは隠れていて見えないのだ。またそれが風情があっていいという者も多いのだが。
「どうする? 上まで行くの?」
「いいえ。あえて下から見てみようと思います」
塔なのだから登るってもんだろうとエリーズは思ったが、まあレジーヌがそう言うならと従うことにした。
気が付くと、目の前に太い鉄骨と、それを支えるコンクリートがあった。
エッフェル塔の脚だ。
「立派なもんだね……」
エリーズは、遠くから見るエッフェル塔よりむしろ、目の前の太い脚に感動した。
遠くから見るエッフェル塔は、映像でも写真でもよく目にするが、このような細かい場所は、現地に来なくては見ることができない。
「さあ、こっちです」
二人は、エッフェル塔の真下までやって来た。
「塔なのに、どうして下に来るの?」
「ふふ。ここから上を見てごらん」
エリーズは、レジーヌに言われた通り、エッフェル塔の真下、ど真ん中から上を見上げた。
「う、うわあぁぁ!」
エリーズは思わず声を上げた。
「く、くらくらする!」
下から見上げるエッフェル塔。
それはまるで合わせ鏡のように規則的に連鎖し、迫ってくるような印象を与えた。
「これが、じっくり見たかったんです。フランスにいたころ、なぜこれを見ておかなかったのかと、後悔していたんですよ」
レジーヌも、エリーズの横に立って上を見上げた。
「建物って、見方によっていろいろな姿を持っているものなんです」
エリーズは圧倒され、ただただうなずくだけだった。
「……ふふ」
その後レジーヌは、エリーズの食欲を満たすべく、エッフェル塔のレストランに連れて行ったのだった。
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