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リアクション
アイシャ
アイシャを薔薇の学舎生徒のリア・レオニス(りあ・れおにす)とレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が訪ねた。
「あら、リア。珍しいわね」
アイシャは、案内されてきた彼を見て、少し意外そうだ。
「薔薇が西に共闘してくれたんで、堂々と名乗って面会を申請出来たな」
リアが感慨深げに言う。
「そうでなくても来たでしょうに」
レムテネルが小声でつっこんだ。
「そらそーだけど、制服で来れるかどうかは俺的には大きい」
リアはパートナーに返すと、改めてアイシャに、女王へのメッセージをもらいに来たのだと説明する。
レムテネルが持参してきたデジタルビデオカメラを、掲げて見せる。
「私がカメラマンをします」
「だからアイシャは、ジークリンデへの想いをカメラに向けて語ってくれればいい」
だがリアの言葉に、アイシャの表情は浮かない。
「私は、アムリアナ女王がジークリンデさんだった頃の事は知らないから……」
「いや、俺も個人的に知ってるわけじゃないけどさ。
……シャンバラが統一できたら、東西とか無くなるんだよな。
けど、その為に女性が犠牲になるのは、理解は出来ても納得しちゃダメだと思う」
「………………」
リアの言葉に、ただアイシャはうつむき、沈黙する。
ヒザの上でぎゅっと握り締められた両手が、小刻みに震えている。
リアは彼女がすぐにメッセージを出してくれると思っていただけに、戸惑っていた。しかし辛抱強く、アイシャの返事を待つ。
長い長い間、考えた後、ようやくアイシャは口を開いた。
「……その計画は、アムリアナ様の御意思を邪魔しない?」
リアとレムテネルは、使節団が何と言っていたか思い出そうとする。
「確か……国家神たる女王を救うことは不可能だが、女王と彼女を想う者の心なら救えるかもしれない、と。その為にメッセージがたくさんいるっていう話だったな」
アイシャはふたたび考えこみ、ようやく決心した。
「分かりました。それならメッセージをお送りします」
それからアイシャはレムテネルが持つ、カメラに視線を向ける。
「それで、その機械でどうやればアムリアナ様にメッセージを書けるの?」
リアたちは、ずっこけそうになる。
だがアイシャはシャンバラ生まれで、ごく最近までは地球人と特に触れ合う機会もなかった。地球産のテクノロジーに無知なのは当然だ。
リアとレムテネルは、実演もまじえてデジタルビデオカメラの働きを説明する。
二人の説明で、アイシャもなんとなくは機能を理解したようだ。
「では少し待ってくださいね。お化粧直しするから」
アイシャは急いで化粧を始める。リアは(ああ、女の子らしいな)と思った。
だがアイシャは頬紅を使い、不安と心配で青ざめた顔を少しでも元気に見えるようにしていたのだった。
アイシャの準備が済むと、レムテネルがカメラマンを務めて、メッセージの撮影が始まる。
アイシャはとつとつと、カメラに向けて想いを話していく。
「アムリアナ様、お加減がよろしくないとお聞きして、大変心配しております。
貴女のご意思と国家神の役割は私が責任を持って引き継ぎますので、どうぞ安らかになさってください……」
やがてアイシャのメッセージが終わると、リアもカメラに向けて言った。
「アイシャは貴女の望みを果たす決意で頑張ってます。どうか安心して下さい」
それからレムテネルがインスタントカメラでアイシャの写真を撮る。リアはその写真を、ビデオにストラップのようにリボンで結び、保護の為にバックに入れた。
「最後にもう一度、女王様の為に祈ろう」
リアはバックに手を当て、祈りを込める。アイシャも同じように、バックに手を当てて目を閉じた。
リアは隣にアイシャを感じながら、祈った。
(ここにきて神の臨在する世界を知った。神が全能でないと識った。神の為に人が出来る事があるとも解った。
ジークリンデの心の為、アイシャの想いが届くように……!)
想いを込めて、意識せずに手に力が入った時、指先がアイシャの手と触れた。
思わずリアは真っ赤になり、身じろぎする。だがアイシャが祈りを終えるまで、懸命にその場にとどまった。
祈りが終わると、リアは大あわてで持参してきたドーナツの箱を出す。
「そーだそーだ、忘れてたっ。土産にミスドのドーナツを持ってきたんだ」
「まあ、こんなにいっぱい」
アイシャが大量のドーナツに目を丸くする。
「甘いモノ食べれば、リラックスすると思ってな」
「では、いただきます」
ドーナツを食べ始めたアイシャに、リアがにやっと笑う。
「一度に食べるなよ。太るからな」
「み、皆さんと分けますから! ご心配なくっ」
アイシャの元を辞した後、レムテネルはふたつのテープを用意した。
一本は使節団への提出用。「よい旅を」と一言書いたカードを添えて、使節団に提出した。
もう一本は、後にアイシャにプレゼントする為のものだ。
アイシャが戴冠して、国家神たる女王になれば、それは人としての最後の姿になるだろう。
だからこそレムテネルは、それを残しておいてあげたかったのだ。