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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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高根沢 理子

 西シャンバラ代王高根沢理子(たかねざわ・りこ)の元には、彼女の影武者を務める酒杜 陽一(さかもり・よういち)が来ていた。
 だが……
「ジークリンデに皇帝の眼を埋め込む……?!」
 リコは一気に青ざめた顔で聞き返した。陽一は厳しい表情でうなずく。
「『命さえあればどうにかなる』と理子様は仰いました。しかし陛下の命が尽きれば、その望みも終わってしまいます」
「でも……だって……そうなったらジークリンデは大帝の操り人形に……」
「私の考えと行動が、陛下の御意志に反しているのは覚悟しております。陛下を救う確証がある訳ではないし、陛下を一層苦しめる結果になるかもしれません。
 しかし、たとえ大帝の操り人形になってしまったとしても、生きていれば望みは残ります。その御命と大帝の操り人形としての呪縛からアムリアナ様をお救いする機会が巡ってくるかもしれませ。その為には、大帝の眼の移植による延命を要望するしかないのではないでしょうか。
 理子様、どうか御決断ください」
 それが辛い選択になるのは分かっていたが、それでも陽一は彼女の為を考えて、頼み込んだ。
 リコは拳を握りしめ、搾り出すように声を出した。
「だけど……そうなったら今、皆が必死に成し遂げようとしてる建国はどうなるの……?」
「大帝に操られた陛下が敵として立ちはだかった際には、私が身を呈して陛下をお止めする覚悟です」
「だってジークリンデが……ネフェルティティさんがおかしくなってた時のような、ダークヴァルキリーのようになったら、そんな事じゃ、きっとすまないよ? またシャンバラが割れて……滅ぼす戦いになるかもしれないのに……そんな事を認める訳にはいかないわ」
 いつになく、かたくなな代王を、陽一はなんとか説得しようと試みる。
「理子様、まだそうと決まったわけではありません。陛下の為に……」
「私だって、ジークリンデに生きてて欲しいわよッ!!!」
 リコが叫ぶように言う。
「でも、ジークリンデの意思を無視して……皆の努力を無駄にして、シャンバラに関わる大勢の人たちを危険にさらすなんて……できないじゃない……」
 彼女の声は徐々に弱くなっていき、その瞳からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
 陽一は言葉をなくして、彼女の背を抱く。
 その時、彼女達におずおずと声がかかった。
「あの……どうなさったのですか?」
 ドーナツの箱を持ったアイシャだった。リアにもらったドーナツを分けようと来たのだろう。
 二人から話を聞いて、アイシャは先程のリアの話を思い返す。
「確か……陛下が亡くなるか、大帝の操り人形になるか以外に、陛下や陛下を想われる方の御心を救う方法があり、その為に使節団は陛下へのメッセージを集めているとお聞きしましたが……」
「そんな美味い話があるの?」
 アイシャは記憶を巡らせる。
「使節団の特使の方……お名前は……そう、サイオンさんという方が、その計画の責任者という話でした」
「さ、砕音先生?!」
 リコは驚き、周囲のスタッフと相談する。


 空京で帝国行きの準備中だった砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)は、代王直々と聞いて、かしこまって電話に出る。
「これはこれは代王陛下、大変おいそ…」
「先生! ジークリンデが助かるかもしれないって本当ーッ?!?!?!」
 砕音はキーンと耳が鳴るのを、頭を振ってどうにか払おうとしつつ答える。
「……メッセージの集まり具合にもよりますし、人々が望んでもいない事を実現する事は不可能ですし、確実にできるという訳ではありませんが……」
「どっち?!?!?!」
 砕音は大きくため息をついた。こういう時でも礼儀にのっとって話を進めるには、代王はまだまだ未熟なようだ。砕音は口調を変える。
「おまえの覚悟と努力が必要だ。やる事やって、最後に祈れ」
「お……おう」
 引きづられて変な口調になる代王に、砕音はしれっと言う。
「さて、こちらの電話は最初から録音させていただいていたのですが、これまでの会話をメッセージとしてよろしいでしょうか? それとも、新たにお言葉をいただけますか?」
「……新たにって事で」