薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション公開中!

シャンバラ独立記念紅白歌合戦
シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション

 
「セイニィ、歌詞覚えたか?」
「ちょ、ちょっと待って。もう少し、もう少しだけ待って!」
 出番が迫る中、扉の向こうから声をかけてきた牙竜へ、慌ててセイニィが返す。
 言葉とは裏腹に、歌詞の方はもう十分頭に暗記していた。ただ、先ほど言われた言葉の影響が、牙竜と面と向かって会うことを躊躇わせていた。
(け、け、結婚ってさあ……! あぁもう、余計意識しちゃうじゃないっ)
 ぶんぶん、と頭を振って、セイニィが息を整える。
 今日は、シャンバラの統一を祝う式典。シャンバラ王国の成立は、女王の悲願でもある。
(……そうよ、あたしたちが一番、喜んであげなくちゃ。
 だから、まずはステージを全力でやり切る! そして、全部終わった後で牙竜を捕まえて、話の決着を付ける!
 頑張りなさい、セイニィ! あんたになら出来るわ!)
 自分を鼓舞するように呟いたセイニィが、キッ、と顔を上げる――。
 
「お待たせ! さ、行くわよ!」
 『メトロック』の時に着せられた衣装を再び纏い、セイニィが元気に出てくる。
「よし、行こうぜ!」
 牙竜と頷き合い、先に舞台袖で待機していたリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)と合流する。
「セイニィ、大丈夫? 緊張とかしてない?」
「ええ、もう大丈夫。……ま、こんな大勢の前に出ることになって、緊張しないなんてウソだけどね」
 あはは、と笑うセイニィに、リリィもあはは、と笑って、そして口を開く。
「私も、最初は苦手だったけど……みんなが喜んでくれる、笑顔になってくれる、そんな、とても難しいことが出来た時、すごい充実感を感じられるんだ。
 東西問題の時はみんな、どこかピリピリしてたから……空賊の時のセイニィとフリューネさんの関係みたいにね。
 今はフリューネさんといいライバル関係でしょ? 切っ掛けがあれば、いい関係ってできると思う」
「そうね……あたしもそう思うわ」
 今はカナンに活動の拠点を移しているはずのフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)、彼女とセイニィの関係は決して順風満帆ではなかった。しかしそれも、一つのきっかけを得、今では互いを友として、そしてライバルとして認めるまでになることが出来た。
「セイニィの歌ならきっと、切っ掛けになると信じてるから」
「あはは……そこまで言われちゃ、やるしかないわね。
 歌はあたしに任せて! あんたも演奏、頑張ってね!」
 ベースを携えたリリィを、セイニィが労う。
「さあ、次は『TTS』メンバーの一人、セイニィ・アルギエバの登場です!
 曲は『Start running』、それでは、どうぞ!」

 ステージから、エレンの紹介が入る。その声を受けて、一行がステージへと上がる。
「カード・インストール!」
 その掛け声で、灯が魔鎧の姿に変わり、牙竜と一つになって『ケンリュウガー』へと変身する。
「さあ、オン・ステージです!」
 ドラムセットの前に座ったリュウライザーの、メモリープロジェクターが光のステージを作り出す。響くドラムセットのリズムに乗って、牙竜とリリィのギターコンビが音楽を爪弾く。
「付いて来なさい、遅れるんじゃないわよ!」
 マイクを握ったセイニィの、駆け抜けるような歌声が響き渡る。
 
 孤独に戦ってる 側に誰もいなくって
 一人ですべてができると信じていたころ
 夜空は灰色に見えて
 
 差し出された手の温もりが怖くて
 けれど、忘れなく握り返した瞬間
 雲が晴れ、Algieba(アルギエバ)を見れば星が集ってた
 
 Get ready
 夜空を切り裂いて
 大切な人を取り戻すに共に走り出せ!
 
 傷つく痛みは恐れない
 本当の痛みを胸に秘めて振り上げた手に
 願いを込めて叩き付ける
 
 Start running
 走り出せ! 夜空を切り裂くように
 Start running
 ゴールで待ってる人のところへ!
 Start running
 
 そして……ゴールで待ってる笑顔へと飛び込もう
 朝日の祝福の中で……

 
「セイニィ様、どうぞ!」
「ちぇすとーっ!」
 
 歌い終えたセイニィが、リュウライザーの指し示すシンバルを軽々とした身のこなしで蹴り上げる。
「っと! ……よし、大丈夫。マズイところは写ってないはず」
 その様子を撮影していた政敏が、ギリギリのところでぱんつ(まあ、見たところそれはおそらくレオタードであり、ぱんつとは言わないだろうが)をフレームから外す。スカートから目いっぱい覗く太腿が、健康的でありつつ扇情を唆るのは、セイニィ所以であろうか。
「聞いてくれてありがとー!」
 響く万雷の拍手に応えたセイニィが、振り返ると同時、素早い身のこなしでステージを駆ける。
「あっ、セイニィ!?」
「ゴメン、牙竜! あたし、やることがあるの!
 話なら後でちゃんと聞くから!」
 引き止めようとする牙竜に一瞬振り向いて答え、振り返ってセイニィが別の控え室へ駆け寄り、扉を叩く。
「お疲れさまです。もしかしたら来てくれないのかと思いましたよ」
「せっかく誘ってくれたんだもの、その好意は受け取るわよ。
 準備の方は出来てるんでしょうね?」
「ええ、万事抜かりなく。衣装はあちらに用意してあります」
 出迎えたシャーロットが示す場所へ、セイニィが衣装を脱ぎ捨てつつ移動する。シャーロットが女性だからというのもあるが、互いにそれくらいの気兼ねの無さは持っていた。
「……はい! どう、ちゃんと着れてる?」
 脱ぎ散らかされた衣装をシャーロットが回収したところで、新しい衣装に着替えたセイニィが振り返り、シャーロットに確認を促す。黒を基調とした、やや格好いい系の続いて魔法少女姿に、自身も白の魔法少女姿のシャーロットが満足気な笑みを浮かべる。
「ええ、とてもお似合いですよ、セイニィ」
「ありがと。……はぁ、急いで来たから、少しは時間出来たかな? 歌詞の確認しなくっちゃ。
 ……そういえばあたし、この歌のタイトル聞いてなかったわね」
 歌詞の書かれた紙を広げながら、セイニィがふと思ったことをシャーロットに尋ねる。
「ステージの最後に、お教えしますよ。それまでは秘密ということで」
「ふーん、ま、いいわ。分かるんなら、その時に聞かせてもらいましょ」
 呟き、紙に目を落とすセイニィから視線を外して、シャーロットが心に呟く。
(……先に歌われてしまった以上、今更隠しておく必要はないかもしれませんが……)
 それからしばらくして、スタッフがスタンバイの旨を告げるのに合わせ、二人はステージへと繰り出す――。
 
「次は……あら、セイニィ・アルギエバの続けての登場です!
 曲は……え? 後で? はい、了解しました。それでは、どうぞ!」

 何やら不思議な間の取り方をしつつ、エレンが出場者を紹介し、そしてセイニィとシャーロットがステージに立つ。
 シャーロットが作った曲を、バックバンドが演奏する中、二人の歌声が響く。
 
 偽りの記憶 信じるままに 駆け巡る迷宮(ラビリンス)
 立ち向かう 全てをつらぬく 流星(シューティングスター)
 
 覚醒(めざ)めた真実 瞳(め)を逸らさずに 振り返ることもなく
 真っ直ぐに 絆を信じて あなたのもとへと
 
 届かない声 解けない呪縛 闇の中の天秤(リーブラ)
 熱い想いで 闇を切り裂く 青い爪の獅子(レオニス)
 
 消えていく Fake Night
 生まれゆく True Light
 
 あなたの笑顔を 取り戻せるのなら
 この瞳(め)に光る 涙さえも強さになるから

 
 牙竜のステージ同様、やはり響く万雷の拍手に包まれて、マイクを持ったシャーロットがこの曲名とその由来を語る。
「この曲、『Algieba』は、私がセイニィと出会った頃から、マ・メール・ロアでの決戦あたりまでのイメージを元にしています。……先程のステージに出場された方も、同様のイメージを曲に込められていたと思われますが」
 シャーロットが付け加えるように、続いた二曲はどちらもほぼ同一の想いが込められていた。事前に曲の提出を受けた運営側が、それを見越した上でこの編成にしたことは、二曲が終わってから両方の採点をつけるという方式からほぼ確定のように思われた。
「あたしもビックリしたわよ、つうかあんたたち事前に示し合わせでもしたんじゃないのって。
 ……ま、今それをどうのこうの言うつもりはないんだけどね。あたしとしてはどっちも、気持ちよく歌わせてもらったわ」
 笑顔で告げるセイニィは、心からそう思っているようであった。
 
「おい、どっちかに優劣つけなきゃいけねぇのか? こんなんどっちも満点でいいだろ」
「そ、そういうわけにいかないんじゃないかな? そう満点が出てもよくないと思うし……」
「静香、お前絶対、5段階評価で1と5を付けられないタイプだろ? 日本人に多いんだよな、そういうの」
「そ、そんなことないよ!? それに、それとこれって関係あるのかな?」
 涼司と静香のそんなやり取りが交わされた後、審査員が審査の結果を発表する。
 
 牙竜チーム:
 涼司:9
 鋭峰:6
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:9
 静香:7
 
 合計:47
 
 シャーロットチーム:
 涼司:8
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:9
 ハイナ:7
 静香:8
 
 合計:47
 
「結局引き分けかよ!」
「あはは……うん、それでいいんじゃないかな」
 好勝負を繰り広げた二組の歌い手に、会場から温かな拍手が届けられる。