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リアクション
【5】無明長夜……1
武晴廟。
真なる暗闇の広がる廟の奥。穢れを喰らい人を喰らい、世に仇なす魔物となり果てた剣の花嫁が棲む。
花嫁の名は不浄妃(ブージンフェイ)。元の名は誰も知らず。
長き黒髪を振り乱し、煌々と光る目は深淵を覗き込む。左右比対称の骸の身体を持つ恐るべき怪物だ。
復讐に燃える道士白龍(パイロン)は。師の、仲間の、仇を討つため、果敢にも戦いを挑む。
「符術・乱れ髪! 急急如律令!」
印を切るや道袍の袖から飛び出した無数の護符が不浄妃の身体に貼り付く。
「破っ!!」
途端、符は光を帯び炸裂。
しかしその刹那、彼女の身体から噴出した黒い霧が光を拡散させる。
「これもダメか……!」
息を切らせる白龍。もう長いこと戦っていたのだろう。息は絶え絶え、服はぼろぼろ、もはや満身創痍である。
「またあの時のようになるのか……。あの時の……」
記憶を辿る白龍は突如、激しい頭痛に襲われた。
「な、なんだこの傷みは……!」
その時、光が霊廟を照らした。
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の指輪から飛び出した光の精霊が闇に輪郭をもたらす。
光が照らすは不浄妃の穢れに惹かれるキョンシーの群れ。対峙するのは我らがニルヴァーナ探索隊。
「白龍さん、ご無事でなによりです。お待たせいたしました。さぁ加勢いたしますよ」
「おまえたち……」
その時、澱んだ空気をつんざく悲鳴が霊廟を震わせた。
麻上 翼(まがみ・つばさ)は落ち着きなく手足をバタバタさせ右往左往。
「きゃああああ! きゃああああ!!」
「ど、どうなさったんです? まだ何もされてませんけど、あの……?」
落ち着かせようとするフィリッパ。しかし翼はそれをはね除けて、ジタバタ暴れている。
心霊現象が大嫌いな彼女は明かりの元にあらわれた怪物たちにパニックになってしまったのだ。
と言うか、前回もこんな感じになってた気がする。と言うか、この連続シナリオの間ずっと錯乱してる。
「とにかくまず深呼吸しましょう。それから掌に人と言う字をですね……」
「いや、このままで構わん」
翼の契約者である月島 悠(つきしま・ゆう)中尉がフィリッパを制す。
「ですが……」
「なに、幽霊嫌いが幸いして、あいつの対闇黒防御は鉄壁だ。放っておいても死にはしない」
軍人モードの彼女は硬い表情で言う。
「むしろ、巻き込まれないよう注意しろ」
「はい??」
次の瞬間、翼の恐怖が限界に達した。
ラスターガトリングを発現させるやいなや、ところかまわず乱射をはじめた。
「きゃああああ!! 来ないでよ! 来ないで! きゃああああ!!」
むしろ、きゃああああ、なのは仲間のほうである。
まさか敵の攻撃を避けるより先に味方の攻撃を避けることになるとは。
しかし、それだけの戦果を彼女は叩き出す。無差別乱射はキョンシーを次々に薙ぎ倒し、不浄妃の動きを鈍らせた。
「頼もしい制圧力だ」
悠は飛び交う光弾から身を隠し、グレネードランチャーを発射する。
目標は光弾に倒れたキョンシーたち。頑丈な彼らは例え致命傷を負っても行動不能になるまで戦い続ける。
「一気にここを攻略しましょう……!」
シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)は両の掌を天にかざす。
空間に火花が散った刹那、巨大な火球が出現。敵に向けて開放する。噴き出した炎はキョンシーを押し流す……!
「なかなかの火力だ。半数は仕留めたか」
「いえ、まだ反応があります。完全に灰になるまで油断出来ません」
シャーロットのディテクトエビルに反応が未だ無数にある。ゆらめく炎の中にむくりと起き上がる影が見えた。
「ならば、このまま最大戦力で蹂躙するまで」
悠は後方に控える隊員たちに合図を出す。
「今が好機だ、全軍射撃を集中し、敵を蹴散らせ!」
「うおおおおお!!」
先陣を切る彼女に続き、隊員たちは戦場に雪崩れ込む。
士気は充分だな。しかし、先陣を切る役目だけは譲れん。先頭に立ち、民を護ることこそ国軍の誇り。
「援護は任せろ。全軍前進、このまま突っ切る」
「大ボス前の露ばらいは任せてください〜〜!」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は愛用の『撲殺天使用野球のバット』を肩に担ぐとトコトコ走る。
対するキョンシーは太極拳のような構えを……と説明が終わる前にメイベルスウィングが敵の顔面をホームラン。
即天去私の一撃はキョンシーの頭を粉々に粉砕してしまった。
「あわわ……、ご、ごめんなさい。なんか思ったより威力が……きゃあ!」
とは言え、完全に損壊するまで敵は動き続ける。
反撃に繰り出される正拳をバントの構えで受けるメイベル。持ち前の器用さで攻撃を上手く転がす。
「はいっ!」
突きを下から上に打ち上げて、返すバットで完膚なきまでに粉砕する。
そしてこちらは相棒のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)。
「ふっふっふ〜ん♪」
幸せそうな鼻歌を歌いつつ、カラカラと血濡れのバットを引きずって、キョンシーの前に参上。
なんだか闇黒属性に耐性を得たような気もするが、彼女にとってはどっちでもいい。
何故なら、攻撃を喰らう前に敵を粉砕しているからだ。
「それーっ!!」
バコーンと顔面を粉砕。くるくるとバットを振り回し、次々に迫るキョンシーをボコボコにしていく。
メイベルとセシリアは背中を合わせ構える。
「なんだか大したことないねぇ」
「翼さん攻撃を喰らってますしぃ、半分炎に包まれてますから、流石のキョンシーもボロボロなんだと思いますぅ」
「隊員のみんなに手柄をとられない内にたくさんやっつけるぞー!」
調子に乗ってバットを振り下ろす……と不意にその一撃を止められた。
「あ……、僕、何発殴ったっけ……」
今の一撃には即天感がなかった。軽く出していたが、一撃必殺の大技はそうそう連発出来るものではない。
キョンシーは鋭い爪をセシリアに向ける。
「前に出過ぎですよ、おふたりとも」
フィリッパの斬撃一閃。キョンシーはバラバラに崩れ落ちた。
「あ、ありがとう……」
「とりあえず、うしろに下がって休息を……と思いましたが、直にここは片付きそうですわね」
「問題は奥にいるあれですねぇ……」
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