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リアクション
【5】無明長夜……4
「させねぇよ、デカブツ!」
風祭 隼人(かざまつり・はやと)が2人の前に飛び出した。
「よし、おまえに決めた! 行けっ、武者人形!」
ビシィと不浄妃を指差す。途端、横から高速で突っ込んだ武者人形が怪物の左側面に猛タックル。
衝撃で人形はバラバラに吹き飛んだが、不浄妃は右に大きく押し出された。
「いいぞ、狙いは完璧だ! 地雷の威力、たっぷり味わいな……!」
次の瞬間、隼人が床に仕掛けた機晶爆弾が大爆発を起こした。
「聖化を施した爆弾だ。堪えないわけが……な、なに!?」
不意の一撃も自動展開される霧が防御を行う。爆発は霧の前に用を成さず防がれてしまった。
「今のも通用しないのかよ……!」
「黒い霧か、あれをなんとかしないことには戦いにならないな……」
天御柱学院の柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はポツリと言った。
「攻撃を防ぐっていっても所詮霧でしょ。なら吹き飛ばせばいいじゃない」
「ふん、簡単に言ってくれる」
リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)の言葉にアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が眉を寄せる。
「あんたには無理かもね。私ならできるけど」
「なにを!」
「お母さん、落ち着いて……」
2人に挟まれ、アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)はオロオロ。
「その辺にしておけ。アレーティアは霧を発生させろ。リーラは発生した霧をなんとかするんだ。アニマは弾幕を張れ」
「そりゃ構わんが……」
「真司はどうするのよ?」
「残りの仕事は決まってるだろ。俺は必殺の一撃を叩き込む……!」
3人は頷き、不浄妃に向かった。
「段取りちゃんと分かってる、アレーティア?」
「おぬしこそちゃんと霧をどうにかできるんじゃろうな?」
アニマの弾幕に紛れ、軽口をやりあう2人は接近。
アレーティアは自身の本体となるブレスレット型デバイスを不浄妃に向けた。
光輝くブレスレット、聖化を施し狙いを定める……のだが、弾幕無視で敵はこちらを攻撃してくる。
「うわわっわわわっ!!」
激しく叩き付けられた拳が床を勢いよくめくりあげるため、彼女はごろごろ転がりながら避けるはめになった。
「物理攻撃では弾幕にすらならんか。まぁ、幕も何も目は見えておらんようだしな」
それでも上手く隙を見つけ、デバイスを発動。発射された糸が不浄妃を縛る……とすかさず黒い霧が発生。
「リーラ!」
「了解っ!」
ズサササーっと滑り込んだリーラは芭蕉扇を腰だめに構え、思いっきり振り抜く。
巻き起こる突風が黒い霧を一瞬にして吹き飛ばした。
「もらう……!」
真司はカッと目を見開いた。その身体は青白くパリパリと電気を放っている。
雷術で体内の電気信号の伝達速度を加速。人間の限界を超える身体能力を刹那の時間だけ得る。
床を蹴るや土煙だけを残して、彼は一瞬で不浄妃に肉薄。
このスピードを聖化した聖杭ブチコンダルに乗せ不浄妃の胸に叩き込む。
「うおおおおおおおっ!!」
「オオオオオオオ!!!」
白い肌は杭の刺さった部分から黒ずみ、ボロボロと乾いた砂が崩れるように剥がれる。
不浄妃はこのダメージに霊廟を揺るがすほどの叫びをあげてのたうち回った。
「ちゃ、チャンス……! よし、今度はおまえに決めた、行けっ種モミマン!」
隼人がビシィと指差すと、種もみマンがわちゃわちゃと不浄妃に走った。
ところが、不浄妃は大口を開けて種もみマンを頭から喰らった。バリボリと何かが砕ける嫌な音。
しかし隼人は不敵に笑う。
「いいぞ、種モミマン、自爆!」
その瞬間不浄妃の頭から胸にかけてが木っ端みじんに吹き飛んだ。
実はこの種モミマン。あらかじめ聖化済みの機晶爆弾を飲み込ませてあったのだ。えげつない。隼人マジえげつない。
不浄妃はグッタリと倒れ、背中に刺さったヴァラーウォンドを剥き出しにしたまま、ビクビクと痙攣を始めた。
誰もが仕留めた、そう思った。
「……まだだ! 再生が始まっている!」
白龍が叫んだ。
見れば爛れた不浄妃の傷口が泡立ち、再生が始まっている。光輝によって傷付けられたせいか若干回復が遅いが。
「キョンシーが完全に破壊しないと倒せないように、コイツも完全に破壊しないとそっから再生するのか……!」
隼人は呟き、ヴァラーウォンドを見る。
「もしくはあれをどうにかするか……!」
隼人が駆け出したその時、首下まで再生した不浄妃がピタリと止まった。
取り囲む、真司、リーラ、アレーティア、隼人、白龍ははっと一斉に気付いた。その胸元から発せられる黒い光に。
彼女は剣の花嫁の成れの果て、すなわち彼女自身の光条兵器が存在するはず。
全員が反応するよりも速く、その胸から鎖に繋がれた匕首(ひしゅ)が無数に飛び出した。
真司は高速の反応速度を活かし、リーラとアレーティアをかばう。
「……ぐっ!」
「真司!?」
肩と脚に直撃を受け、鮮血を散らして床を転がる。
隼人は避けきれず脇腹に2本突き刺さった。
「ち、近付き過ぎたぜ……」
付近にいた隊員たちも発射された匕首に巻き込まれ、次々に倒れていった。そして白龍も……。
「しまった……!」
逃げ場を塞ぐ軌道の匕首をかわしきれない。
「五行結界! 急急如律令!」
ふと背後から声が上がった。白龍の頬をかすめ、無数の護符が前方に張り付く。
展開された見えない壁に匕首は弾かれた。
「こ、この技は!?」
白龍は驚いた様子で振り返った。そこに立っていたのは深紅の外套を纏う男……暗殺者・九龍。
「師兄……」