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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

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【創世の絆・序章】未踏の大地を行く

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15.劇〜【魔法少女 マジカル☆たいむちゃん!】・3場? 悪の魔法少女ラジカル★ほろうちゃん・その開幕と終焉〜

 舞台上に現れた月詠司(つくよみ・つかさ)……もとい、奈落人サリエル・セイクル・レネィオテ(さりえる・せいくるれねぃおて)に憑依された月詠司は、「悪の魔法少女ラジカル★ほろうちゃん」として、たいむちゃんの前に現れた。

 その姿は黒基調のミニワンピース、上から白基調のミニジャケットと帽子、更に黒基調の腰マントと言う格好で、外見は「ちぎのたくらみ」でもつかったせいか、9歳の子供になっている。
 だが不気味な魔法少女の格好をしているとはいえ、彼は男であり、しかも執事――いわば「魔法執事少女」であった。
 
 ちなみにこの司の格好は舞台前にシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)から無理やり飲まされた「タルタル特製・気付け薬」の効能のためであるが、そんなことは演劇要員どころか、当の本人すら全く知らぬことである。
 
「さ、アッシュ君達、ここから先は我々の舞台だからね?」
 どうどう、とたいむちゃん以外の要員達を下がらせ、彼等は何もない舞台に立つ。
 
「そうだ、たいむちゃん!
 ひとつたずねてもいいかな?」
 シオンがたいむちゃんに近づいた。
 たいむちゃんが振り向く。
「ここにいない、パートナーのサリエル・セイクル・レネィオテって奈落人がね。
 不思議なことに、たいむちゃんと同じような石を持っているのよ。
 紫色に輝く菱型の結晶体なんだけどね?」

 サリエリの中で、司が囁く
(確かにたいむちゃんのに似とるなぁ〜
 ……あぁ〜、でもサリエルっちゅうたら寧ろ熾天使の名前やし…
 翼やったらきっと記憶を取り戻せば生えてくる♪
 ならいっそ、たいむちゃんに
『ハーフが存在したか、その可能性はあったか』
 聞いてみたらええやん♪)
(っははっ……その推理は少し強引だと思うよ)
 サリエルは苦笑して、紳士的な見解を述べる。
(だがそうだね……興味は沸くし……)
 サリエルはシオンにゴニョゴニョと囁く。
 シオンは、あっはっは、と手を叩いて笑った。
「確かに似てるわね……解ったわ♪
 サリエルが奈落人なる前は、きっとニルヴァーナ人と熾天使のハーフだったのよ♪
 いま、たいむちゃんにきいてあげるわ」
 シオンはたいむちゃんに向き直る。
「ねぇ聞いたでしょう? ハーフの可能性ってあるのかな?」
 たいむちゃんは力なく頭を振った。
「……わからないわ。私、ニルヴァーナにいた時は、まだ子供だったから」
「そうなんだ、じゃ、しかたないわよね?」

 ■
 
 話が一段ついたところで、司達はようやく劇をはじめた。

 ■
 
「おお、その前に……そうだ!
 我々は、強引に始めてしまったのだからな。
 観客の皆様に、まず自己紹介でもせんといかんかな?」

 司――ではなく、司を乗っ取っているサリエルが観客の立場になって、役の紹介を促した。
「まず、私だ。
 私の名前は『奈良那ほろう』。
 ここにいるシオンの親戚の子にして、彼女の忠実な執事。
 だが、その実態は『魔王・サリエルに魔法少女のチカラを与えられ、性別を少女に変えられ、暗示を掛けられ、操られている憐れな男』。
 シオンとは当然、縁もゆかりもない赤の他人だな」
「つぎは、ワタシね?」
 シオンはぺこっと頭を下げる。
「私は、『奈良邦シオン』。
 学校の生徒会長さんにして、お金持ちのお嬢様にして、ほろうの主。
 ほろうのことは「親戚から預かっている子」って思いこんでいるけど、実はこれ、魔王の暗示によってそう思い込まされているだけなの♪
 酷いと思わない?」
 観客が笑う。
「まあそうやって、ワタシは魔王にほろうちゃん経由で日々利用されている、って訳ね。
 じゃ、その魔王・サリエルはどこにいるのだろうか、て?」
 シオンは仲間との打ち合わせ通り、ほろうの肩にとまる使い魔のカラスを指さした。
「これが、サリエル。
 こうして、ワタシとほろうちゃんは、永遠に解けない暗示をかけられて、サリエルの欲望のままに利用されているの♪
 例えば、こんな風に!」

 ぱちっと指先を鳴らす。
 
 バラバラと自分の従者達である文学少女2名と事務員3名が、たいむちゃんの周囲を囲む。
「彼等はサリエル配下の魔物に憑依されて操られている、可哀想な学生達!
 そして、ワタシも……っ!!!」
 
 いきなりうつろな目。
 たいむちゃんをガシッと掴んで拘束する。
 
「ぐふふふ、それではたくさんいけないことして、
 盛り上げてやるとするかな?」
(……て、司が言ってるだけなんだけどね?)
 司はふふっと笑った。
 薬の影響で、妙に強気なセクハラ魔王になっている「本当の司」は、正直面白過ぎる、とサリエルは思う。
 というわけで、自分の体では到底できないことも、これは「司」が望んだことだから、と「是非やってあげる」。

 というわけで、強気な「司」に命じられるままに、
 良い子には見えない(サイコキネシス)や、
 イタズラな風(真空波)で、
 くすぐったり、服だけ破いたりとセクハラしつつ戦う。
 
「げえ、あれマジじゃねぇの?」
 さすがにこんなところでたいむちゃんをストリップ……じゃなくて、いじめさせる訳にはいかない。
(そんなことをしたら、今までの皆の想いが水の泡になってしまう!)
 というよりモラル上、そんなことは許されない。
 アッシュは舞台に向かって、大きく両手でバツを作ってた。
 だが、司達は幕を下ろさない。
「くっそー、あいつら!!!」
 アッシュは演劇要員達を引き連れて、一気に舞台を目指す。
 
 ジャカジャーン!
 ジャカジャカジャッジャーンッ!!
 
 不吉なBGMが流れる。
 その途端、司達2人はいつの間にか眠りこんだ。
 
「捕らわれざるもので近づいて、耳元でヒュプノスの声で子守唄でおやすみしてもらったです〜」

 ヴァーナーは司達をとズリズリとひきづって退場させる。

 暗転。

 ■
 
 次の瞬間、楽屋裏では司がボコボコにされる音がする――。
 ついで、よかったわねー、というシオンののんびりとした声。
 
「たいむちゃんのストレスを発散させてあげて、
 皆の言葉を素直に聴ける状態にするのがワタシ達の役目だもの♪
 よかったわね? 『薬』のお陰で達成できたみたいで……て、あれ〜?
 司君、永遠に眠ちゃった?」