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リアクション
第二章 ゲルバッキーと娘と時々息子 4
ところで、「剣の花嫁」という種族名に違わず、多くの「花嫁」は女性型である。
だが、実際には男性型の「剣の花嫁」がいることも、また事実であった。
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)のパートナーであるエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も、その一人である。
「エオリア、今回も来てくれて助かる」
「いえ、エースもシェルターの中に興味があるようで、すごく乗り気でしたから」
彼がそう話を振ると、ゲルバッキーはエースの方に向き直ってこう言った。
「ありがたい。婿殿も、今後ともどうかよろしく頼む」
「いや、婿殿って……」
エオリアも男なんだが、と言いかけたエースだったが、何しろ相手はゲルバッキーである。
下手にここで訂正などしようものなら、今度は自分の側が「嫁」にされかねない。
それよりは、エースの心情的にも、そしておそらく端から見た場合のイメージを考えても、エオリアが女性扱いされる方がまだ被害は少なくて済むだろう。
そう考えて、エースはあえてこれを訂正しないことに決めた。
「……ああ、いや。わかった、任せてくれ」
エオリアがちょっとショックを受けたような顔をしていたが、まあ、これは必要な犠牲というものであろう。
と、そんなことを考えていると、そこへさらに二人の人物がやってきた。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、そのパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)――彼もまた、エオリアと同じ男性型の「剣の花嫁」である。
もっとも、彼自身はその呼称をひどく嫌っているのだが。
「おお、ダリルか。久しぶりだな」
ゲルバッキーの呼びかけに、渋い顔をするダリル。
彼に代わって、ルカルカがこう尋ねた。
「あれ? ということは、ダリルってやっぱりゲルバッキーさんが?」
「ああ。ダリルも私の娘の一人だ」
そのゲルバッキーの答えを聞いた瞬間、ダリルが即座にそれを否定した。
「自分で男性型に作っておいて娘はやめろ!」
「そうですよ、お父様。僕たちをこの姿に作ったのはお父様じゃないですか」
我が意を得たり、とばかりにエオリアもそれに乗っかる。
「全く、だから会いたくなかったんだ……今度娘呼ばわりしたら蜂の巣にしてやる」
そう言いながらゲルバッキーに光条銃を突きつけようとするダリルだったが、これはさすがにルカルカが素早く制止した。
「わかったから、ダリルも少し落ち着いて、ね?」
すると、ゲルバッキーはそんなダリルとエオリアを交互に見つめ、遠い目をしてこう言った。
「そうか――男になっても、お前たちが私の子供であることに変わりはない」
これでは、まるで「性転換して男になってしまった娘を見る父親のセリフ」である。
「男になったんじゃなく、最初から男だったんです!」
「いいんだ。すまなかったな、気づいてやれなくて」
なおも食い下がるエオリアと、何かを達観したような表情のゲルバッキー。
「放せルカ! やっぱりこいつはこの場で蜂の巣に……!」
「ダリル! 落ち着いて、落ち着いてったらー!!」
この斜め下な対応に本気で怒りを露にするダリルと、それを懸命に止めるルカルカ。
そんな様子を見ながら、エースはふとこんなことを考えていた。
(ああ、普段ならそろそろお茶の時間だったかな……?)
まあ、想像を軽く数段上回るカオスを前にしては、逃げたくなるのも全く無理はないと言えよう。
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